果物の形をしているが、果実の味はなく、ひとたびその実を口にすれば悪魔のような力を手に入れることができる。だがその代償としてこの広大な海から嫌われ、泳ぐことはおろか触れるだけでも全身のちからを奪われる。
人が人ならざる力を持ててしまう、危険な果物。
それが…悪魔の実。
「こわ…」
手にした本を棚へと戻す。
私はこの世界を知ろうと、マルコさんから許可を得て大量の本を保管している部屋に来ていた。
そこで見つけたのが“悪魔の実”についての本。
興味をそそられ、読んではみたが…。
納得出来る内容だったけれど、実の全貌は未だに解明されていないので消化不良感が残る。
海に嫌われてしまうのに、海賊をしているのもすごいなと思う。死と隣り合わせすぎない?
あ、ちなみにだけど、エースは2番隊の皆さんと一緒にお仕事してます。がんばれ。
「面白い本が、あったかい?」
声をかけられてそちらを向くと、独特な着物を身に纏い和風な雰囲気を全身から醸し出す、とっても美丈夫なイゾウさんが立っていた。
悪魔の実の本を読んでいたことを伝えると、
「まぁまず最初に気になるものだよな」そう頷かれた。こちらの人も不思議に思ってるんだな。
「悪魔の実に詳しい奴がいるよ。ティーチっていうんだ。黒い髭が特徴の、図体がデカい奴さ。見かけたら声をかけてみるといい」
「ティーチさんですね、ありがとうございます」
「他に気になることは?」
「そうですねぇ…。そうだ!世界地図があるならぜひ見てみたいです!」
「世界地図。本当にこの世界を知らないんだな」
「すみません、無知は罪ですよね…」
いいや、そんなことはないさ。
知ろうとする奴はそれだけで賢いよ。
ふんわり微笑まれて、ちょっと照れる。
「んー、地図か。それならマルコの部屋に海図やそういったモンが置いてあるはずだ」
「マルコさんは何者ですか!?」
有能すぎるのも心配になる。
送ってあげよう、と仰ってくださったので好意に甘えることにした。部屋を出ていくその前に。
「イゾウさん、日本という国をご存知ですか?」
「ニホン…いや、わからないな。今おれに聞いたのは、この格好が関係してるのかい?」
「はい…。日本にも、着物を着る習慣があるので、もしかしたら…と思いまして…」
すみません。
謝ると肩をぽんぽんと叩いてくれた。
イゾウさんの後に続いて船内を歩く。
どこにどんな部屋があるか、隊長さんの部屋はどこか…というのはまだまだ覚えられそうにない。
マルコさんの部屋の前へ着いて、イゾウさんにお礼を言えば「今度一緒に飲もう。良いお酒があるんだ。その時はエースも誘っといておくれよ!」綺麗な笑顔で手を振って行かれた。
この船って、海賊船…だよね…?
某ジャック船長はあんなにちゃらんぽらんなのに…!全然そんな人が見当たらないな…!?
ノックを2回。
返事があったので名乗ってから用件を言えば入室を許してくれた。静かに入ればマルコさんは机に向かって紙と格闘している。
「地図が見てェのか」
「はい。知っておいて損はないかな、と」
うちの一部の連中に聞かせてやりてェ台詞だ。
笑いながら地図を広げてくれた。
この世界にある島、その全てが載っているわけではないらしい。最もわかりやすい縮小地図。
「おれたちが航海している“
「ふむふむ、この二つの帯はなんですか…?」
「凪の帯、カームベルトと呼ばれている海域だ。大型の海王類ってのが生息していてな。あー…まぁ、要は近寄らない方がいい場所だ」
地図を見ても、解説を聞いても。
やはり私の知る世界とは全く異なっている。
グランドラインと呼ばれる航路を一周することが出来たのは、ゴールド・ロジャーという人のみ。
その名前は微かに記憶にあった。
「ゴールド…ロジャー」
「なんだ、知ってたのか?」
「エースと通話をした最初の方で…耳にしたような、気がします。有名な方なんですね」
「…そうだな、親父に負けず劣らず有名だよい」
少しだけ目を伏せたマルコさん。
胸の内を窺い知ることは出来ないけれど。
…この話は、あまり深く触れないでおこう。
そういえば!
空気を変えるために、パチンと両手を叩く。
まだマルコさんに聞きたいことがあったんだ。
「能力者、ってなんですか!?」
「……今さらそれか?」
「今さらも何も、私にはなんのこっちゃですよ!マルコさんが青い…鳥…?に、なったのはこの目で見ましたし、きっとそれが能力者ってことなんだと分かります!でも!」
結局、能力者って何ぞや??
「エースは説明してないのか」
「今日聞こうと思ってました」
「それならアイツから聞けばいい」
「マルコさんからも聞いておきたくて。だって青い鳥ですよ!?なんですか青い鳥って!」
「…そうだな、いつまでもそんなメルヘンな呼び方されてちゃあ、おれがイジられちまう」
ぼう、青い炎が腕に宿る。
宿る…というか腕から…出てる?
「おれは“トリトリの実”の能力者。鳥のモデルはフェニックス、つまり不死鳥だよい。リオがイメージしてる青い鳥…なんて可愛いモンじゃねェさ」
「トリトリの…実??」
「ああ。悪魔の実という果実を口にしてな」
「悪魔の実!ちょうど本で読みました!じゃあ、マルコさんは泳げないんですね?」
「まぁな。その代わり、おれは飛べる」
その代わり、おれは飛べる。
うわぁぁぁぁカッコイイ!言ってみたい!
…危うくテンションが振り切れる所だった。
悪魔の実を食べた人が、能力者と呼ばれる。
なるほど。
少しずつ単語の意味が分かってくると、様々な出来事にも納得ができるし理解も深まる。
はたして、エースは何の実を食べたんだろう。
確か言ってたと思う。なんとかの実。能力者は、なんだかすごい人!ということしか思い出せない…!もっと説明を求めておけばよかった。
「エースに聞くのが楽しみになりました!」
「そうかい、そりゃよかった」
「あ…!お仕事の邪魔をしてすみません!」
「気にすんな。いい息抜きだったよい」
「お手伝い…は、書類を触るわけにいきませんし…なにか私に出来ることはありませんか?」
「ありがとよ。気持ちだけ、受け取っとく」
「…理想の上司…!」
「??」
だめだ。
あっちに戻ったら絶対自分の上司を見て、深いため息を吐く自信がある…!上司になってほしい。
帳簿・表作成・計算系得意です!ファイル整理とかもやれます!いつでも呼んでください!
伊達に事務仕事してませんので!!
活かせるものがあれば、活かしたい。
力強く自分の能力をアピールしたら、マルコさんが少しだけ「えっ…マジで?」という期待の目で見たけれど、今日のところは大丈夫。そう言ってエースの元へ戻るよう指示された。ちぇっ。
マルコさんの部屋を出て、船内をふらふら歩く。
…皆さんにはこの表現でお察し頂けてるだろう。
そう!エースの部屋に戻れないのである!!
エースの部屋からお姉様方の所へはジョズさんが。その逆はマルコさんが。本の保管庫まではエースが。マルコさんの部屋へはイゾウさんが。今までは誰かしら行く先を導いてくれていた。
一人になった今、不安で不安で仕方がない!
マッピング能力ゼロなのが悔やまれる。
エースが仕事を終えたら本気でメモを取ろう。
これは生活に支障が出てしまうやつだ。
まずは、上の甲板を目指さねば。人影が見えるまで広い船内で迷子になる私だった。
ちなみに出会ったのはジョズさんでした!
一日に二回も…本当に申し訳ございません…!