ルールーさんと寺院へ向かう。
寺院にはシンを倒した召喚士の像があるという。
冒険者としては中が気にならない?お祈りを兼ねるのであれば連れて行くけど、どう?と緩いお誘いを受けたので足を向けることにした。
シンを倒した召喚士。
倒したはずなのに未だにシンがいるのは何故?
確かリュックの話では、千年前にシンがザナルカンドで大暴れして滅ぼした。つまり千年前からシンはこの世界に存在しているわけでしょ?
じゃあその召喚士はいつシンを倒したのか。
そしてどうやってシンは復活したのか。
“誰かが召喚した”という可能性も有り得そうだ。
おあつらえ向きに、“エボン”って怪しい組織があるじゃない?裏を感じずにはいられないんだよなぁ。
まぁ、まだ憶測の域を出ないから口にはしない。
ビサイド村の寺院はドーム状の建物で、中へ入ると荘厳な音楽が流れていた。熱心な村の人が様々な像に祈りを捧げている。……そう、エボンの祈りを。
一際大きな像が目に付いた。
ルールーさんも一瞥した後、祈りのポーズを取る。
私もゼオンから教わった通りの祈りを捧げた。
「……こちらの大召喚士はブラスカ様。前回のナギ節をもたらした偉大なる御人よ」
「“前回のナギ節”?」
「そうね、あなたは知らないわよね。ナギ節、というのはシンを倒した後に訪れる平和なひとときのこと。今までにシンを倒した“大召喚士”と呼ばれる方々は四名いるの。ガンドフ様、オハランド様、ヨンクン様、そして先程挙げたブラスカ様よ」
「なるほど……。シンは倒したとしても必ず復活するんですね。ええと、大召喚士?召喚士?という方しかシンを倒せない……ということですか?」
「シンを倒した召喚士が大召喚士と呼ばれるの。
……そう、ね。倒せるのは召喚士だけ。他の手段では倒せない。どう頑張っても、倒せない……」
悔しそうな表情に見える。
ルールーさん、挑んだことがあるのかな。
というか、倒せるのは召喚士だけ?“だけ”!?
他の手段ではどう頑張っても倒せない……。
そんな馬鹿な。
召喚士というと私のイメージは神降ろし。
もしくは使役するモンスターを召喚する。
まぁ普通、後者の方が一般的だよね。
巨大なシンを倒すにはそれと同等の大きさのモンスターで対抗する。……そんなところだろうか?
倒した召喚士は健在なのか問えば首を振られた。
なるほど、だからこその“像”なわけだ。
平和とは誰かと何かの犠牲の上に成り立つもの。
……か。
やだやだ、そんなの平和なんて呼びたくない。
地獄でしかないじゃんね。ため息が出てしまう。
二人でブラスカ様を見つめていたら、寺院の関係者らしき人がルールーさんに話しかけてきた。
部外者が聞いたらまずそうなので静かに離れる。
今の人、頭つるつるだったなぁ。
寺院って名称だからお坊さん的な?
ああいう人ってエボンの関係者でもありそう。
像や祈りを捧げる村人を眺めていると、ルールーさんがやって来た。どうやら用事が出来たらしい。
私は村と島を散策するので大丈夫。と告げたら
「問題を起こさないでね」そう釘を刺された。
あっそれフラグですよ!
と口について出そうだったがぐっと我慢した。
ファイアを撃ってきそうな顔をしてる……。
なんでもないです、なにも考えてないですよ!
突っ込まれる前に寺院を出た。
***
ふらりと村を歩く。
歩いているだけで声をかけられた。
どこから来たの?
見慣れない格好だからすぐわかるさ!
この村の名産は、織物なの。素敵な柄でしょう?
肌触りが良いから服にすると着心地抜群なのよ。
海の幸も豊富だよ!
今晩は楽しみにしてな、冒険者さん!
冒険者!それならポーションは欠かせないよね。
え、通常の値段はいくらか、って?……バレた?
向こうに滝があるんだ。そこから眺める景色が絶景でね。魔物が出るけどオススメなんだ!
ビサイドオーラカ、今年は勝てると思う?
あっ、ブリッツボールのチーム名だよ。浜辺で練習してるから見ておいで、……魔物が出るけど!
老若男女問わず気さくに話しかけてくれるので、
すぐ情報が集まった。友好的でありがたい限り。
ポーションを高く売りつけられそうになったのは
……うん、観光地あるあるだよねぇ。
村人が言っていた滝を見たくなり村の門へ向かう。
武器はないから、もしモンスターとエンカウントしたら即逃げよう。素早さはあると自負してる。
大丈夫、負傷しても白魔法を心得てるし。大丈夫!
自分に言い聞かせて一歩踏み出したら。
「どこへ行くんだい?冒険者さん」
「ここから先はモンスターが出ますよ!」
二人組の男性に出会った。
忠告に感謝して挨拶をすると祈りのポーズを受け、挨拶を返された。ガタイの良い人がルッツさん。
もう一人の若者がガッタさん、というらしい。
彼らは討伐隊のメンバーで島や周辺の海を見回っている、とのこと。シンは度々このビサイド島を襲うみたいで常に警戒しなければならない。と。
やはり多くの人を救うには、シンの討伐が必須だ。
頭を過ぎるのはフルパーティでの蛮神戦。
フルパーティというのは四人パーティの倍、八人で挑む大型のボス戦。タンクが二人、DPSが四人、ヒーラーが二人。画面越しでのゲームならば攻略しがいのあるバトルだが、実際対峙してみるとマジでやばい。毎回、死の予感しかしない。
くぅ、戦い方と回避方法を間違うと全員が倒れてしまうようなギミックが多そう。予習したい。
ゲーム脳を引っ込ませて。
ここのモンスターのレベルを聞いたら行けそうな気がしてきた。だって私、吟遊詩人のレベルカンストしてるもんね!!……白魔法?30ですが?大丈夫大丈夫、ケアルさえ忘れなければ死なない死なない。
自分でフラグを立たせるわけには。
「そういえば、また海に流れ着いた人が見つかったんだ。さっき俺たちもひと目会ったんだが、もしかして冒険者さんの知り合いじゃないか?」
「不思議な格好してましたからね!」
不思議な格好。言い得て妙だわ。
って、もしかしなくてもそれティーダじゃん!
よかった、無事だったんだ。
ルッツさんとガッタさんは、気をつけて冒険してくれよな!と忠告してから村へ戻って行った。
二人を見送った後、すぐ覚えのある声が耳に届く。
「ナナシーッ!!!」
声のした方を向く、と。
あらまぁ、なんということでしょう。
見知った青年が両手を振って、嬉しそうにこちらへ駆けてくるではありませんか。
ティーダくんよ、犬系男子か?可愛いな??
あるはずのない耳と尻尾が見える。
「ティーダ!大丈夫だった?怪我は─」
怪我はない?
尋ねようとしたが出来なかった。
走ってきたそのままの勢いで抱き着かれたから。
いや、ちょっと、これ熱烈過ぎでは!?
「すーっげぇ心細かったっス!!」
……深い意味はありませんでした。
トキメキかけたわ。危ないな。
互いの近況報告もそこそこに、ティーダの後ろから来た人が笑いながら近づいてくる。オレンジ色の髪で、なんとも特徴的な前髪。いや、髪型?
この人も体格が良いので討伐隊の関係者かな。
「おう、気がついたんだな!大丈夫だったか?」
「!私を知っているんですね?」
「あんたを助けたのも、俺!」
「なんと命の恩人でしたか!助けていただき、ありがとうございます!お陰で事なきを得ました!」
「なんのなんの。一日に二人も海へ流れ着くなんて、珍しいこともあるもんだなぁ!」
快活に笑う男性の名前は、ワッカさん。
討伐隊ではなくブリッツボールの選手……兼、監督?らしい。昨年引退する予定だったが伸びて、今年まで大会に出場するんだ!と意気込んでいる。
ティーダもチームに引き込んだとのこと。
「オレが万年最下位のチームを優勝させるんだ」
「万年最下位……!」
「それも今年まで、だ!いい時期にいい選手と出会えた!遂に悲願の初勝利を手に出来る……!」
「初勝利と初優勝な!」
「うっす」
ワッカさんと打ち解けている様子のティーダ。
初対面でも共通点があれば親しくなれるよね。
沈んだ様子は見られなくて、よかった。
「に、しても。おっまえナナシの姿が見えた途端見るからに、明らかに元気になったなぁ!」
「っ!ワ、ワッカ!そういうのは本人を前に言うなっての!……格好、つかないだろ!!」
沈んでたのかー!!?
私を見て……元気になったと……?
ぐう、私の中の内なる私が暴れている!犬属性男子に萌える
自分を抑えて冷静を装う。
ティーダとじゃれ合いながらワッカさんがどこへ行くのか尋ねてきたので滝を見に行く、と伝えた。
すると何故かティーダが食いついてきた。何故。
「ナナシ、村で休んだ?」
「気がつくまで目を閉じてたから、休んだよ」
「違いますー!それは気を失ってたって言うんでーす。ほら、一旦戻って休ませてもらおう!滝へはオレも一緒に行くから、な?はい、方向転換!」
私は眠くないし体も気怠くないんだけど。
……しょうがないなぁ。くるりと方向転換。
ホッとしたようにティーダが笑う。
……し、しょうがないなぁ!!もう!
私、ティーダの笑顔に弱いな?
ワッカさんに笑われながら村へ向かう。
私と一緒だからか、ティーダに対して村の人たちの目は懐疑的で奇異なものを見る雰囲気ではなかった。冒険者の仲間と思われているんだろう。
それはそれで、よかったと思う。
見知らぬ土地の見知らぬ人からの敵意を含む怪訝な視線ほど、居心地の悪いものはないから。
村の施設をティーダに説明すると、寺院へお祈りに行くよう指示するワッカさん。
お目付け役、ってことで。と私もお供する。
そこは一緒に行ってあげてよ、ワッカさん。
寺院へ入れば私と同じように大きな像を見上げた。
ルールーさんから教えられたことを、そのままティーダへも伝える。なんだかオレだけ世界に置いていかれたみたいだ。ぽつりと、言葉が零れた。
「オレだけ?」
「うん。みんなが知ってる常識をオレは知らない。
何があった、とか。何のためにお祈りをするのか、とか。シンを倒した召喚士、って言われても正直なところ「なんのこってすか」そう思っちまう。
オレ、この世界に一人ぼっちなんだな、って」
そこでひとつ言葉を区切り私を見る。
「……思ってたけど。ナナシがいるなら一人じゃないよな。一人ぼっちが二人だったら寂しくないっス」
「うん、それに私はティーダを置いていかないよ。
この世界を知らない者同士、二人で学んでいけばいい。たまにこうやって足を止めて、弱音を吐いて肩も落として。悩みながら前に進もうよ」
「弱音吐いてるの、オレだけじゃん……」
「ふふふ!聞く人も必要でしょ!」
「……そっスね」
「そっスよ」
小さく笑みを見せるティーダ。
大丈夫、きみは一人ぼっちなんかじゃない。
……手を差し出されたことのある私は、彼の気持ちが痛いほどわかる。不安も心配も恐怖も。
それらを吹き飛ばしてくれる人がいる、安心感も。
よく、わかる。
よし!そろそろ出ようか!
ぽんぽん、と軽く肩を叩いて外へ向かう。
寺院から出てティーダへ振り返った。
「改めて、これからよろしくね、ティーダ!」
「唐突だな!?……よろしくっス、ナナシ!」
ビサイド島で再び会えたのは偶然じゃないはず。
……偶然だったとしても、構うものか。
私はティーダを一人にしない。
ずっと一緒に、というのは難しいかもしれないけど側にいられる内は彼と行動しようと思う。
祈り子の少年が指す“彼”が現れたなら、それはその時だ。ティーダも巻き込んで旅をしたらいい。
シンを倒すパーティの一員にしちゃおう。
うん。そうしよう。仲間、一人目確定だね!
「なんか、仲間になったみたいだ」
「海の廃墟で出会った時から、仲間だよ」
「あ、そっか!……そっか。そうだよな!」
ワッカさんの自宅へ着く頃には、ティーダはいつもの調子に戻っていた。よかった。
私も笑みが浮かぶ。
ひと休みしたら滝を見に行って、私が打ち上げられていたという砂浜へも行ってみよう。