ブリッツボールの説明を受け終えて、ようやく納得した。水中でやる水球、みたいなスポーツだった。
言葉だけでは想像の範疇を超えない。
現役の選手でエースなティーダから、ぜひ観戦してその面白さを知って欲しい!と熱弁された。
千年前からスピラで続くスポーツ。
千年前すでにあって、千年後にも続いている!
そりゃあ、気になってくるよね。
“千年”って言葉がパワーありすぎるんだよな。
「ブリッツボールの選手だったなら、ルカへ行くといいかも!大きな大会はそこでやってるし。きっときみの知ってる人もいるかもしれないよ!」
二人を降ろす有人島はルカにしてもらえないか、
相談してくる!
そう言ってリュックは艦内へ戻って行く。
ルカ、とは?
リュックに疑問を投げかけるところだったが、有人島と言うなら島の名前で間違いないはず。
ブリッツボールの話をしたからか、ティーダの顔色は少しずつ良くなってきたように思える。好きなことを語るというのは精神的に良い。わかるわかる。
「希望が見えてきたね、ティーダ!」
「そうっスね!……オレはブリッツボールって共通点があったから持ち直した、けど……。ナナシは、その、それすら知らなかったんだよな」
「おや、気にしてくれてるの?」
「そりゃあ気にするよ!オレと同じく迷子で、ワケわかんない事態に陥ってんのに!いや、オレよりだいぶ冷静だなぁと思わないでもないけどさ!?」
心配してくれてるんだよね。
ありがとう。
確かにここは知らない世界。迷子なのも事実。
地名も球技名も種族も、何もかも分からない。
でも、
「会った時に言ったでしょ?私は冒険者なの。知らない土地、知らない人。知らないモンスター。
それらを見て触れて感じて、時に戦う。不安や心配事もあるけど、ワクワクの方が大きいんだよ!」
現代で光の戦士としてゲームをプレイしてた時も。
エオルゼアでエルムと一緒に戦っていた時も。
負の感情を上回っていたのは、好奇心と冒険心。
分からないことに関して、不安はある。
だがそれも旅をしていけば必ず解決していく・と、知っているから。へこたれるのは今じゃない。
私は大丈夫、そう伝えたくてティーダを見遣れば。
─真っ直ぐ。
逸らされることなく真っ直ぐ、見つめられた。
「それなら……ナナシの不安や心配事がワクワクを上回ったら、オレを頼ってほしい。何も出来ないかもしんないけど、オレもナナシの力になりたい」
真剣な瞳は、ブレることなく私を捉える。
眩しい。と、思った。
まるでエルムのようだ。
主人公が持つ、眩い光。
祈り子の少年が指す“彼”とは、ティーダのことではないか。そう思えるほどの強い“光”を感じる。
光とは、希望だ。
それは誰かにとって、もしくは世界にとって。
もしティーダがそうだというなら、私は。
「……ありがとう、ティーダ」
「ありがとうはオレの台詞だっての!ザナルカンドへ帰ったら街を案内するよ!それからナナシのいた、エオルゼア?へも行ってみたい。その時はオレも冒険者ってことにして欲しいっス!」
「もちろん。未来の話をすると元気出るね!」
に、と笑みを見せると笑い返してくれる。
私は彼を。
ティーダを、救いたい。
……彼がそうだと確定したわけではないけど、ね。
違ったとしても、ティーダが住んでいたというザナルカンドへは一緒に行きたい気持ちがある。
大きな水のスフィアが浮かんでる所も見たいし、
ブリッツボールも観戦してみたい。
うん、やはり未来を語るのは心に良いな!
笑い合っていたら、空気に違和感を覚えた。
波の揺れも少しずつ変わっていく。
─海に“何か”がいる。
「ティーダ!何かが海にいる!!リュックに知らせてくるから、手すりに掴まって─」
強い地響きが聞こえた。
海からの地響き。
恐らくこの後に起こるのは、津波。
波はうねり空気までも揺れ始める。
ビスマルクに加えてリヴァイアサンでも住んでるのか、この海は!命が足りない、勘弁して!!
船内へ続くハッチを叩くと、ちょうど銃を構えた人たちが出てきた。そして“何か”の正体を口にする。
「───シン!!!」
暗い海から海水を巻き上げ、水しぶきを散らし圧倒的な巨体を躍らせながら“何か”が姿を現した。
絶句。
とは、まさに。
文字通り言葉が出なかった。
想像していたより遥かに大きい。
大きい、なんてものじゃないな。
“天災級”。“自然災害そのもの”。
ゼオンとリュックの表現は誇張ではなく真実。
この巨躯から“出来るだけ多くの人を救う”?
─これはなかなかに、骨が折れそうだ……。
開きっぱなしの口をなんとか閉じて、激しく揺れる船の壁に張り付く。振り落とされたらたまらない。
海に落ちるなんてもってのほかだ。死ぬわ。
ハッチからゼオンがシンを見上げている。
目が合えば「どうにかしろ」と、視線を送られた。
私を超人とでも思っているのか。
割りと戦えるだけで普通の人間だぞ、私は!!
シンの体に目を凝らす。
水しぶきが未だに上がっていて、全貌を捉えられない……が。腹面、側面?の一部が見えてきた。
「わー、すごい……」
シンの体に他のモンスターが引っ付いている。
咄嗟に浮かんだのはマンタに引っ付くコバンザメ。
き……っ、共存してんじゃねー!
いや、いやいやいや。決めつけるのは良くない。
アレはシンの能力かもしれないし。
ミサイル的なやつかもしれないし。
どっちにしろ厄介ってことでファイナルアンサー!
能力であれば恐らく当たる。
ミサイルであれば当たったら十中八九、爆発。
……頭上で爆発されたら嫌だなぁ。
でも、やってみる価値はある……か?
背中を船に付け、弓を取り出し矢を構えた。
ゼオンへ最終確認とばかりに視線を投げれば素早く頷かれた。射抜ける自信は全くないからね!
まずは通常攻撃で一矢放つ。
水しぶきをものともせずコバンザメ?に当たった。
しかし、貫けず。剥がれず。倒せず。
なにあれ。せめて突き刺さってほしかった。
すかさず“猛者の撃”という与ダメージをアップさせるバフを自身に付与する。せめて剥がしたい。
張り付いている境目を狙い、再び射る。
毒を継続的に与える攻撃。続けざまに通常攻撃。
今度は当たったようで動いているのが見えた。
そして四矢目で消えていくのを確認。
……シンとは別個体のモンスターで確定かな。
ひとまず爆発しなくてよかった。
ひと息つく暇もなく。
コバンザメが引っ付いている所が光始めた。
うわぁ、これは爆発よりやばいヤツだ!
「ゼオン!!全員を艦内へ!!!」
手振りも加えて、声を張り上げた。
聞こえているかどうか怪しい。だが彼の仲間がハッチに向かって行くのを見るに意図は伝わっていた。
甲板を見渡すとリュックの姿はない。
残すはティーダか!!無事を祈りつつ手すりに視線を移せば必死にしがみついている姿が目に入る。
雨のように降り注ぐ水しぶき。
敵意も敵視も飛んでこなかったのに、私が薮蛇したばかりになんらかの攻撃が来そう。
ティーダへ伝えたくても彼は船から振り落とされないよう必死で、私の声は届かない。
留まり続けるのは危険だと判断したのだろう、船も少しずつ動き出した。私は意を決して壁から離れ、ティーダの元へ駆け出す。
「ティーダ!!」
「……っ、ナナシ!!」
手を伸ばされた。絶対、掴まえる!
めいっぱい腕を伸ばしなんとか彼の指先に触れた。
お互いの手を強く掴んだ、─次の瞬間。
船の揺れと共に大きな波が甲板を襲う。
揺れと水圧に耐えられず、私とティーダは海へ投げ出された。藻掻くことも浮き上がることも出来ず、もちろん息をするのは不可能で。
海中に揺蕩うシンの巨躯を横目に、酸素を失った私の意識は完全にブラックアウトした。
消えた意識の中で響いたのは
祈り子の声か。
それとも、シンの声、か─。