6.羊とテーマパーク
名前の提案通り、私達は『ボルィズニーランド』へやってきた。ボルジニアで最もメジャーな森の仲間達をテーマにした施設で、観光客の90%はここで遊んでいく。「ボルィズニーで遊んで生き返れ」という言葉が作られるほどだ。
切り替え早すぎだろと狼に言われたが、休暇を説教で終わらせるなと言ったのは君だろう。それに来月から社会人ならまだ準備に余裕がある。だったら今日くらいは遊びに使っても問題ないはずだ。名前もそれを望んでいたしな。
さて何から乗ろうかと聞くと名前がマップを指したところはジェットコースター。いきなりハードルが高いな。メガネが飛ばないように気を付けなければ。
二人で一列という席順の為、私は狼と名前を一緒に座らせようとしたが、狼が遠慮するものだから私と名前が一緒に座ることになった。名前の話によると、このコースターは落ちる瞬間に撮影をしてくれるらしい。変な写真を残されないようにしなければ。ゆっくりと登頂部まで来て、いよいよコースターは一気に下った。
「きゃあああああっ!!」
「……くっ!」
「ウオオオオオオン! アオオオオオウ!」
後ろから犬の遠吠えのようなものが聞こえてきて、私は笑いを堪えるのに必死だった。だから私も名前も隣に座らせなかったのか。この一瞬の間にフラッシュで照らされ、どんな写真が撮られたのか気になって仕方がない。コースターを降りると名前は楽しそうに笑っていて、狼は既に満身創痍だった。君、こういうの苦手だったのか。
「なんか犬……みたいな鳴き声聞こえなかった?」
「そうかな、私には聞こえなかったけど」
「狼さんは?」
「お、応……聞こえなかったぜ……」
「名前、それより写真を見よう」
雑な誤魔化し方だが名前は「そうだった!」とすぐに写真が表示されている画面の方へ走っていった。悪いな、と狼が私に小さく礼を言ったので、これで今朝の借りは返せたと思う。
名前が私達を呼ぶので、傍に行き一緒に画面を確認をする。画面上の名前は降りた時と同じ笑顔を携え、狼は大口を開けて吠えているような顔で、私は無表情のまま少し間抜けに口を開けていた。風に煽られ乱れている髪がまた笑いを誘う。
「お前……こういう時くらい笑えよ。証明写真かよ」
「ああ、笑いそうで仕方なかったよ。何せ後ろで犬が――」
「や、やめろオオッ!」
狼が慌てて私の口を塞ぐが構わずにもごもごと喋り続けてやった。声は外に漏れていないので名前には聞こえていない。それよりも名前は、あの速度で私の眼鏡が微動だにしていないことに感心していた。狼がバンジージャンプでもしてこいよ、と私にくだらない提案してきたので無視しておいた。
それからも、いくつかのアトラクションを乗り回しては楽しそうに笑う名前と徐々にグロッキーになりつつある狼の姿があった。コーヒーカップは流石に私も苦手だ。飲むのは好きだが。
海賊船のアトラクションはなかなか面白かった。前後に揺さぶられる高さがどんどん上がっていくものだから、このまま一回転したらどうなることかと思ったが、心配はいらなかった。
ゴーカートは狼&名前vs私のチームに分かれ、私の勝利に終わった。狼は悔しそうにしていたが、隣に座っている名前に気を遣って運転をしたのだろうとわかった。だがそんなことに気付かない名前は悔しかったのか、今度は名前vs狼&私という組み合わせでスタートした。この狭いカートに大の男二人で座るという奇妙な光景に嫌気が差して仕方ない。「狭い」「仕方ねえだろ」「出て行け」「おいやめろ、カートから落ちる!」「落ちてしまえ」「お前が落ちろ!」こんな下らないやりとりをしている間に名前が堂々の一着となった。レース中は華麗なドライブテクに、どうすれば出せるのかドリフトまでかましていた。狼は二度も負けて相当悔しかったのか、「もう一回」と騒いでいたが、私も名前も流石に飽きたので丁重に断った。
名前と狼はそれぞれ席を外してしまい、私は一人ベンチで座って待っていた。少し小腹が空いたな。そろそろ昼食にしたい。そう思っていると、名前と狼がそれぞれ食べ物を持って現れた。どうやら示し合わせたわけではないらしく、名前と狼は互いの腕に抱えている食べ物を見て笑い合った。
私は名前からハニーチュロスとホットコーヒーを、狼からはスモークチキンとサンドイッチを受け取った。私を挟んで三人で座り、買ってきてくれたものを食べながら休憩する。名前にお金を返そうとするとびしっと断られてしまった。
「兄さん、楽しんでる?」
「ああ、楽しいよ」
「ならもっと笑えよな。全く、妹と違って可愛げのねえ兄貴だぜ」
私は笑っていなかったのだろうか。随分と楽しい気分を味わって、割りと笑顔を見せていた方だと思うのだが。そう返したら二人に「嘘だ!」と否定された。失敬だな君らは。
試しに笑ってみろよ、と狼に言われるがうまく出来ない。眉間に皺を寄せて考え込んでいると名前が私の名を呼んだので、左を向くと口元には美味しそうなソーセージが待機していた。
「はい、あーん」
「む、」
一口かじる。パリッという食感に肉厚ジューシーなソーセージが口いっぱいに広がって実に美味だ。
「おいしい?」
「ああ」
あ、笑った、と名前が顔を綻ばせる。するとすぐに狼が私の肩を掴んで自分の方に向かせたが、いつもと同じじゃねえか、とつまらなさそうに唇を尖らせた。自分では笑ったつもりはなかったが、もしかしたら無意識にそうなっていたのかもしれない。自分の表情なんかでこの二人が一喜一憂するのはなんだかむず痒く感じる。だが、名前が楽しそうなので今のところは良しとしよう。狼はどうでもいい。
(20161212)
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Smotherd mate