『い、……ちゃん……、おい、嬢ちゃん!!』
ふっ、と目が覚めた。
呼ばれたような気がする。
横になっていた体を起こし、座り直す。
周りを見渡してみると、何だか不思議な空間が広がっていた。白いもやが地面に漂い、遠くへ目を凝らせばぽつんと赤い光が見える。なんだここ。
『嬢ちゃん、大丈夫か?』
話しかけられた方へ顔を動かすと上半身裸で頭に赤いバンダナを巻いた男性が腕を組んで立っていた。
誰?
『悪ィな、嬢ちゃんも巻き込んじまった!なかなか自分の思い通りに動けなくてよ!ああ、死んでねぇから安心してくれ!……に、しても。あいつの側に嬢ちゃんみたいな子がいるとはなぁ』
……だから、誰ですか??
話しかけようとするが、何故か声が出ない。
口をパクパク開閉するだけで喉は震えなかった。
なにこれ。なんで?わけがわからない。
男性は黒く長い髪、野性的な面構え。
肌は日に焼けた……にしては黒すぎるが、めちゃくちゃ健康的なもの。逞しすぎる肉体が美しい。
胸に大きく刻まれたタトゥーを見つめる。
どこかで見たことがある。それもつい最近。
じぃぃぃっ、と顔も見つめてみる。
うーん、だめだ!わからない。
『おいおい、熱烈な視線だなぁ!惚れてくれるのは嬉しいが、オレには愛した女がいるんだ!』
そういう視線じゃないです。
へっ!と小馬鹿にしたような顔をして首を振れば、
豪快に笑われた。
……不思議な人だ。
『嬢ちゃん弓を扱うんだよな。痛くも痒くもなかったけどよ、狙いは良かったぜ!まぁ、剣にしろ魔法にしろ、どんな攻撃も屁でもねぇんだが。嬢ちゃんはかなり腕が立ちそうだ。となると……目、か?うし、次は目を狙ってみろ!ちったぁ痛がるか進行方向変えるとかするかもしんねぇ!ものは試しだ!』
なっ!なんて同意を促されても困る。
言ってる意味もわからない。
私さっきから「わからない」しか言ってないぞ?
まずもってこの男性のことがわからないんだから、仕方ないよね……。
視線を男性から外し自分自身の姿を確認する。
服は濡れているが、目立った怪我は無い。
手も足も動く。愛用している弓も竪琴も無事だ。
アイテムポーチもあるし中身も変わってない。
立ち上がって背を伸ばし、次いで屈伸。
改めて男性に向き合えばその不思議な……いや、異様な気配にぞわりと肌が粟立つ。
なんだろう、この気配。
『お、もう動けんのか?嬢ちゃんには不思議な力と強い加護が付いてるみてぇだし、当然か』
不思議な……力?
強い加護?
首を傾げて思い当たる。
そっと左耳に触れた。
─エルムから貰ったイヤリング。
『そう、それだ。その力でオレは嬢ちゃんに接触出来た。んで、その力のお陰で嬢ちゃんは助かった……と言っても過言ではねぇ。オレに巻き込まれたら普通死ぬ!そうならねぇってことは近いうち、嬢ちゃんはあいつと一緒にここへ来るんだろうな!』
ニィ、と挑発的に笑みを見せる。
『おっと、そろそろ時間だ。向こうにある赤い光を見て、何度か瞬きをしろ。意識が戻るはずだ。
……じゃあな嬢ちゃん!あいつのこと、頼むぜ!』
あいつ。
誰を指しているのか。
わからないということしか分からないので、とりあえず保留。覚えてるならよし、忘れてもそれはそれで良しとしよう。うん、良しとして欲しい。
男性に指示された通り、赤い光を見つめる。
瞬きを数回。
すると、体がふわりと浮いた感覚。
なにこれテレポ?あの光はエーテルか何かなの?
もう一度男性へ視線を移す。
気をつけてな〜!なんて、呑気に手を振っている。
……その、なんというか。
わけわかんない、けど。
私は手のひらを胸に付け、とんとん。と二回叩く。
─任せて。
一瞬呆気に取られた表情。
それから、破顔。
男性が消えて私の意識も再び暗転する。
あの笑顔には見覚えがあった。
眩しい、太陽のような笑顔。
ティーダみたいだと、思った。