ワッカさんの自宅で休ませてもらっていると。
寺院でもルールーさんに声をかけてきた、ピカリと光り輝く綺麗な頭の僧官が入ってきた。
「様子を見に行った方が、」なんて相談している。
私とティーダがいるの見えてないの?この人。
内密な話なら、せめて声量落としなさいよ。
島外の人間に聞かれてもいいわけ?
ああ、ほら。
ワッカさんが外で話を聞く、って連れ出した。
組織で機密情報を漏らすのはいつだって末端の部下なのよねぇ。どんな世界線でも一緒だわ。
ワッカさんの寝床に転がりウトウトしていたティーダにも聞こえたのだろう、上半身を起こしていた。
「……どうしたんだ?」
「さぁ。気になるなら行ってきなよ」
「っスね。いや、ナナシも行くんだぞ!?」
「ええ?私は島の散策に……」
「あっち行ってから!な!!」
ほら!ほらほら!!
急かすように腕を掴まれ、立たされた。
そしてぐいぐい引っ張られる。やめたまえ……!
引きずられるように寺院へ。
中ではやはりスキンヘッドな僧官とワッカさんが階段の下で話をしていた。もー、視界に入らない別の部屋でやり取りしなさいってば。
ティーダが果敢にも事情を尋ねる。
……まさか答えるわけないよね?
「召喚士が帰ってこないんだ」
ペロッと教えないでくださいワッカさん……!
はい、これで巻き込まれたよ。メインクエストだかサブクエストだか分かりませんけどもね!
QUEST ACCEPTED!ってか!!
落ち着け私。
全部喋ってしまったワッカさんの話を要約すると、
召喚士になるには試練を越えなければならない。
そしてその試練を越えたら、祈り子の間という場所で祈り子と対話し召喚獣の協力を要請する。
そうして契約を結べば晴れて召喚士となる。
……だが、祈り子の間から召喚士候補である一人の女の子が出てこない。長時間出てこないため心配になった僧官が様子を見てきてほしい。と頼んできた。
誰でもその祈り子の間に入れるのか聞けば、召喚士と召喚士になる前の従召喚士しか入れない。
その手前までなら召喚士を護る“ガード”は入れる。
ワッカさんは“ガード”らしいので頼まれた、と。
「……で、ワッカさん行かないんですか」
「オレぁ大丈夫だと思うんだけどなぁ」
「祈り子との対話ってのは精神力を使います?」
「たぶんな」
「中で倒れるとしたら様子を見に行くのは?」
「……ガード、だな」
「祈り子の間に入ってどれくらい経ちます?」
「一日は経ったと思う」
「なるほど」
そこでパチン!と両手を叩く。
「はい!ワッカさんは様子を見に行くべき!」
「オレもナナシと同じ意見!気を失って倒れて、そんでずっとそのままとか!しかも一日経ってんだろ?やべぇじゃん!ワッカは今すぐ行くべき!」
「でもな、ちゃんと他のガードもついてる。何より、試練中は入っちゃならねぇ掟があるんだ」
「ティーダ、どうしたい?」
「今すぐ助けにいきたい!」
「オッケー!行っといで!私はここで待ってる!」
「何勝手に決めてんだお前ら!寺院の奥に一般人は入れない掟なんだっての……!」
「召喚士の命と絶対の掟、どっちが大事か。天秤にかけるまでもないでしょうワッカさん!!」
ワッカさんは、ぐっ、と言葉を詰まらせた。
あなたが守るべきなのがどちらか?
自分自身、分かってるじゃないですか。
ティーダと顔を合わせてお互い頷く。
階段を駆け登り、扉の奥へ消えた。
ワッカさんと僧官は焦りの声をあげるが、追いかけようにも“掟”があるから踏み出せないようだ。
掟を守るが故に動けない……なんて。皮肉だね。
というか、臨機応変って言葉を知らんのかな。
「ナナシは冒険者、ってのだったな?」
「はい」
「掟やルールを破るのが冒険者……なのか?」
「そんなわけありません。助けを求める人や困ってる人を見過ごせないだけです。例えそれらを破ってでも助けなきゃいけない状況なら、迷いなく破ります。そうすることで処罰されるような掟やルールは根絶されて然るべきだと思いますね」
「……なかなか辛辣だな」
「至極真っ当な意見だと思いますよ?」
腕を組んで考えるワッカさん。
きっと従順に掟を守ってきたんだろう。
そんな人に今すぐ分かって欲しいとは言えない。
ただ、私のような人間もいるというのを知っててもらいたい。ワッカさんからすれば私は相当クレイジーでヤベェ人間だ・とも、思うけど。
掟を作ったのはどこのどちら様か尋ねれば一言。
「エボン」
いやいやいや。
もうこれ真っ黒だわ。
“祈り”や“教え”に加えて、“掟”ときた。
人を守っていると見せかけて全てを支配してる・ってパターンのやつだ。悪い意味で、すごい。
そりゃあ私たちが異質に見えて仕方ないはずだ。
「シンを倒せるのは召喚士だけだと聞きました。
その召喚士がシンへ挑む前に命を落としてしまったら元も子もない。と、思いませんか?なぜ守るべき希望の芽を自ら見捨ててまで、ワッカさんはエボンの掟を守ろうとするんですか?」
「……掟を破って命を落とした奴を知ってるからだ」
「その人には“守りたい何か”があったのでは?」
「っ、お前がオレたちの何を知ってるってんだ!」
「何も知りません。知らないから知りたいんです。
皆さんが祈りを捧げ、教えを広げたという“エボン”のことを。本当に信用に足る組織なのかを」
声を荒らげるワッカさんへ冷静に返す。
この場では私が異端者だ。わかってる。
寺院内がざわついているのも視界に入っている。
「スピラでの話ではないんですけど、私にも経験があります。命を賭して守ってもらったことが」
ゲーム内での話、だけど。
雪に覆われた土地。ドラゴンと戦う国で、彼は。
“光の戦士”を守って、散った。
友と呼んでくれる数少ない人。会いに行けばいつも温かく迎えてくれる、空色の髪の最高にイイ騎士。
彼だけじゃない。他にも、たくさん。
たくさんの人のお陰でプレイヤーは冒険が出来た。
自分から英雄になったんじゃない。周りの人たちがいたからこそ。守るべき人たちがいたからこそ。
プレイヤーは英雄と呼ばれる存在になったんだ。
「召喚士を護るのがガード。それなら、助けるべきです。掟も守って、召喚士も護ってください」
「……無茶苦茶だな」
「難しく考えるからそう思うんですよ。エボンの掟を破ってるのは私とティーダなんです!ワッカさんは掟を破るティーダを捕まえに行く。そして召喚士の無事を確認する。それだけの話ですよ!」
笑みを見せると、ワッカさんは首を傾げた。
「あいつを捕まえに行っていいのか?」
「どうぞ?私は助けに行きたいと言うティーダの意思を尊重したまでです。それに、召喚士のガードであるワッカさんを止める理由はありませんよ」
「……なんつーか、ナナシは不思議な奴だな」
「変な奴、って言われなくてよかったです」
「言わなかっただけだ!」
「思ってはいたんですね!早く行ってください!」
参ったという仕草の後、笑ったワッカさん。
せめてお前は入ってくれるなよ!そう釘を刺して階段を登り、扉の向こうへ姿を消した。
ティーダが中にいるなら私は行きませんよ。
そもそもここに残ったのは、ワッカさんと話をしたかったからなので。それも終えたことだし、私は寺院の外でのんびり待つとしよう。