02



意識が浮上して、目を開けた。
目の前に映る天井は見慣れないものだった。
横になるベッドも自分のものじゃない。
ああ、夢じゃなかったのか……。
思いきり息を吸い込み、思いきり吐き出す。
何度か瞬きを繰り返してから起き上がった。

「目が覚めたみたいだね」

柔らかな声が耳に入る。
そちらへ視線を移せば若草色のワンピースの上に黒いジャケットを羽織り、耳の長さと長身痩躯が特徴のエレゼン・フォレスター族である【ミューヌ】という女性が私を見て微笑んでいた。
右目下の黒子がセクシーさを際立たせている。
間近で見る彼女はこんなにお美しいのか……!
ここまで詳しくわかるのは、FF14をグリダニアから始めたゆえ、だ。初心者の頃から慣れてきた今まで、この人の元へは何度も何度も通った。

彼女は近づいてきて私の額に手を当てる。
熱はないようだね、目眩ももうないかな?
簡単な体調確認の後、招き入れたい人がいるから部屋へ通してもいいかい?と問われて、頷く。
ミューヌさんが扉へ声をかけたら控えめなノックのあと、男性が静かに部屋へ入ってきた。

「こんにちは、お嬢さん。体調はどうだ?」

優しく微笑むその男性。
彼は、……彼は、見たことがない。
でもきっと彼もゲーム内のNPCの一人だろう。
NPCの中でも主要キャラクターではないから記憶に残ってないんだ・と結論づける。

「体調は大丈夫、です。あの、あなたは……?」
「俺は一介の冒険者さ。きみが倒れた時、ちょうど真後ろにいてな。いやぁ、驚いたよ」

俺の装備に当たって打ちどころが悪く、気を失ったのかと!いやはや、何事もなくて安心した。
にこやかに笑う……冒険者、さん。
ミューヌさんとも顔を合わせて笑っている。
どうやら、グリダニアのクリスタルがある広場でぶつかってしまった人はこちらの冒険者さんらしい。
気を失った私を抱えて、ミューヌさんが運営する
【カーラインカフェ】へ連れてきたとのこと。
駆け込んできた冒険者さんの焦りように驚いた……と、ミューヌさんが話を聞かせてくれた。

冒険者さんは側頭部に特徴的な黒い角があり、皮膚の一部に硬質化した鱗が生え、ドラゴンのような尻尾をそなえている。肌は褐色。焦げ茶色、かな?
恐らくアウラ・ゼラ族だと思われる。
銀色に輝く髪、目が合うとにっこり笑う冒険者さんは、正直に言ってかなり格好良かった。
くぅ、イケメンオスラ……眼福です!!

いやいやいや!
にっこりほっこりしてる場合ではなかった。
ミューヌさんと冒険者さんがいるなら話を聞いて貰えるだろう、運が良ければ何か知っていることとかあるかもだし、助言をくれる……かもしれない。

「あの、お二人とも助けてくださりありがとうございました。私はナナシといいます。それで、ですね。信じてもらえるか分からないんですが私に起きた話を聞いてもらえない、でしょうか……?」

二人に目を向けるとミューヌさんは真剣な表情に。
冒険者さんは、……冒険者さんは。
めっちゃキラキラした瞳で私を見ていた。
やめろ、その「新しいクエストきたァ!」みたいなワクワク感出してくるのやめろ。これだからお人好し&お節介&クエスト中毒者は!!
ほら、ミューヌさんも「全くきみって奴は……」という顔になってる。ヒカセン、こういうとこある!

気を取り直して私の身に起きたことを話し始めた。



***



「私の見解になるけど、ナナシは元の世界からマザークリスタルによって喚び寄せられたんだろうね」
「そ、そんなこと可能なんですか!?」
「ありえない、とは言いきれないかな」

私の突拍子もない話に二人は静かに耳を傾けてくれた。否定せず、話を聞いた上で考えてくれる。
多種多様な民族に種族、蛮族、このエオルゼアには色んな事情を持つ者がいる。“別の世界から来た”と言っても疑問には思わないらしい。
ミューヌさん、好きになってしまう……。

そして冒険者さんは。
目を閉じて頭を軽く抑えていた。
これはもしや、超えるものの力が働いてたりする?
つまり……彼はこの世界の“主人公”なわけか。
すごい確率ですごい人物にぶつかったんだなぁ。

「……なるほど、」
「冒険者くん、視たんだね?」
「ああ。ミューヌさんの予想通りナナシはハイデリン、マザークリスタルに喚び寄せられたようだ。接触できなかったのは“まだその時じゃない”から・だと。で、もうひとつ。非常に言いづらいんだが……」

チラリと私を一瞥する冒険者さん。
なんだ。いい予感がしないぞ。

「この世界で力をつけて、別の世界の手助けをしてほしい……的なことを言っていた」
「……はい?」
「ようするに、戦えるくらい技術・武術を身につけてまた違う世界へ行け、ってことだな」
「……はい??」

違う世界へ行け!?
このエオルゼアで力をつけて!?
な、何を言ってるのマザークリスタルーーーッ!

頭を抱えつつ思いきり後ろへ倒れるとベッドが優しく受け止めてくれた。もう……もう動きたくない、何も考えたくないっ!なんで私なの!!
ミューヌさんの苦笑いと冒険者さんの笑う声が聞こえてくる。ちくしょう、楽しそうだな冒険者!

「つまり元の世界へは帰れない……と?」
「そういうことだ」
「嘘、絶望しかない……!!」
「ナナシも、どうやら大層な運命を背負ってるようだな!はははは!俺と似てるじゃないか!」
「冒険者さんは楽しんでますよね!?」
「ふはは、まぁな!そういえば名乗り忘れていた。俺は【エルム】。冒険者のエルムだ!」
「エルム、さん」
「敬称はつけなくても構わない。ハイデリンに使命を与えられたもの同士、仲良くしよう!」

快活に笑うエルム、さん。……エルム。

「ナナシも“光の戦士”だったんだろう?」
「……そう、ですね」
「えっ!?そうなのかい?見た目で判断してはならないけれど、きみはまだ幼いじゃないか」
「幼い?二十歳なんですが、幼く見えます?」

そう言えば、二人はまた顔を見合わせる。
は?え?なに?
ミューヌさんは困った顔で。
エルムは吹き出すのを堪えた顔で。

怪訝に思った私は、ベッドから飛び降りて鏡の前へ走る。鏡に写った私の姿……は。

「な!!なっ、なんじゃこりゃああぁぁあ!!!」

背はぐっと縮み、顔も二十歳時より幼く、
確かにどう見ても小学生ぐらいにしか見えない。
嘘でしょ。こんなことってある……?
項垂れていたら、体がふわっと浮いた。

「面白いなナナシは!ぶつかったのも何かの縁だろう!別の世界へ行く日まで、俺がナナシの身元保証人になる。遠慮なく俺と行動するといい!」

私の脇の下に手を差し入れて持ち上げたと思ったら、目線を合わせてまさかの保護者宣言をされた。
イエスもノーも言えないまま、肩車してくる。
落ちたら危ない、角でも掴んでてくれな!と言って颯爽と部屋を出て行こうとする。

ミューヌさんへ目をやれば「諦めて」とでも言いたげな表情で微笑んでいた。ミューヌさんは諦めないでほしい!この暴走冒険者を止めてください!

「さあ、行こう!」
「どこに!?」

ドアをバターン!!と勢いよく開け放つ。
どこかへ行くその前に。
なんとかミューヌさんの方へ振り向いた。

「介抱してくださり、ありがとうございました!
あの、よければまた会いに来ていいですか!?」
「どういたしまして。そこの英雄の相手に疲れたらうちのカフェへ休憩しにおいで、待ってるよ!ナナシ!きみにクリスタルの導きがあらんことを!」

お互い手を振り合った。
笑顔が素敵で優しいミューヌさん。
きっと近いうちに会える……いや、会いに行こう。

部屋を出てズンズン進んで行く。
どこへ行くのか尋ねると「弓術士のギルド!」と。
弓術士。

「なんで弓術!?」
「だってお前さん、直近じゃ吟遊詩人だったろ?」
「そう、だけど!いやいや、エルムはどこまで視たの!?異世界から来たって本当に信じるの!?」
「信じるよ。俺も似たようなもんだし」
「似たようなもん?」
「まぁそれは気にするな!ナナシが不安なのもわかる。怖いのもわかる。何故、どうしてと泣きたくなるのもわかる。だからといって下を向いたままでいいのか?ここがどこだと思ってる。エオルゼアだ。ナナシがかつて旅したことのある、エオルゼアだ!楽しまなきゃ損だと思わないか?」

肩車されているので顔は見えないが、声の弾み具合から言って、きっと笑っているんだろう。

私がこの世界へ喚ばれた意味。
この世界で力をつけて違う世界へ向かう理由。
外見が若返ってしまった訳。
全てに置いて、何がなんだか分からないままだ。
それでも。

……それでも。

悲観せずにいられるのは、私を肩車するこの世界の主人公……エルムのお陰なんだと思う。

「ナナシ、これからよろしくな!」
「……うん、よろしくね。エルム!」

彼が面倒を見てくれるというのなら。
少しだけ頑張ってみよう。
出来ることを、やってみよう。
元の世界へ帰れないのはめちゃくちゃ悲しいけど。

ファンタジーに溢れるこの世界で、私が私として生きていくために。下ではなく、──前を向こう。


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