桜のつぼみが膨らんでそろそろ花開く頃。
なんとか大学2年生へ進級できた私は、今日も今日とてバイトで汗を流していた。昨年から居酒屋のホールスタッフとして頑張っている。お金を稼ぐのはもちろん、社会経験を積んどくか!という考えだ。
お酒を飲める“いい大人”たちが、お酒の力を借りて騒いだり店員に絡んできたり罵詈雑言を浴びせたり。それが日常茶飯事で起きるこの職場。
正直、「大人ってクソじゃん!?」と思うけど、自分は年下の若者に当たるようなクソい大人にならないよう気をつけねば。と、反面教師にもなり得た。
給料と賄いが美味しいから続いてる説はあるよね!
美味しい賄いをいただいて帰路に着く。
暗い道をゆっくり歩いて自宅へ。
今日は何をしようかな。授業を復習するのは大事だけど、まずはゲームをしたい。そろそろ吟遊詩人のレベルが上がる。そうしたらジョブクエやって、幻術士もレベリングしよう。ヒーラー苦手だけど出来ないままじゃこの先戦術の幅が広がらない。
私がハマっているゲーム。タイトルはFF14。
MMORPG、大規模多人数同時参加型オンラインRPG……というものだ。ゲーム内の世界でも時間が常に流れ、NPC以外の動くキャラクターは画面の向こうに人がいる。自分だけの世界じゃない。
ストーリーは自分で進められるけど、途中で現れるダンジョンはフレンドと呼ばれる仲間や、見知らぬ誰かと一緒に攻略していくことになる。
これがなかなか面白い。フレンドがいなくても自動でパーティを組んでくれる仕様、最高です!
……べ、別に寂しくなんてないよ。
誰になんの言い訳をしてるんだか。
帰宅後、シャワーを浴びてラフな格好に着替える。
タンブラーにカフェオレを入れ、それを片手にパソコンの電源を押す。椅子に座りひと息ついた。
さあ、いざ!エオルゼアへ──!!
キャラクターを選んでログイン。
……ログインしたはずなのに。画面は一向に切り替わらず黒いままで、音楽すら流れない。
首を傾げて画面を見つめる。なんなのさ。
元に戻るのを期待して待つこと約10分。
黒くなったディスプレイが真っ白な光を放った。
突然の出来事に驚いた私は腕で顔を覆い、光から逃れる。ヤバい。これは本格的に壊れたかな?
顔を覆うと同時に目も閉じていたので、開けるのが怖い。煙とか出てないといいけど……!
身震いしつつ、恐る恐る瞼を押し上げた。
「……え?」
目を開けて飛び込んできた光景。
パソコン画面の復活、ではなく。
……そもそも。
“そこ”は自分の部屋ですら、なかった。
青く大きなクリスタル。
見覚えがありすぎるその形と輝き。
クリスタルを中心にして、周りには様々な種族の冒険者たちが各々話をしたり手帳を広げていたり。
そして似通った服を身に纏うこの国の人々。
私はここがどこなのか、何なのかを知っていた。
深く鬱蒼とした森林は黒衣森と呼ばれ、澄んだ河川を広く領する田園都市。
エオルゼアの都市国家のひとつ、“グリダニア”。
そう、ここはゲームの中の世界。
ぐらりと視界が歪む。
あの真っ白な光が部屋を覆った後、何が起きたの?
一瞬の内に気絶でもして夢を見てるのだろうか?
背中に嫌な汗がつぅ、と流れていく。
目を閉じて俯き、静かに後ずさった時。
「大丈夫かい?お嬢さん」
どなたかにぶつかってしまった。
後ろには椅子があるはず。椅子に座ってたはず。
でも、私は地面に立っていて誰かにぶつかった。
謝らなきゃ。
そしてここが本当にエオルゼアなのか尋ねよう。
尋ねて、肯定されて、その後はどうしたらいい……?
私、私は。
──私は。
どうなってしまうんだろう。帰りたい。
ここはゲームの世界で、私の世界じゃ……ない。
状況を把握する前に、私の脳はキャパオーバーになって意識がぷつんと……途切れてしまった。