23

モビーで迎える初めての朝。
眠たい目を擦り起き上がろうとするが、エースの腕が腰をがっちりホールドしているのでそれは叶わなかった。なんと足も絡んでいる。私はエースの抱き枕か何かかな?

エースの顔を見ればスヤスヤと眠っていた。
頬をつついても撫でても起きない。完全に寝ている。これが狸寝入りだったら相当な役者だ。
起こすのは本当に忍びないが、少しこの体勢がきつくなってきた。お手洗いにも行きたい。

「エース、エースくーん」
「ん"ぁ…?んんー」
「腕と足をどかしてほしいなぁー?」
「……いやだ…」

より一層密着して抱きしめてくる。
うおお、苦しい…!そして恥ずかしい…!
渾身の力で体を離そうとするが、ビクともしない。どういうことなの。私はそんなに非力だった?そんな馬鹿な!…ぐぬぬ、やっぱり無理だ。

力でダメだなら頭を使おう。

「エースの上に乗せて?」
「…うえ…?」
「仰向けになって、私を乗せてほしいな」
「おお、朝から大胆だなぁ…」

そっちに考えがいきますか。
若い若い!…4歳しか変わらないけど。
私に言われた通り、抱きしめたまま仰向けへと体勢を変える。では、エースの上に座ります。そう伝えれば腕が離れていく。
ここまでくれば、こっちのもんさ!

ピョン!とエースの上から飛び降りた。
ふっふっふ、計画通り…!

「……リオ…」
「お手洗いへ行ってくるね!」
「謀ったな…?」

謀りましたとも。
唸るエースの頭を撫でて部屋を出る。
夜中に降り続いた雨は止み、空は快晴だった。
海も穏やかで波の揺れをほとんど感じない。
これは大型船だから、なのかな。

女性用のお手洗いはナースのお姉様たちの部屋にしかないらしいので、そこを目指す…が、場所を把握していないことに今さら気づく。
エースを起こすわけにいかなかったしなぁ…。
どうしたものかと悩んでいたら、前方に大きな人を見つけた。あの人はジョズさん…だったかな?
こちらの世界の人は本当に身長が高い。
見上げるほどの大きさに口が空いてしまう。

声をかけて挨拶をすれば、短く返してくれた。
事情も話してみたら途中まで案内する・と申し出てくださった。とてもありがたい…!

「船酔いは、していないか?」
「はい。今のところ大丈夫です!」

そうか。無理はするなよ。
気遣ってくれるのが嬉しくて笑顔になる。
ジョズさんの大きな背中を見ながら進む。
その間にすれ違う船員さん達とも挨拶を交わす。皆さん早起きなんだなぁ、と感心してしまう。

部屋の近くまで来ると、ジョズさんは踵を返して戻ろうとする。ありがとうございました、助かりました!頭を下げてお礼を伝えれば、帰りの心配をされた。エースの部屋を、覚えてるか?と。
…やっぱり、ここの人たちも優しいと思う。
大丈夫です!と威勢よく答えたが、覚えていない。流石に待っててくださいとは言えなかった。

ナースのお姉様たちの部屋は、本当に海賊船??と首を傾げるほどに設備が整えられていた。
お手洗いを借りた後に、部屋着に季節の服など色々袋に詰めたものを渡される。少ないけど、使ってほしい。と。どうしてこんなに良くしてくださるのか…?そう尋ねれば「可愛い妹に不自由はさせたくない。理由はそれだけよ」パチンと見惚れるウインク付きで返されて、私は号泣した。
嬉しいです、ありがとうございます…。
この言葉しか紡げない私に、泣き声を聞きつけた他のお姉様たちが集まってきて慰めてくれる。
泣き腫らしてしまい、ホットマスクまで持たされた。手厚い施しに申し訳なさがマッハだ。

部屋を出ると何故かそこにマルコさんがいた。
ナースのお姉様に呼ばれたらしい。

「マルコさん、おはようございます!どなたかをお待ちですか?」
「おはよう。待ってたのはお前さんだよい」
「え」
「荷物持ちと部屋まで連れてけ、ってな」

お姉様たち、過保護すぎません?
さすがに持たせられない・と荷物を抱えたが短い攻防の末、奪い取られてマルコさんの後ろを歩く。今度は周りをしっかり確認しつつ。
一人で行き来できるようにならねば。

そういえばマルコさんに挨拶をした時、眼鏡をしていたような。すぐに外してしまったけど。

「眼鏡、似合いますね」
「老眼鏡だ」
「…はい?」
「本気にすんなよい。まぁ、たまにな」
「マルコさんはおいくつなんですか?」
「43」
「ぜっっったい嘘ですよね?」

43、…43!?こんなにも若々しいのに?
待って、うちのハゲ上司は30後半じゃなかった?
全てにおいて雲泥の差すぎる…!
動揺を隠しきれずにいるとマルコさんが笑う。

「嘘つく必要ねェだろう」
「こんなに優しくてカッコよくて良い体格しているのに!この世界はどうなってるんですか…」

もしエースが40代になったらどうなってしまうのか。ハイパー格好良いに決まってるわ…。
イケオジになってるのが想像できる。

「リオはおれが格好良く見えてんのか」
「そりゃあもう。一番隊長さんで、書類仕事も出来て、それでいて気遣いも出来て、頼りになって、青い鳥?になって飛べるんですよ!?格好良くない要素が全く見当たらないのですが…!」

エースからの情報がほとんどだけど。
実際お会いしたら、その情報が本当だと確信出来るほどしっかりした人だと思った。

「…なァ、あまりその気にさせると」

エースから奪っちまうぞ?

私へ振り返り、たった一歩で距離を詰められて耳元でそう囁かれた。ぶわ、と顔が熱くなる。

「おれは海賊だ。欲しいもんは、奪うよい」
「だ!だめです!」
「何がどうダメなんだ?」
「私はエースの嫁なんです!奪われません!」

…。

「ぶっは!!!!!っ、くく…そ、そうだな…!エースの、よ、嫁…だった。ふ、嫁…っ」
「わぁぁぁマルコさんに弄ばれた!!」
「おいおい、その表現はよろしくねェぞ」

思いのほか大笑いするマルコさん。
くっそぉ…!これはからかわれたな!?
憤慨していると、突然後ろから抱きしめられる。
この腕と安心する匂いはエースだ。
ということは、エースの部屋が近いのかな?
振り向こうとしたけど、それは叶わなかった。

「…マルコ」
「可愛い妹をからかっただけだよい」
「その目は本当に妹を見る目なのか」
「お前が弟の話をする時と同じだろう?」
「…信じていいんだな?」
「あァ。なかなか起きてこねぇ寝坊助の可愛い弟をからかってる、ってのも含まれてるよい」
「うわ、気持ち悪ィこと言うなよ…」

一瞬、ピリッとした強い緊張が走った気がする。
気がするだけであってほしい。
普通に会話を始めて、胸を撫で下ろした。
マルコさんに持たせてしまっていた荷物を受け取ると、今度はエースがそれを取っていく。
何故持たせてくれないのか。あなた方と比べたら非力ですけどね!それくらいの荷物なら余裕だと思うんですけどね!!ちくしょう!

エースの部屋はすぐ近くで、私から先に入って扉を押さえた。エースが中へ入り、荷物を置く姿を横目に扉を閉める。一応ルートは覚えたと思う。
…でも、念には念をと言うし、もう一度くらいは、エースに頼んで案内してもらうべきかな?

エース、と声をかけると同時に体が浮く。
ぽふりとベッドへ座らされてエースが私の腰に抱きついてきた。無言で太ももに顔を埋める。

「どうしたの、エース?」
「…おれはこんなに心が狭かったのかと思って」
「??」
「マルコがリオに近づいた時、すげぇ焦った」

リオがなんとも思ってないのはわかる。
でも、リオを想う奴が現れると焦る。
誰も近づかないでほしい。でも、そうするとリオの世界が狭まる。それは良いことじゃない。
だから、…だから。

「それってつまり…やきもち?」
「……一言でまとめると、そうだな…」

ぐりぐりと頭を押しつけてくるエース。
優しく頭と髪を撫でればその動きが止まる。
可愛い可愛い、私の恋人。

「想いが重くて悪いな」
「簡単に押し潰されないので大丈夫です」
「…おれ、リオのこと好きすぎじゃねぇ…?」
「ふふふ、私もエースのこと好きすぎるよ?」

顔が脚から離れて近づいてくる。
ちゅ、と軽く唇が触れて額を合わせた。
甘い空気が流れる中。

「はい、おはよーさァん!!!なぁ!お前らさぁ!!とっとと朝飯食いに来てくんねぇかな!?いつでもイチャイチャ出来るんだからよォ!特にエェェーーースゥ!テメェは隊長だろうが仕事しろ!このっ!ばぁぁぁぁぁか!!!!!!」

おうふ、サッチさん…。
口を挟む暇もなく言いたいことを全力で投げつけてきて、さっさと居なくなってしまった。
涙目だったのは触れないでおこう。

「…なんなんだよ、サッチは」
「迷惑かけてるんだよ、私たち」
「単におれらの邪魔してェだけだろ?」
「そ、それは定かではないけど…」
「仕方ねーな、飯食いに行こう」
「はーい!あ、エース。お仕事が終わったら、また船内を案内してほしいな。いいかな?」
「おう、いいぞ!なんか今日は頑張れそうだ!」

とても良い笑顔で立ち上がり、手を差し出してくれる。その手を握って部屋を後にした。
やっぱりエースは笑顔が一番素敵だと思った。


Let’s Adventure!

エースの世界へ来てしまった私。
怖がっていても始まらない。さぁ、冒険だ!

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