005-3(3/3)


「ミュウ。ライガ・クイーンと話をして下さい」

「はいですの」


とたとたと歩いてライガ・クイーンへと近付くミュウを目で追う。

こちらを威嚇してくるライガ・クイーンと比べ物にならないくらいの小さな身体で身振り手振りで伝えるミュウはとてつもなく可愛らしいが、それよりもあたしはどうやって彼女を説得するかを考えていた。

卵を守る今、凶暴性は増している。
人間で例えれば、無力な赤子を守る母親と同じだ。

つまり、こちらの要求を飲んでくれる可能性は…ゼロに等しい。


「みゅっ!」

「…っと、ミュウ、大丈夫?」

「ありがとうですの、カノンさん!」


凄まじい咆哮でこちらに転がってきたミュウを受け止めて様子を伺いながら、ライガ・クイーンを見上げる。

…あぁ、これは、


「大丈夫ですか!?」

「おい。あいつは何て言ってんだ?」

「卵が孵化するところだから…来るな…と言ってるですの。ボクがライガさんたちのおうちを間違って火事にしちゃったから、女王様、すごく怒ってるですの……」


いや、もしかして。

僅かにだけど、正気がある。
ここまで近付いている敵をただ牽制するだけという事は誰彼構わず襲う訳では無い。

………いける、かも。

ミュウを地面に下ろして、バッグをぎゅっと抱いた。
怖い……けど、ここで怖気付いてしまえばジェイドが来てしまう。つまり、あたし達が手を掛けなくても…。

そうしたらあの子が、アリエッタが悲しむ。そんなのは、ダメだ。
何よりライガ・クイーンには生きていて欲しい。ヒトとして、この考えはいけないのかも知れない。

でも、人間として、あたしはこの考えを間違いだと思いたくない。

きゅっと下唇を噛み締めながらバッグを地面に置いた。これであたしは丸腰だ。

そしてみんなより一歩踏み出して、ぐるる、と唸るライガ・クイーンを見上げて大きく深呼吸する。


「お、おい。どうすんだよ?」

「……話してみる」

「無茶よ。どう見ても話を聞いてもらえる状態じゃないわ」

「…大丈夫。少し、考えがあるから」

「カノン…」


心配そうに眉を下げるイオンにふっと笑いかけてまた背を向けた。
スカートを握りながらまた一歩踏み出そうとすると、上着のフードが少し強めに引かれて、息が詰まった。

………大丈夫、大丈夫だから。

振り返らないまま、スカートを握る手を緩めた。


「大丈夫だよ、ルーク」


子供に言い聞かせるような声色でそう言い放つと、ルークが手を離したのか、フードが重力に従って肩に乗った。名残惜しさを感じながら、足を進める。

ルークが何か呟いていたけど、うまく聞き取れなかった。なんて言ったんだろう。


「ライガ・クイーン…」


威嚇をやめない彼女に近付きながら名前を呼ぶと、ライガ・クイーンが大声で吼えた。

その剣幕に気圧されながらも、足に力を入れてなんとか後ずさらないように踏ん張る。

隙を見せてはいけない。


「ご主人様! ライガ・クイーンはボク達を殺して子供たちの餌にするって言ってるですの!」

「な、ど、どうすんだよおい!」

「ライガ・クイーン! 話を…ッ」


言葉を続けようとすると、耳を劈くような烈々たる咆哮と、その衝撃で天井の一部が崩れてあたし達を目掛けて降ってきた。

慌てて振り向くとルークが石塊からミュウを庇っていたところで、ホッと息を吐く。


「あ、ありがとうですの!」

「か、勘違いすんなよ。おめーを庇ったんじゃなくて、イオンを庇っただけだからな!」


つ、ツンデレおいしい…。

つい、通常運転に戻りそうになってぶんぶんと首を振ってライガ・クイーンに向き直った。
その瞬間、頭上に第三音素が集束したのを感じた。速い。避けることは難しい。


「カノン!」

「ッ!!  ………え?」


…あれ? あたし、今雷撃喰らった…よね? なんか、どっちかと言うと痛みは静電気がバチッとしたみたいな…。

と、あたしの意識が逸れているのを見逃さなかったのだろう。気が付くと目の前にはライガ・クイーンの前足が迫ってきていて、反射的に防御体制を取る。


「っ、」


流石に吹っ飛ばされて木の幹に思い切り背中を打ち付けた。…痛い。

それを見てか、ルークとティアが武器を構えたので慌ててライガ・クイーンとふたり間に割って入った。


「待って!」

「待って、って…お前、もう交渉なんて無理に決まってんだろーが!」

「ルークの言う通りよ。このままじゃあなたがやられてしまうわ。戦力が多い今のうちに討伐した方がいいんじゃないかしら」

「う、それは…」


ティアの鋭い指摘に言葉が詰まる。

でもね、この選択で運命が変わる子がいるんだよ。


「…ちょっと試してみたいことがあるの。それまで待っててほしい、な…」

「試したいこと、ですか?」

「うん。…とっておきの」


シルフとの会話を思い出しながら、みんなの顔色を伺う。…流石に無理があるかな。


「分かりました。カノンを信じましょう」

「イオン様!  お言葉ですが、このままでは全滅も…」

「ありがとう、イオン。全滅はしない、よ」


……ライガ・クイーンにとって、最悪のことは考えたくはないけど。

いつ出てきてもおかしくないジェイドの気配を探りながら、ライガ・クイーンに向き直る。


「…シルフ」

『はぁい!』

「……」


一瞬、気が抜けてしまった。何というお気楽さだ…。
やれやれと視線をライガ・クイーンに戻した瞬間、目を見張った。

ピンと張り詰めた空気も、息付く間もなく放たれていた殺気も、どこかへ消えてしまっていた。

代わりにあたしの五感が感じ取ったのは、かなりの濃密度の第三音素。

それが何なのか直感したあたしは、咄嗟に地面を蹴ってライガ・クイーンに向かって力の限り両手を伸ばした。



To Be Continued...


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