「赤崎莉央と申します!訳あって、白ひげ海賊団の船に乗せていただくことになりました!皆さまにはご迷惑をおかけするかもしれませんが、何卒よろしくお願い致します!」
「お前ら、リオはおれの女だ。手ェ出すなよ」
「エース…!!」
甲板中がザワついている。
ステイ。エースくん、ステイ。
まずは普通に挨拶をさせてほしい。
私たちが来る前にある程度マルコさんが説明をしていてくれたようで、船員の皆さんは笑って前向きな言葉を返してくれた。
マルコさん、本当に頼りになるなぁ…!
「エースに倣うわけじゃねェが、釘は刺しておかねぇとなァ。リオはお前たちの妹だ。傷つけたり、手ェ出したりするんじゃねェぞ」
「はーい!はいはーい!親父ィ!エースは手ェ出しまくってるけど、いいの!?」
「いいも何も、エースは恋人として連れて来てんだろうが。人の女に手ェ出す馬鹿野郎がこの船に乗ってるわけ…ねェよなぁ?なぁ、サッチ?」
「手ェ出すなよテメェらァ!!!」
釘というか、杭を打ってるじゃないですか親父さま。とってもかっこいいです親父さま。
家族が増えた祝いだ、存分に呑んで騒げ!!
そんな号令を受けた皆さんがワッと声を上げる。
そして宴…宴会……歓迎…会?が、始まった。
最初に挨拶をさせてもらったのは、この船の隊長と呼ばれる皆さん。親父さまの部屋にもいらっしゃった方々だ。一人ひとりに声をかけ、声をかけられ、頭を下げる。
エースと電話で話をした時に名前がよく挙がった人たちでもある。この人がイゾウさん、この人がビスタさん。そしてサッチさん。
名前と顔を一致させていくのもなかなか楽しい。
「お疲れさん」
「マルコさん!色々とありがとうございます」
「可愛い妹のためだ。気にすんなよい」
「ひぇ、普通に照れてしまいます…!」
エースは自分の隊の皆さんに囲まれている。
まさかエースも隊長だったとは。
マルコさんの隊に所属してるのかと思っていた。
…そういえば、隊長って呼ばれていたっけ。
親父さまにもう一度挨拶をしようと足を向ければ、マルコさんが着いて来てくれる。
その親父さまの傍には、なんと、とても綺麗なナースさんたちがたくさんいらっしゃった。
壮観。これぞ壮観だ。
見事なプロポーション、なんとも際どい看護服、そしてまさかの柄タイツ!これはすごい!
「よォ、リオ。楽しんでるか?」
「は、はい!親父さまのお陰です!」
「そんな事ァねェだろう。うちには色んな奴がいる。たくさん話をして良い情報だけ吸収していけよ。どうでもいい話をする奴が大半だがなァ!」
グラララララ!愉快そうに笑う。
片手に持つ盃はとても大きい。それを口にしようとすれば、隣にいるナースさんが止める。
「船長」
「…祝いの席じゃねェか」
「お酒が半分以上、入ってますよね?」
「飲みてェ時に」
「飲んでいいと言うナースはいませんよ?」
「む…」
お、押されてる!!
親父さまが押されている…!どこのどんな世界でも医療関係の方々には頭が上がらないんだな。
…それにしても、親父さまは体が悪いようだ。
鼻に呼吸器の管を付けているのは気になっていた。ナースまで着いているということは、だいぶ、良くない…のかもしれない。
出会ってまだまだ浅い関係だけれど、胸が痛む。
「あなたがリオね。エース隊長の想い人!うふふ、とても愛らしいわ!困ったことがあったらいつでも私たちの元へいらっしゃいな。必ず助けになるわ。そうそう、お酒は控えめに、ね?」
「はい!気をつけます、ありがとうございます!お姉様たちはとてもお美しいですね!」
「あらあら、素直な子は大好きよ」
数名いるナースの皆さんが近づいてくれて、各々流れるような手つきで頭を撫でてくれたり、髪を梳いてくれたり、スキンシップがすごい。
や、やばい…良い匂いがする…!お姉様ぁ…!
目がハートになりかけていたらしく、マルコさんが肩を叩いて現実に戻してくれた。
もう少しで新たな扉が勢い良く開きそうでした。
「リオ、エースが妬くよい」
「マルコさんは何も感じないんですか!?大人の女性の魅力が溢れまくってますよ!?」
「あー、まぁ。そうだな。腕がいいのは確かだ」
「…何があったか詳しくお聞きしても?」
「やめろ聞くんじゃねェ」
なるほど、良い色の話じゃないな。
お医者様と看護師さんに逆らってはいけない。
どの世界でも同じなんだね。肝に銘じよう。
「…エースも、惹かれたのかな」
「お、妬いてんのかい?」
「綺麗なお姉様を相手に妬くのは烏滸がましい気がしますけど…。そうですね、少しだけ…」
同じ土俵に立てるような容姿ではない。
でも、私のようにメロメロになってしまっているエースは…正直、想像したくない。
エースを探そうと視線を彷徨わせる。
横に居たマルコさんが、あっち、と指をさしてくれた。何でもお見通しで苦笑してしまう。
「呼んでこようか」
「いえ!大丈夫ですよ、ありがとうございます。エースにはエースの世界がありますし、私ばかりが彼を独占する、なんてできませんよ」
「リオは大人だねェ」
「これでも20代半ばですから!」
「は」
「はい?」
「何歳なんだ?」
「24です。あ、今年でひとつ増えますね」
年齢は知りませんでした?
そう尋ねると額を抑えるマルコさん。
なんですか、どうしたんですか。
「なんでもねェよい。リオ、飲めるのか?」
「…?はい。今日は控えようと思ってますが…」
「飲めるなら飲め。持ってきてやる」
「??ありがとう、ございます…?」
本当にどうしたんだろう。
マルコさんの苦悩は謎だが、聞いても答えてくれなさそうだ。喧騒の輪から離れて手すりの方へ向かう。皆さんの熱気に酔いそうだ。
海の音は穏やかだけど暗闇に包まれていて少し不気味だ。吸い込まれてしまいそうになる。
ふぅ…と息を吐いた時、名前を呼ばれた。
「マルコさん、サッチさん」
「主役がどこ行ってんだよい」
「そうだぞー!エースなんて浴びるほど飲まされてるぜ。ま、おれたちがリオちゃんと話を出来る絶好のチャンスだから、エースのことは割とどうでもいいんだけどね!!」
「それ私に言う必要ありました?」
「ないけど言うー!」
へへっ!と鼻の下を擦って笑うサッチさん。
なんだか憎めない人だ。
マルコさんから飲み物を渡される。
匂いからして…果実酒、かな。柑橘系かも。
一口飲むとオレンジの爽やかな甘みが広がる。
「昨日のエースはすごかったんだぜ」
「昨日、ですか」
「いきなり“青雉テメェーーー!!!!!”つってキレたかと思ったら、真夜中にストライカー引っ張りだしてどっか行こうとすんだよ」
「引き止めようとしたが、振り払ってなァ。
覇気もだだ漏れだったよい」
「新人の連中は充てられてたもんな。エースがあれだけ本気でキレるの久しぶりに見たわ」
昨日…。
思い出されるのはワタユキでの星祭り。
青キジのお兄さんにも会った。
…そういえば、エースの声が聞こえた瞬間があった…ような。なかったような。その辺は朧気だ。
「で、飛べるおれが事情を聞きにエースを追ってな。あいつ、リオが近くにいるから迎えに行く…、それしか言わなくてねェ」
「飛び出した理由が女ってんだから驚いたよな」
「確かになァ…。かなり切羽詰まった様子だったから、まずは縄張りのテール島へ行け…と指示した。実際、周辺にいてくれて助かったよい」
…そんなことが、あったのか。
偶然じゃなくて探してくれていたんだ。
目頭が熱くなる。どれだけ想ってくれてるのか。
これ以上好きになったら溺れてしまいそう。
「おれらは先にテール島から引き上げて、後から一人で帰ってきたマルコに話を聞けばまた驚いたぜ。海賊相手に立ち向かったんだろ?」
「武器を持たず、特別な力もねェ。危険で無謀な行動だと思うが…。勇敢だったとも、思う」
マルコさんがぽふぽふと頭を撫でてくれた。
次いで、サッチさんもよしよししてくれる。
や、やめてください。泣いてしまいます…!
手にしたお酒を飲み干せば、ほい。とサッチさんから次の飲み物を手渡される。…準備がいい!
お二人と話をしてる間に、船員の皆さんとも挨拶を交わすことが出来た。お酒をついでくれたり、食べ物を持ってきてくれたり。
餌付けをされてるような気持ちになるけれど、歓迎してくれるのも分かるので素直に嬉しい。
だんだん、体も頭もふわふわしてくる。
「……マルコ、そろそろ止めとこうぜ」
「……あぁ、エースに焼かれちまう前にな」
「エース?エースはどこにいますか?」
「なぁやばくない?リオちゃん酔ってるよな?」
「サッチ、エースを呼んで来てもらえるか」
「おおし、任された」
エース。
エースくん。そうだ、ここはエースくんの船だ。
隣にいるのは、んんん…?パイナップル…?
……違うや、マルコさんだ。船にはマルコさんも乗っているんだ。なんだか夢を見てるみたい。
「マルコさん」
「はいよ」
「ふわふわします」
「あー、そうだろうな。気持ち悪さはないか?」
「大丈夫です!元気ばっちり!」
「くっ、そ、そうだな、お前さん元気だよい」
「へへへ、よいよい!」
にこっ、と笑えばマルコさんも笑ってくれる。
こりゃダメだ。とも言ってる。
「リオ、大丈夫か……おい、マルコ…?」
「すまん」
「すまんじゃねーよ!なんで潰れてんだ!」
「歓迎の席だ、許せ」
「大丈夫だよ。ね、マルコさん!よいよい!」
「…マルコがもう一人いるみてぇだな」
「やめろサッチ、腹筋がやられる」
「よし、リオが可愛いから許す」
わーい、エースくんが来た!
どふっと体当たりの如く抱きつきに行っても、しっかり抱きとめてくれる。エースくんすき!
グリグリとたくましい胸板におでこを擦り付けると、マルコさんやサッチさんから笑う声が耳に届く。ふふふ、私も楽しいぞぉ!
「エースくん、エースくん」
「ん?どうした?」
「楽しいねぇ」
「そうか、楽しかったか」
「みんな優しくて、とっても嬉しいの」
「リオが優しくさせてんだよ」
「ふふ、家族がいっぱいいて、幸せだねぇ」
「これからはリオも家族だ」
「私もみんなと家族になっていいの?」
エースくんに呟いたつもりが、あちらこちらから
「もちろんだぞ!」って声が聞こえる。
嬉しいなぁ、大家族。ふふ、幸せだなぁ。
「んじゃ、酔っ払いの主役はおれが連れて行く」
「疲れてるだろうから、寝かせてやれよ」
「わかってる!オヤジ!今日はありがとな!」
「おう。エース、リオは寝かせてやれよ」
「マルコと同じこと言わないでくれ…」
グラララララ!
楽しそうに白いひげを揺らしながら笑う。
親父さま!皆さん!おやすみなさい!!
元気よく手を振れば、手を振り返してくれた。
歩き出したエースくんの手を握って指を絡める。
「エースくんと一緒に寝ていいの?」
「くん、が付いてんぞ」
「エース!」
「それでよし。本来ならナース達の部屋で寝る方がいいんだろうけどな。おれがリオと離れたくねぇから、一緒に寝ようぜ?」
「うん!」
照れたように笑うエースがかわいい。
頬が緩みっぱなしだけど、気にしない!
ご機嫌な足取りで宴の席を後にした。