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※哀牙さんが諸平野と馬乃介さんと友人。
「あ」と思った時には遅かった。
街中で目の前に現れた人物に目を奪われて立ち止まる。相手も同じタイミングで私に気付くと表情から笑顔が消えた。どこか気まずさが伺える面持ちの彼と一年振りに言葉を交わす。
「久方ぶりですな、名前殿……」
「……お久しぶりです哀牙さん」
哀牙さんと一緒に居た友人らしき二名は、私と彼を交互に見て関係性を探っているようだ。内一名の、白いスカーフを首に巻いた蒼いスーツの青年が哀牙さんに尋ねた。
「星威岳さん、こちらの綺麗な女性は?」
「まさかお前のオンナか? なんてな」
「ム……まあ、その……」
もう一人の長身の男性――黒いスーツにライトグリーンのシャツ、ブラウンチェックのネクタイを着けている――が冗談交じりに言うと、哀牙さんは口籠りながらどちらともつかない返事をした。その言葉に二人は「ええー!?」「マジかよ!?」と声を荒らげる。
「違いますよ。ただの知り合いです」
混乱気味の空気に一筋の冷たい水を差し入れるかの如く言い放つ。私の率直な否定に哀牙さんの表情はやや陰りを帯びた。それに気付いたのは私だけだろう。
「元気そうで良かった。では失礼します」
懐かしい友人と会った時に言うであろう常套句を口にし、三人に会釈をして早々と通り抜ける。背中に視線を感じる気がしたが、気にせず機械的に足を前へと動かした。
***
名前殿との偶然の再会後、我は近くの喫茶店へ引っ張られ、テーブルの反対側に座る友人達に詰め寄られていた。
「さっきの人とどういう関係なの星威岳さん!」
「只ならぬ関係って感じだったな。元カノか?」
「……まあ、有り体に言えばそうなりますな」
内藤殿の言葉を認めると、二人はまた揃って頓狂な声を上げた。諸平野殿など両手で自らの顔を押さえ、目も口もぐにゅりと歪み、阿呆面を我の前に晒している。
「星威岳さんがあんな普通の人と付き合っていたなんて信じられない!」
「どういう意味ですかな?」
「そのままだろ。ていうか知らなかったぜ、お前にオンナが居たなんて」
内藤殿は腕を組みながら威圧的にじろりと睨んでくる。嘗ての恋人との邂逅に動揺が収まらぬままの我は、その視線の強さに借りてきた猫の様に萎縮してしまう。
「それは……まだあなた方と知り合う前の関係だったものですから」
ふうん、と至ってつまらなさそうにコーヒーを口に運ぶ内藤殿。隣の諸平野殿は浮いた話を楽しんでいる様子で頬杖をつきながら言った。
「で、どっちが振ったの? 彼女の様子から察するに星威岳さん?」
「お前それ聞くのかよ」
「だって気になるし、昔話なら別に良いでしょ」
今まで黙っていた事が気に食わなかったのか、中々に踏み入った質問をしてくるものだ。我にとっては昔の事ではなく、まだ記憶に新しい方であるというのに。……彼女にとってはどうなのか知らぬが。
テーブルに付いた肘を立てて手を組み、両手の親指とそれ以外の交差させた指で輪を作り、その空白をぼうっと見つめながら返答した。
「否、我が別れを告げられたのです」
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Smotherd mate