初めましてと、
なんと言うか、ついていないなぁ、と思った。突然現れたKOZAKA-Cが私目掛けて一直線に向かってくる。何とも反応の鈍い私は、ヤバい、と頭が警告するものの身体は動かず呆然と立ち尽くしていると、もうあっという間に目の前。あぁ、痛いのは嫌だな、と思いながら、ぎゅ、と目を閉じ、身を固くする。でも、痛みはやってこなくて、あれ、と思いながらゆっくりと、閉じていた目を開けると、目の前には背中。見上げると、バチバチと電気を帯びた人がKOZAKA-Cを捕まえている。そのまま鷲掴みにしたKOZAKA-Cをブンッと勢い良くぶん投げてその人はこっちを見た。
「大丈夫か?」
上から降って来た声に顔を見上げるけど、マスクで顔が隠れてて殆ど表情は分からない。慌てて「大丈夫です」と答えると、その人は「早く避難しろよ」とだけ言い残して去っていってしまった。あれが噂のヒーローってやつか、とぼんやり背中を眺めながら、身長が高くて大きな人ってちょっと怖いな、と思いつつ避難場所へ向かった。
あれから数日後、またKOZAKA-Cにあったら怖いな、などと考えながら同じ道を歩いていると「お姉さん」と後ろから声を掛けられる。振り返ると見覚えのある姿。あの時のヒーローだ、と直ぐに気づいた。
「どうも、あの、先日はありがとうございました」
「どういたしまして。あの後大丈夫でしたか?」
「はい。ちゃんと避難出来ました」
「それなら良かったっす」
この前は怖そうな人だな、と思ったけど、そうでもないかもしれない。やっぱりヒーローだし優しいんだろうな。助けた人を覚えてるみたいだし、こうやってわざわざ声を掛けてくれて、しかも身長の低い私に合わせて少し背中を丸めて話してくれているところとか、良い人だ。
「俺、ここの地域のパトロール担当になったんで、困った事があったらいつでも声掛けて下さいね」
ニカッと笑うヒーローさんはなんだか眩しくて、少し惹かれた。
それから出不精の私が出歩く度にヒーローのお兄さんに遭遇する様になった。買い出しに行った時とか、病院に行く時とか、遭遇する度に声を掛けてくれるヒーローのお兄さん、名前は宇佐美リトくん。うさみくんと仲良くなるのに時間は掛からなかった。なんでもゲームとミュージカルが好きらしい。ミュージカルは分からないけど、ゲームなら私も好きだよ、と言うと今度発売するゲームが楽しみだと言う話題で盛り上がった。私もそのゲームは楽しみだったので話題に乗ると、それなら発売したら一緒に遊ぼうと言う事になり、連絡先を交換した。もう既にこの時にはうさみくんにだいぶ惹かれていた私は、帰ってから、連絡先を交換してしまった、とひとりドキマギしながら、スマホの画面を見つめた。
うさみくんのことを知るようになってから、どんどんどんどんうさみくんを好きになっていく。でも、うさみくんは若いし、私なんか選ばないよな〜と、ぼんやり考えていると、うさみくんが「ひなさん」と名前を呼ぶ。顔を上げてうさみくんを見ると、少し心配そうに「悩み事?」と聞いてくれる。
「ううん、ちょっと考え事してただけ。ありがとねぇ」
「なんかあったらすぐ相談してくださいね」
本当に、うさみくんは優しいなぁ。さぞモテるだろう。世の中にはうさみくんを好きな人がいっぱいいて、私よりも良い人がいっぱいいて、その人と幸せになって欲しいなぁ、なんて考えてしまう。好きな人と幸せになりたい、よりも、好きな人が幸せになってくれた方が、私は幸せなのだ。……でも、うさみくんとお話するこの時間が無くなっちゃうのは嫌だなぁと思いなからうさみくんを見上げると、ぱち、と目が合う。ちょっぴり眉を下げたうさみくんが「ねぇ、ひなさん」と私の目を見る。
「俺、ひなさんには笑ってて欲しいからさ、なんかあったら言って欲しい。些細な事でも、何でも。俺が解決出来なそうな事なら誰か呼ぶし、たくさん頼って欲しい」
胸がきゅーっと締め付けられる。あぁ、好きだなぁ。
「ちょっとね、うさみくんとお話するの楽しくて、ずーっとこれが続いたらいいのになぁ、って思っちゃった」
「いくらでも話すよ。ひなさんが嫌って言っても話す」
「そんなに?」
「そんなに!」
ケラケラと笑っていると、うさみくんが「ひなさん」とまた名前を呼ぶ。
「なぁに?」
「好き、って言ったらどうする?」
「……へ?」
うさみくんの言った言葉が理解出来ずにきょとんとしてしまう。今なんて言った? 好き? え? 都合のいい聞き間違いかも知らない。今だって私浮かれてるもん。そう思って聞き返そうと思ったのに、うさみくんが真っ直ぐ私を見つめて「ひなさんが好きです」なんて言うから、じわじわと顔が熱くなる。慌ててうさみくんから目を離して「えっと」と場繋ぎの言葉を紡ぐ。どうしよう、どうしたらいいんだ、と思考を巡らせるけど何も考えられなくて、もう一度うさみくんを見上げると、じっと私を見つめているうさみくんが居て……
「返事、聞かせてよ」
ドクン、ドクン、と心臓が鳴る。あぁ、どうしよう。こんな筈じゃなかったのに。うさみくんへの恋心は隠して、うさみくんは私よりも良い人を見つけて、幸せになるはずだったのに。でも、
「すごい、うれしい……」
じわ、と目頭が熱くなる。やばい、泣きそう。
「私も、うさみくんのこと、好きです」
震える声でそう言うと、うさみくんが「っはぁ〜……!」と息を吐く。そしてぎゅっと私を抱きしめると「よかった」と小さな声で呟く。ちょっぴり震えてるうさみくん。すごく緊張してたんだ、と思うと「ふふ……」と笑ってしまう。うさみくんの背中に手を回して、ぎゅ、と抱き着く。
「ひなさんちっせぇ〜……」
「あはは!うさみくんがでっかいんだよ!」
抱き着いたままうさみくんを見上げると、うさみくんも私を見下ろしていて、ふたり視線がぶつかり、どちらとも無くふたり笑い合った。