02

お昼の休憩中。
手短にご飯を済ませスマホで検索してみる。
昨夜、男性が口にしていたでんでん虫。何を指しているのか気になっていた。結果、何が分かったかと言うと、それはかたつむりの呼称のこと。
…まぁ、そりゃそうだろうね。
むしろそれ以外にあるのかって話だよ。

非通知からの着信を拒否する・に設定しようか。でも、用があるなら明日にしてほしいと伝えた手前、今日までは設定しないでおくべきか。
知らない人からの電話だから配慮しなくてもいいんだろう。けど、だけど。

ううーん、と片手で眉間を揉みつつ悩んでいると後ろから声をかけられた。
声の主は隣の部署の同期だ。

「赤崎、さっきから何難しい顔してんの」
「非通知からの着信を拒否するかどうかをね」
「拒否一択じゃん?」
「それがそうもいかない事情がありまして」

ふぅ。とため息をついた途端、興味津々な表情で近くの椅子を引き寄せて座る。
別にこれといって面白い話じゃないんだけど…。
昨日の出来事をざっくりと簡単に説明した。

「結局のところ、赤崎の知り合いではないんだよね?律儀に相手からの着信を待たなくていいんじゃない?私なら、数日は拒否設定しちゃうな〜」
「そうだよね。名乗られたけど聞いたことがない名前だったし。でも、なんだか相手に悪いような気もしてさ…」
「ま!取る取らないは赤崎の自由だよ。それより、上手いこと言いくるめられて変なもの買わされないようにね。それだけは気をつけなね!」
「うわ、正体はまさかのセールス説…!」

同期と顔を見合わせ、一緒になって笑う。
そうか、セールストークの可能性もあるなぁ。
それならそれですぐ切ってしまおう。
話を聞いてくれた同期に礼を言い、スマホを鞄へ戻した。午後の仕事は集中できそうだ。

─そう、結果として仕事に集中出来た。
黙々と書類を作り、資料を揃え計算して打ち込み、なんとか1時間の残業で仕事を終えた。
ハゲ(て欲しいと常々思っている)上司から仕事を押し付けられた時は…コイツどうしてやろうかと思ったけどね。その内、痛い目見せてやるわ。
強めに拳を握りつつ、退勤。

コンビニへ寄ってサラダとほぐされた蒸しチキンを購入。混ぜ合わせたらとても美味しいのだ。
もちろん、食後のデザートもひとつ。
自宅に着いて購入したものを冷蔵庫へ片付けたらまずはシャワーだ。化粧を落とし、汗も流してスッキリさせる。
今日もお疲れさまでした。頑張ったぞ、私。

髪を乾かすのもそこそこに、ソファーへダイブ。
ゴロゴロしていると眠たくなるので早々に起き上がり水分補給する。ついでにサラダも食べてしまおう。深めのお皿にサラダを敷き、ほぐしチキンを投入。さらに胡麻ドレを少量加えたら完成だ。
手を合わせ、食べようと口を開けた時。

「わ、本当にかかってきた…」

非通知から着信が。
おそらく昨日の人だと思う。
非通知でかけてこないで・と言ったはずだけど。
とりあえず用件を聞くだけ聞いて、切った後にすぐ着信拒否で設定を変えよう。

「はい、どちら様ですか?」
『おっ!今日は出てくれたな!』
「…どちら様ですか」
『おれはポートガス・D・エース!あんたは?』
「ええと…ポートガス、さん、ですね。先にご用件を伺ってもよろしいですか?」
『おれのことはエースでいいぞ』
「ご用件はなんでしょう?」

スッゲェ警戒されてる!!
と彼の声が耳に届く。もしかして、それは心の声ですか。口に出ちゃうタイプの人らしい。
ポートガスさんは、何故私に電話をかけてきたのか。その説明を一応してくれた。
一応、と付けたのは理解できない単語や言葉が出てきたから。自分なりにまとめてみると。

でんでん虫を見つけて拾ってみたら、突然念破を発信した。どこの誰に繋がるのか分からなかったので最初は自ら切ったが、続け様に発信するので自分に縁のある人かと思った。
それはすぐに切られてしまい、相手が海軍か同業者か判断がつかず、盗聴されて居場所を知られても困るので準備をして夜にもう一度試した。
通話は繋がったが、あまり話も出来ず切られてしまったので、今夜またかけてみた。

と、まぁザッとこんな感じ…だ。
まとまっているのか分からないけれど、とにかく彼は私が誰なのかを知りたいようだ。
それにしても、誰だと聞かれたら正直困る。
名乗ればいいのか。それで納得するのかな。
というか、海軍とか盗聴とか同業者とか不穏な単語がちょいちょい出てくるポートガスさんこそ、一体何者なんだろう。

『それで。あんたは誰なんだ?』
「私は、赤崎莉央といいます」
『どっちが名前?』
「莉央、ですけど…」
『リオか!いい名前だな!』

う、うん。見知らぬ人から名前を褒められても、戸惑うことしか出来ない。怪しさが増す一方だ。
手元に視線を落とす。先ほどまでシャキッとしていたサラダが、心なしか萎んでいるように見える。そういえばまだ手付かずだった。デザートもあるし早く食べてしまいたい。

「私はポートガスさんの知り合いでも何でもありませんし、あなたの居場所を知ろうとも思いません。私からは何も用がないので、連絡はこれ以降しないでもらいたいです」

はっきりと、伝えた。
これで電話をかけてくることはないはずだ。
相手の返事を待たずに、それでは。と声をかけて通話を切ろうと耳からスマホを離す。

『ちょっと待て』

静かに響いた、彼の声。

『おれは、おれを知らないあんたを知りたい』

明るい口調で軽く話していた時とは違い、電話越しでもわかる真剣な声色。
そう。真剣であることは、わかる。
わかるけれど。

「すみませんが、それは出来ません」

悪い人ではないんだろう。
でも、こちらへ踏み込まれるのは怖い。
ましてや他人だ。簡単に素性を晒したくない。

『あー、そうだよな。おれから連絡しといて、あんたのことを知りたい・って一方的に言われても困るよなァ…。よし!わかった!』

明日また、この時間に連絡する!
じゃあな!リオ!!

ブツッ!と勢いよく電話を切られ、通話終了の画面が表示された。突然のことで唖然とする。

いやいや、待て待て待て待て!?
“明日またこの時間に連絡する”!?
どうしてそうなった!私、連絡はこれ以降しないでもらいたい・って言ったよね!?
えっ、通じてなかったの?嘘でしょ…?
ポートガスさん、話を聞かない感じか…。

大きなため息を吐き、スマホをテーブルに置く。そしてフォークを手に取り、サラダをつつきながら私はひとつの決心をした。

「着信拒否しよう」

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