迎えた、朝の光


翌日目を覚ましたのはお昼前。
せっかくの二連休、ほとんど寝てるなぁと思うけど
夢の中で海賊に捕まったり、桃色の人と想いが同じことが分かったり、…意識がなくなるまで抱かれたり。とてつもなく濃い時間を過ごしている。

形に残らないのが切ない。
でも、記憶に残ればそれでいい…とも考える。

腕を上げて伸びをする。
私はこっちの、現実を生きてるんだ。
ぼーっとしていたらすぐに日が落ちるだろう。
そうなる前に洗濯物を洗って部屋も片付けよう。
よし!と気合いを入れて立ち上がった。

ある程度、ギリギリ人を招ける程度に片付け終えてひと息つく。汗もかいたので次はシャワーへ。
そういえば、昨日から何も食べていないような?
冷蔵庫を開ける…が。失笑して閉める。
何も入ってなかった。悲しい。
冷食くらいはストックしておくべきだった。
お米を研いで炊き上がるのを待とう。棚を確認して…床に膝をついた。お米すらない。私マジか。
生活力が無さすぎでは?

シャワーを浴びた後だし、買い物へ行く気になれなかった。明日の朝、何かお腹に入れよう。
仕事帰りに色々諸々買い足すべく、ベッドへ寝転んでスマホにメモを書き加える。

そのままスマホを触って夜まで過ごした。



◇ ◇ ◇



ぐぅぅぅ。きゅるるる。

お腹の鳴る音で目を開ける。
…目を開ける。つまり私は寝落ちてしまった。
ということは。

バッ!と勢いよく起き上がって、その人がいるであろう場所を確認。…いない。仕事はしていない?
つ、つつつ、つまり…!?
恐る恐る、起き上がった反対側へ首を回せば。

「フフフフ!!っはは、」

笑い声を上げる、桃色の人が。
お腹の音、聞かれたー!!!
羞恥心を煽る笑い声にベッドへ後ろから倒れる。
恥ずかしい。
面倒くさがらず買い物へ行けばよかった。

「…こんばんは…ドフラミンゴさん」
「ああ。…フッフッフ、ふ、フフフ!!」
「くっ、何がそんなにツボなんですか!」

絶対に悪いと思ってない「悪ィ悪ィ」というセリフを耳にして、膝をも叩いた。ちくしょう!

「腹減ってんのか?」
「ご存知の通りですよ!」
「フフ、そうだな。盛大な音が聞こえたんだった」

面白ェ奴だ。
とまで言われそうな肩の揺れに私の顔は真っ赤。

「ナナシ、苦手な食べ物はあるか」
「…言ったらそれを食べさせるつもりですね」
「ご名答。おれを分かってきてるな」
「意地悪な人が聞きそうな質問でした…」

フフフと笑い、部屋で待つよう言われる。
数分も経たないうちに戻ってきて、サンドイッチとスープ、飲み物が二つ乗ったトレーをソファーの前にあるテーブルへと置いてくれた。
素直にお礼を述べれば給仕をしてくれる方から
「夜食ですか?」と聞かれたことを教えてくれた。

「足りねェならおかわりも貰ってこよう」
「死ぬまでイジるネタにするつもりですね」
「死ぬまでおれの近くにいてくれるのか」
「はい?……っ!そ、そうですよダメですか!?」
「フッフッフ!何ギレだよ」

ぷりぷりしながらソファーへ向かう。
座って手を合わせ、いただきますの挨拶。

ドフラミンゴさんも隣へ座り飲み物を手に取った。

「お前、心の中でもおれのこと“ドフラミンゴさん”つってるだろ。呼び方を何度訂正させる気だ」
「だって呼び慣れないんです」
「慣れろ」
「ドフィ、さん」
「…敬称はいらねェ」
「慣れてください」

言うようになったなァ?この口は。
ぎゅむ、と頬を片手で掴まれた。
手にスープの器を持ってるから抵抗出来ない。
離してください。
胃がスープを待ち望んでいるんです!

ざく切りの野菜が入ったスープ。コンソメかな?
温かく優しい味にほぅと息を吐く。

思えば、こちらへ来て初めての食事だ。
大抵夜に来るから食べ物も飲み物も口にする必要はなかった。船酔いした時にお酒を含んだけどあれは喉を通さず、すぐ吐き出した。
…今考えても、あの時渡すべきなのは水だよね。

ちょっかいを出されつつ、全て完食。
胃が満たされたし、胃袋も掴まれました。

「ご馳走様でした!」
「いい食べっぷりだったな」
「そりゃもう美味しかったので!作ってくださった方へ、お礼を言いたいです」
「夜も遅ェ、今度にしとけ」
「食器返さないといけないのでは…?」
「朝、取りに来させる」

それ申し訳なさすぎない?
せめてもと思い、テーブルの端へトレーを置いた。
食べた後なので洗面所で口をゆすがせてもらう。
戻ってくると、ソファーに腰掛けるドフィさんの手に数枚の紙。後ろから近づいて覗かせてもらった。

次に向かう島への海図と、その島の地図。
あとは物資の情報とか海賊ならではの情報とか。

「大きな島ですね、どんな所なんですか?」
「一言で言えば紛争がよく起こる島だ」
「紛争…です、か」
「資源がある穏やかな島は狙われやすい。海賊にとっても他の輩にとっても…な」

こっちが補給地。こっちで荷降ろし。
たまにここらで海軍が待ち伏せてる。
教えてくれることに頷きながら地図を眺める。
島の高低差とかも書いてあった。細かい。

その紙を後ろへ回し、また違う島の地図が現れた。

「ここは春島、か」
「はるじま」
「春夏秋冬の春。そういう気候を持った島だ」
「…よくわかんないです」
「おいおい知ればいい。この島なら降りても問題は無さそうだな。名産はいちごと牛乳、だとよ」
「それは楽園ですね!!」

何言ってんだお前は。と呆れてるのか微笑まれてるのか分からないが、口元は弧を描いている。
怒ってないならよし。

行ってみたいかと尋ねられ、秒で頷く。

「今度こそ一緒に散策しましょうね!」
「ああ、デートだな」
「!そうだ、そうですね…。ふふ、デートかぁ」

いちごと牛乳。
合わせてピンク。桃色。
奇しくもドフィさんと同じ色。
きっと素敵な島に違いない。

ソファーの後ろから周り込み、声をかけて隣へ座った。見ていた紙はテーブルの空いたスペースへ。
可愛…くはなくても、綺麗な格好をしたい。
ドフィさんは目を引くし、その隣を歩くなら夜といえどきちんとしたかった。何よりデート、だ。

デート。
いつぶり、何年ぶりかな。

「パンツスタイルにしろよ」
「!?スカートを指定されるかと…」
「自分が迷子にならねェ自信があって、なおかつ、何かがあったら全力で走れる服装にしとけ」
「…デートですよね」
「デートだろう」

ちょっと不満だけど詳しい人に従います、はい。
迷子にならない自信もない。

それから、他愛ない話をしている内に欠伸をした。
…そろそろ時間かな。
二人でベッドへ移動して横になる。

頬と額にキスをされ、最後に唇同士が触れた。
ふふ、“今日は気分じゃねェ。”んだろうなぁ。
添い寝するようにこちらを向いてくれている。
遠慮なく懐へ潜り、体を寄せた。

「おやすみなさい、ドフィさん」
「ああ、ゆっくり休め」

髪を梳かれ、頭を撫でられる。
気持ちが良くて意識が微睡みだす。

「ナナシ、─また明日」
「はい…。また、あした…あいたい、です」
「フフフ、いい夢をな」
「もうみたあとですよ、すきなひとの、ゆめ」

かわいいやつ、そんな声が聞こえた……気がした。



◇ ◇ ◇



アラームの音がしない。
陽の光は感じてるから朝なのは間違いない。

…でもなんだろう。
やけに体が重い。
というか…何かが体に巻きついてるような…?
鼻を掠める匂いも、私の好きな人の…匂い。

カッ!!と目を開く。

目の前には黒い服を着た、たくましい胸板。
離すまいとその服を強く掴む私の手。
体に巻きついていたのは、その人の腕と足。

私は目が覚めたはずだ。
ここで寝たから。
起きたら自分の部屋のベッドで寝てるはず。
滑らかな肌触りのシーツ、柔らかな掛け布団、
そしているはずのない、ドフラミンゴさん…。

つまり、つまり!

「…夢が覚めてない…?」

どういうこと、どういうことだってばよ!?
あわわわ思わず某忍者の口癖が出てしまった。
ええと、向こうの私は、意識不明とか…そういう状態…?いや!その結論を出すには早計すぎる。

そうだ、頼りになるドフィさんを起こそう。

服から手を離して顔を上に向け……て、元に戻す。
私の頭上と脳内には疑問符がびっしりと並んだ。
─誰だ、この切れ長で三白眼そうな、伏せてるのに長いのがわかるまつ毛を携えた……良い男は。

あの、あのドフラミンゴさんが…!
サングラスを、かけていない!?

寝てるから当たり前?
いやいや、私を抱き枕にした時はがっつり着用したままでグースカピーと寝ていた人ですよ!?
こ、こんな無防備な姿、むしろレアすぎる姿を見てしまうとは。私は運を使い果たした感じかな…?

軽くパニックを起こしていたが。

「……気配が、うるせェ…」

不機嫌な声が頭上から届く。
こわい。
寝起き悪そうだもんね。その通りですか。

ゆっくり腕が動いて私の頬に手が触れる。

「………、は…?」
「おはよう…ございます…」
「ナナシ…?…おれァまだ夢見てんのか…」
「夢じゃないです!ドフィさん起きてください!」
「……んなわけあるか、あいつは朝になるとおれの元から必ずいなくなる…。あいつ以外の女はいらねェ…匂いもつけんじゃねェ…今すぐ離れろ…」

目を閉じたままー!!!
ぐぅぅぅ、キュンキュンするじゃないですか!
私のこと想ってくれてるんですね!?照れる!
そんなギャップ見せないでほしい!好きです!

無言で身悶えてしまう。
私のキュンゲージはマックスよ…。
……ときめいてる場合か!

「ドフィさん!私です!もう、…ドフィ!!」

ガバァ!!
まさにそんな音が聞こえてきそうな勢い。
掛け布団が吹っ飛んで、目を開けたドフィさんが
馬乗りで私を見下ろしていた。

「……ナナシ?」
「はい。おはようございます、ドフィさん」
「…まだ夜…」
「お外は明るいですよ、もう朝です」
「…夢、じゃ」
「夢じゃない、みたいです」

かくんと肘が折れてのしかかってくる。
とても重い。
もぞもぞ動いて、顔が近づいてきた。
ひええ、顔面偏差値ィ!!
視線を逸らそうとしたらがっちり頬を包まれた。

「ナナシ…お前、なんでいる…?」
「私にもよくわからなくて…」
「戻らないではなく、戻れない…のか?」

起きたてなのに頭の回転が早くて助かります。

「何が原因…。…あァ、ひとつだけ思い当たる」
「なんでしょう…?」
「夜に飯を食ってる」
「…そう、ですね?」
「夢とはいえこちらのものを口にした。味を知って体内に取り込んだ。そ‪れで留まらせている…?予想の範疇を出ねェな。今夜寝て検証するしかない」

なるほど…?
こっちの食べ物が体内にあるうちは帰れない、と。
食べずに寝て、明日の朝どちらで目が覚めるか…。
確かに検証するより他ない。同じく納得した。

…ドフィさんの視線は私に固定されている。
気まずいし照れるし、逸らしたい。逸らせない。
口角が上がっていくのを目の当たりにする。
喜んでるのかな?そう見えて仕方ない。
その笑顔、心臓に悪いです…!

「フフフ、顔が真っ赤だ」
「サングラスをかけてください…」
「何故?」
「ご自分の顔面偏差値の高さをご存知でない!?」
「…フッフッフ!フフフフッ!ご存知ないねェ」
「絶対嘘ですね、武器にしてますね!ううう、サングラス込みで好きになったのに外してもかっこいいとか卑怯ですよ…!ずるいです」
「お前は本当に、変な奴だ」
「変でもいいです、サングラスかけてください!」
「嫌がるお前を見るのが好きなんでなァ?」

そうでした。あなたはそういう人でした。
狼狽えるな私。こういう時は目を閉じるのです。

閉じた瞬間、首筋に吸い付いて痕をつけられた。
驚いてすぐさま目を開ける。
楽しそうに笑うドフィさんにキュンとしてしまう。

「ナナシ」
「…はい」
「一度だけ口にしたい」
「…はい?」

耳元に唇を寄せて。

「お前と朝を迎えられて………嬉しい」

囁かれた言葉は私のトキメキゲージをいとも簡単に限界突破させた。心臓が持たないです…!

二度、三度。
頬に口付けてベッドの端へ移動する。
口にキスしないのにはわけがあった。
曰く「歯を磨いてから」だそう。
衛生概念しっかりしてるぅ…!!
先に立ち上がったドフィさんが私へ向けて手を差し出した。…はい、私も歯を磨きます。

「こんな日が来るとはなァ」
「待ち望んでいましたか?」
「フフ、当たり前だ」
「…私も、です」

繋がれた手は離れない。
離さない。
口元に反対の手を宛てているが、私からは見える。
これは隠せない笑みを覆おうとしている。
耳が赤いことにも気づいてしまった。

…愛しい人、ってこういう時に使うのかな。

歯を磨いたらすぐに抱き抱えられベッドへ。
軽く唇を重ねて、抱きしめられた。

「そういや言ってなかった」
「はい、なんでしょう?」
「…おはよう、ナナシ」
「おはようございます、ドフィさん」

笑いかければ、薄く微笑んでくれる。
こんなに幸せだと思える朝は初めてだ。

慌ただしく予想もつかない一日になりそうだけど。
ドフィさんと一緒なら大丈夫。

新しい朝は、まさに…希望の朝、だった。


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