福音


鎮魂歌、或いは福音

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ゆりかごを読んでいると二倍楽しい話です

A
現状の「竜胆くんがいないと生きていけない」と自覚したリコだったら竜胆くんが誰かに殺されたら発狂してその誰かを殺した後に自分も首掻っ切って死ぬぐらいのことをその場でやらかすんですが、竜胆くんは12年間ずっと「お前の計画をぶち壊した上でいつかお前を殺す」とその機会を伺っていました

マンジローを逃がしたのは義弟に向ける情もありますが稀咲の計画にヒビを入れるためでもありましたし、警察に情報を流し続けていたのはいつか必ず内側からぶち壊してやろうということでもありました。最後の方で急がないと自分も花垣も殺されると思っていたのはそろそろバレるなと感じていたからです

実際に竜胆くんが警察に情報を流していることもマンジローを逃がしたことも稀咲は既に掴んでいたので、出会い頭に後ろから致命傷を与えたのは良い判断でした。イザナは「三発の銃弾」「竜胆が殺した」「竜胆の愛する女で鶴蝶の姉の仇」で完全に正気に戻ってしまっています。記憶の蓋が外れました

マンジローが死んで12年ぶりにきょうだいを喪ってからは正気に戻り掛けてはいたので、福音後に続く鶴蝶くんとの逃亡生活ではずっと正気のまま泣きながら懺悔しているはずです。鶴蝶くんはこれまでの竜胆くんの情報のリークには気付いていて目を瞑っていました。その気持ちが分かってしまうので

B
ゆりかごのリコは全身に竜胆を彫りましたし、福音の竜胆くんは十二年間片時も離すことなくラピスラズリのネックレスを持ち歩いていたので、結局似たもの同士の二人です

C
大寿くんと竜胆くんはわりと長い付き合いです。作中で触れている通り連絡こそ滅多に取り合ってはいませんでしたが、お互いが生きているかどうかぐらいは気にしていました

D
ゆりかごリコは「自分は地獄に落ちる。竜胆くんにはもう二度と会えない」という思考をしていましたが、福音竜胆くんは「自分は地獄に落ちるけれど、そこにリコは来てくれる」と思って死んでいきました。来てくれます。というかずっとそばにいました

実は死んでもずっとそばにいるんだよ……なんて描写入れても興醒めなので入れていませんが、本当にずっとそばにいます。目覚めの地獄の中でも、叱ってもらうためだけに約束を破り続けた間も、リコはずっと竜胆くんのそばにいました。文字通りずっとです

ラピスラズリを持って死ねばリコは地獄でも見つけてくれると竜胆くんは考えていましたが、別にそんなことする必要もなくずっとそばにいたので、もうずっと前から見つけています。一話でリコを見つけたのは竜胆くんでしたが、それからずっとリコは竜胆くんから目を離したりなんてしなかったので

E
リコはもうイザナを庇って撃たれた時点で致命傷で助からないことは確定していたので竜胆くんの腕の中で死ぬことが出来ました

F
度々福音竜胆くんが「呪いじゃない」だとか「そんなこと思ってもいなかったくせに」みたいなことを言っているのは実際的を得ています。リコは死ぬ直前に「忘れないでほしい」「そばにいて」「私だけを想っていて」と願ったものの、臆病さが出てきてそれを口に出せませんでした

なので本当に、約束と言うよりかはお互いにかけた呪いに近いです。でも約束の形をしていたし最後に遺せた願いではあったので、一応約束扱いになります

G
ゆりかごリコは「竜胆くんの腕の中で眠りたい」と願い、福音竜胆くんは「リコがオレの腕の中で目覚めてくれますように」と祈りました

H
どうしてシンイチローくんもリコもエマちゃんも殺されたのにイザナとマンジローは稀咲の言いなりになって原作通りになってたの?と言いますと、二人とも立て続けにきょうだいを喪って頭がおかしくなってしまったからですね。最初は持っていた反抗心や敵愾心もリコが死んだ瞬間に弾けました

特にリコとエマちゃんは二人の目の前で愛した男に言葉を残してゆっくりと死んでいったので、イザナとマンジローはどれだけ気が狂っても「リコとエマがそれぞれ愛した男たちと結婚して子供も出来て幸せになれていた未来」を想像することをやめられないです。悲しくて苦しいね

そこからはイザナとマンジローは共倒れするしかなくなってしまいましたし、リオも共倒れこそしなかったものの有り得たはずの兄と妹たちとの幸せな日々を願って生きていました。鶴蝶くんはそばにいてイザナを支えることを選びはしましたが、叩いて治すのではなく地獄まで寄り添う形です

I
ゆりかごリコと福音竜胆くん、度々互いの美しさに言及しているのがツボです

二人揃って死ぬ前に有り得たはずの未来に思いを馳せているのもまたポイントのひとつです。二人が望んだのは結局お互いのそばで生きていくことなので

J
正直な話、竜胆くんに出会っていなければリコは強さを求めたりしなかったので必然的に佐野道場に通いたいとも言い出さず、マンジローやエマちゃんとも出会わず、どの未来でも死ぬか病んでいるかなんてことにはなりませんでした。竜胆くんと出会って強さを望み、そのそばで生きていたいと願った結果です

でも度々触れている通りリコと竜胆くんは運命のふたりなので、たとえあの日出会わなくとも必ずどこかしらで巡り会って互いを愛するようになりますし、そのそばで生きていくことを望みます

K
福音竜胆くんはリコの望むことをしたいと思っていたのでマンジローをフィリピンに逃がしましたし、最後もイザナと鶴蝶くんを逃がそうとしています。きょうだいたちのために死んでいったリコのきょうだいたちに向けていたひたむきすぎる愛を憎んでもいますが、結局その全てを愛しているのでそうしました

L
当初の構想だと梵天竜胆くんとリコでこれを書きたかったんですが、色々考えてみたところここでぶち込んだ方がいいなと判断したのでこんなことになりました