見上げても最上階が分からないほどの超高層ビル。
様々な色の電飾で彩られた街並み。
側を通り過ぎて行く見たことのない乗り物。
歩道を行く人々の多さも目を見張るものがある。
夜だというのに、その街は煌々と光を放っていた。
ある人が海底に作り上げた幻想都市、アーモロートに似ている……気もするけど、ここまでギラギラな感じでライトアップはされていなかった。
どちらかと言うと私がいた現代の都市に近い。
ゆっくり歩を進めてみる。
歩道にはどこかへ向かう人々の姿。
その流れに身を任せて辿り着いた先は大きな大きなスフィアプールを有する、スタジアムだった。
これもまた、見たことがある。
ルカで初めて目の当たりにした建物。
ここはブリッツボールの会場だ。
中から人々の歓声が響く。
ちょうど試合を行っているらしい。熱気が伝わる。
実況をしている男性の声も聞こえてきた。
『今夜もジェクトが魅せてくれたー!!!!!』
ジェクト……?
耳が捉えた名前を頭の中で反芻していたら、今いる場所と目に入る景色が一瞬で変わる。
……ようやく、ここが現実じゃないと理解した。
周囲を見渡す。
静かに揺れる波の音、潮の匂い。
きっと、海が近い。港か浜辺のどちらかだと思う。
少し歩けば、俯き泣いている少年がいた。
『まぁた泣いてんのか?』
『泣いてない!』
『──は泣き虫だもんなぁ』
『だから!泣いてない!!』
『へっ、どうだか』
泣いている少年に声をかける人物。
その人を見て、私は息を飲んだ。
……ん?なんで息を飲んだの?
もしかして、この人を知っている……?
こんなに特徴的な風貌の人を忘れるなんて。
でも、確かに。
私はこの人に会ったことがある。
再び場面が切り替わった。
不思議な組み合わせの男性三人。
穏やかに朗らかに笑う、誰かに似た人。
紅蓮の服を身にまとう、見覚えがありすぎる人。
そして泣いている少年に声をかけた先ほどの人。
『無限の可能性にでも期待すっか!』
そう言って笑い声を上げたのは彼の人。
沈痛な表情なのはアーロンに似たその人だけ。
そしてまた、場面が変わる。
『じゃあな嬢ちゃん!あいつのこと、頼むぜ!』
はっ、とした。
アルベドの船。その船を襲ったシン。
船から投げ出されて海へ落ちた時に、出会った。
そしてこの人と、……ジェクトさんと話をした。
『──よォ、思い出してくれたか?』
背後から声をかけられる。
そこには不敵な笑みを浮かべるジェクトさん。
今までの光景は……ジェクトさんが見てきたもの?
『我ながら無茶苦茶やるよな!まぁ、やる気のある相手には本気でかからねぇと失礼ってもんだ!』
なにを、言ってるんだろう。
『嬢ちゃんは勇敢だな。誰より先に声を挙げる』
どうして、それを知っているんだろう。
『そんでもって、臆病だよな。本当は戦いたくもねぇのに、無理やり理由をつけて奮い立たせてる』
そんなことは、ない。
『嬢ちゃんの戦う理由、オレは嫌いじゃねぇぜ!』
私の戦う理由。
死なないため。生きるため。
フードの少年との約束を果たすため。
この世界を……守るため。
『ああ、違う違う。それじゃねぇよ。なんだぁ?
自分じゃ気づかねぇのか?なるほど。そんなら』
とんとん、とジェクトさんは自分の左胸を叩く。
『“失いたくないものがあるから、戦う”』
「!!」
『弱さは強さに変われる。いくらでも強くなれる。
立ち向かっていける。いや〜、嬢ちゃんいくつだ?
相当ヤバい奴と戦ってきたんだなぁ、あいつとそう変わらねぇ歳に見えんのに。えらい違いだ!』
豪快に笑うジェクトさん。
『ところでよ、嬢ちゃんは歌が好きか?』
歌。
突然の質問に首を傾げる。
『オレは聴くのが好きなんだ。歌うのは柄じゃねぇし、得意……でもねぇ。最近気に入ってんのは』
エボンの、祈りの歌。
……それって。
寺院でよく流れている賛美歌のような、あれかな。
意外、だと思った。ジェクトさんが好みそうなのは明るくノリノリなヒップホップ系に見える。
『なんつーか、落ち着くんだよ。不思議とな。
今回はそれを教えたくて呼んだ……というか、そっちが勝手に来たというか。ま、どっちでもいいや』
ふぁ。と大きく口を開けて欠伸をした。
眠たそうに目を擦り、私から視線を外す。
そういえば、ジェクトさんはどこにいるんだろう?ここは、スピラのどこか……だよね?
『半分正解、半分は秘密だ!……くあ〜、ダメだ!体力の限界。ねみぃ。嬢ちゃん、向こうにある赤い光を見て何度か瞬きをしろ。それで意識が戻る』
言われた通り、赤い光を見つめて数回瞬けば体がふわりと浮いた。テレポ特有の浮遊感。
……ジェクトさんの姿が見えなくなっていく。
ジェクトさんは、ずっとここにいるんだろうか。
直接会うことは出来ないのかな。
『……あいつのこと、……よろしく頼む……な、』
眠そうな声を最後に、私の意識も再び微睡む。
“ここ”は一体、どこなんだろう。