56

天候と海流、どちらも荒れた海域に浮かぶ島。
そこにユメユメの実の能力者がいた。
前回強襲してきた海賊とは別の海賊団へ紛れ込んで正体がバレないよう息を潜めていたらしい。
存在と潜伏する島の情報が割れたのは二番隊の隊員さんと交戦した相手が倒れた時に零した一言。

あいつの夢の通りになった・・・・・・・・・・・・

隊員さんがさらに問い詰めて、島の情報を得た。
その島の近くにいた白ひげ海賊団傘下の船が数隻、件の能力者が逃げないよう島周辺を厳重に見張り、
そして、親父さま率いる本船が到着したわけだ。

そこからの展開も非常に早かった。
沖に停泊する複数の海賊船。
現れた“四皇”白ひげの本船、モビー・ディック号。
空を旋回する、青い不死鳥。
ビリビリと肌を刺すような威圧感すら島へ届く。

能力者が隠れ蓑にしていた海賊団は恐れおののき、早々に無条件降伏した。標的である能力者は捕まっては堪らない、と上手く逃げ出したようだがそんな彼の眼前に立ち塞がった…二番隊の隊長。
踵を返せば、見慣れぬ黒いコートを羽織った男。
そちらに気を取られた能力者はエースの火拳を避けられるはずもなく、まともに喰らって戦闘不能。
その後サボさんが素早く拘束して回収した。

場所は変わり、モビーの甲板。
ようやくぶっ飛ばせた・と、エースはすっきりした表情で私に報告してくれた。苦笑いしつつエースに感謝の言葉を伝えて能力者の姿を確認する。
…顔の骨格が歪んでる気が…しないでもないけど、間違いなく私が以前対峙したあの男だ。

「てめぇの未来は見えなかったようだな」

腕を組んで能力者を見下ろすマルコさん。
背負うオーラが半端ない。普段の怒り方とは違う。
…本気で怒らせるとこうなるんだ、と驚いた。
対して私はというと、怒りの感情はほとんどない。
エースや皆が怒ってくれたし、ここまでボコボコにされた姿を見ればもう満足というか。

能力者の処遇を決める話し合いが始まる。
不穏な意見が飛び交う中、隊長たちと親父さまの前に進み出て声を上げた人がいた。…サボさんだ。

革命軍が能力者の力を利用したい。
その後も海軍に引き渡すつもりはない。
一般人へ向けて能力を行使させない。
もちろん、海へ逃がすようなヘマもしない。

「革命軍へ恩を売ってくれねェか?損はさせない。必ず倍以上にして恩を返す。必ずだ」

いつもの飄々とした態度ではなく、真剣な表情と確固たる意志を持って紡がれた言葉。
革命軍が能力者を引き取りたい理由。
それは恐らく、能力者の能力が目的だと思う。
“少し先の未来を見る”。
…確かに、革命軍なら起こりうる未来を見て暴動や戦闘を事前に阻止、もしくは回避出来るだろう。

能力者を引き渡して革命軍へ恩を売る。
革命軍が得た情報をこちらにも流してくれるなら、そんなに悪い話ではないと思う。
成り行きを見守っていると親父さまが声を上げた。

「だとよ、リオ」
「……はい?」
「こいつの処遇はお前に任せるぜ」
「はい??」

…親父さまは何故か私に判断を委ねてきた。
もはや無関係だと思っていたのに、まさかの展開。
戸惑いつつ能力者を見る。

私は能力者の死を望んでいるわけではない。
かと言ってこのまま何もせず解放するのも良くないと思う。なんせ他の海賊に使って白ひげ海賊団を強襲するよう唆す、狡猾な人だ。野放しに出来ない。
でも、この船にずっと乗せておくのは正直…嫌だ。

一度瞼を閉じ、ゆっくり開く。
視線を上げてサボさんを見つめた。

「サボさんは過去と未来、どちらを見ますか?」

私の問いにパチパチと目を瞬かせるサボさん。
直後、ニヤリと悪い顔で笑った。

「海賊へ身を置くには惜しい人材だな、リオは。
わかった。その質問だけは答えておこう」

私を見て、親父さまを見上げ、クルーの皆さん全員をぐるっと見渡して、最後にエースを見つめる。
その意図は…分からない。

「おれは、おれの過去を知りたいんだ。おれの未来はこれから作っていける。だから、過去を選ぶよ」
「…過去を知りたい、ですか」
「ああ。革命軍に所属するより前のことを、だな。詳しくは言えねェが…わけあって過去を見たい」
「大事な過去、なんですね?」
「いいや、わからねェ。それすらわからねェから、知りたい。おれはおれの為に知っておきたいんだ」

過去を選ぶサボさん。
自分自身のために過去を知りたい、と。
…それは恐らく、コルボ山での記憶のことだろう。
幼少期に出会った大切な兄弟たちの記憶。
能力者の夢が思い出すきっかけになるかな。
…なるといいな。

また私へ視線を向けて肩を竦ませた。

「まあこれは本当におれ個人の考えさ。革命軍としてはもちろん、未来を知れた方が助かる」
「なるほどです。ティーチさん…黒ひげの情報は、引き続き共有してもらえますか?」
「ああ。それに関しては包み隠さず伝えるよ」

こちらのデメリットはなさそう。
強いて挙げるなら、今後も変わらずエースと喧嘩をして船に多少の被害が出てしまう…くらいかな。
それも隊長たちの一人と私が間に入れば、まあ、うん。なんとか抑えられる…はず。多分。

親父さまの方を向いてひとつ頷いてみせる。

「親父さま、能力者は革命軍へ引き渡します」
「グララララ、それがリオの判断だな?あァ、わかった。構わねェよ。最後にお前も一発入れておけ」
「!?いえ!エースの火拳でお腹いっぱいです!」
「ん?もう一発いくか?」
「いきません。はい、炎しまって!」

ちぇ、と残念そうに炎の拳を収めるエース。
これ以上の火拳は命に関わりそう…というか、顔の骨格が変わりすぎて喋れなくなりそうだからやめておきましょう。もう一発いっとけ!と煽る兄姉たちの声は全力でスルー。やめておきましょう。

能力者を革命軍へ引き渡すと決めてから数時間後、革命軍の船が沖に停泊しているのを確認。
こうなることを見越していたサボさんに苦笑する。
優秀すぎるのも問題なのでは?
能力者を引き渡し、ついでだからおれも戻ろう、とサボさんも革命軍の船へ乗り移った。
サボさんの「また来る!」に対して「もう来るな」そうため息混じりに呟いたのは、エースだけ。

革命軍の船を見送り、モビーは平穏な日常に戻る。


…と、思いきや。

「おや、リオちゃんじゃないの」
「…?あっ!青キジのお兄さん!?」
「よォ。ワタユキぶりだな、元気にしてた?」
「はい!ばっちり元気です!そ、そうでした。ワタユキでの夜は、大変ご迷惑をおかけしました…」

あ〜、ちょっとちょっと!頭上げて。
おれァ気にしちゃいねェさ。元気ならそれで良し。

口元を緩めた青キジのお兄さんに頭を撫でられる。

またもや補給地で買い出し中、顔見知りに出会った。顔見知り…というか、ワケ知り…というか…。
とにかく、この世界で最初にお世話になった人物。
青キジのお兄さん。
…もとい、海軍三大大将の一人・クザンさん。
相変わらず身長が高すぎて見上げるのも一苦労だ。
くっ、私は誰かを引き寄せる力でも持ってるの…?

「で、今は買い出し中?荷物多くない?」
「はい!細かい物を購入するのが私の役目なので」
「ふぅん、なるほど。海の無法者たちは繊細な物なんて意図も容易くぶっ壊しちゃうもんなァ」
「否定は出来ません…!」

と。ここでようやくハッとする。
私は白ひげ海賊団の一員。海賊で親父さまの娘だ。
方やこの人は海軍の…大将。
あれ、これ私…捕まっちゃうんじゃ…?
不安な表情が出てしまっていたようで青キジのお兄さんが首を捻った。そしてすぐ頷いて頭を搔く。

「そっか、リオちゃんは海賊だもんな。ってことはここで捕まえたって構わねェわけだ」
「なにも悪いことしてないのに、ですか?」
「……んん!確かにね。こりゃしょっぴけないわ」
「ふふふ、よかったです!」
「リオちゃん、海賊にゃ向いてないって。海軍へ来ちゃいなよ。おれァ諸手を挙げて歓迎するぜ」

またもや頭を撫でられた。
なんだろう。これはもしかして、愛でられているのか…?ペットにヨシヨシしている…みたいな。

戸惑いつつ言葉を返そうとした時、手に持っている荷物が後ろから取られていく。そして私と青キジのお兄さんの間に立ち塞がる、頼もしい背中。

「おいおいおい、うちの可愛い妹を引き抜こうとしてんのか?さすが海軍の大将、いい度胸してるよ。どっかのエースが聞いたら噴火しちまうぜ?」

現れたのがおれで良かったなァ?
そう言って笑った──サッチさん。

「全く、誰が現れても厄介なことこの上ないのよ。おたくの隊長たちは。アンタもその一人だっての」
「ええ?まさかただの料理番まで把握済みなわけ!海軍の情報網は怖いねェ!それはそうとリオちゃん、お待たせ。向こうに美味そうなアイスクリーム売ってたから食べながら船へ帰ろうぜ!」

にっこり笑う顔が眩しい。
取られた荷物は一つに纏めて私に片手を差し出す。
エスコートしてくれるのかな。
尋ねればきっと「おれが繋ぎたかっただけー」って返されそう。サッチさんはお茶目で優しい人だ。

今日の買い出しは四番隊の皆さんと一緒。
量が量なので、リストアップした食材はお店の方が船へ運んでくれる。そのため、買い出し班の役割は調味料や調理器具、厨房に必要なものの購入だ。
何故私が四番隊に付き添っているのかと言えば…、理由は簡単。彼らの監視役に選ばれたから。
「寄り道をさせず、とっとと船へ戻るように。」
これが上司…いや、隊長であるマルコさんの指示だった。今のところ彼らが寄り道をする気配はない。

差し出された手へ、私の手を重ねる。

「サッチさん。アイス、半分こしましょうね!」
「ン"ン"ッ!!全部食べていいんだぞ?」
「二つ買って、半分こずつ!です!」
「あー!!おれの妹が可愛すぎる件〜!うんうん、半分こしようねぇ!何この買い出し、最高じゃん。毎回付き添ってもらうようマルコに頼もうっと!」

と、いうわけで。
言葉を区切ったサッチさんが青キジのお兄さんへと視線を移す。つられて私も顔を上げた。

「リオちゃんが海軍へ入る・なんてことは起こり得ねェんで。その長〜い諸手を挙げたまま帰ってくださーい!そんじゃ。見回りご苦労さんでーす!」
「あらら、手厳しい。まぁ待ちなさいよ。おたくら白ひげの一味に伝えることがあってね」
「伝えることォ?」
「いらん喧嘩を売るつもりないから聞いときなよ」
「もう売られた後だと思うんだけど!?」

なんだか飄々とした言動が似てるな、この二人。

「最近、とある海賊のことで海軍が大きく動いてる。その海賊ってのは白ひげの所にいた元クルーでね。そんで困ったことに色々とやらかしてるわけ。表に出せないくらい、ヤバイことをさ」

サッチさんと顔を見合わせる。
白ひげの所にいた元クルー。
それはつまり…ティーチさんで間違いない。

「で、そいつは今インペルダウンへ向かってんの」
「はァ?インペルダウンへ…?」
「本当ですか!?」
「嘘じゃねェんだなァ、これが。おれァ頭が痛くて痛くて。おたくらも奴の動向を追ってるんだろ?
一体何を企んでんのか分からねェが、考えうる最悪の事態が起こるかもしれない。っつーことを、白ひげには知っといてもらいてェのよ」

シャボンディではなく、インペルダウン…?
七武海入りは諦めたのかな?
それよりも仲間を集めることに切り替えた、とか?
…全て憶測に過ぎない。
ここで考えていても答えは出ない、よね。

「ま!最悪の事態になったら大半は氷漬けにしちゃうつもりだし、氷が効かなそうな伝説のジジイたちについては総帥殿が重い腰を上げるでしょ!」
「突然軽くなったな」
自然ロギア系の人って怖いですね」
「やることがバケモンのそれだもんな」
「そう褒めるなよ」

褒めてはいませんけど!?
相変わらずマイペースな青キジのお兄さん。
この話をしてくれたってことは、今から現場であるインペルダウンへ向かうんだろう。
港には海軍の船も艦隊もなかったから…、彼愛用の自転車で行くつもりかな。いくら海軍大将とはいえ能力の使い所が途方もない。自然ロギア系すごい。

今日のところはリオちゃんとの再会に免じて見逃してあげる。悪いことしないで船へ帰りなさいよ。
そう言って、青キジのお兄さんは気だるげに去って行く。思ってもみない再会だったけど、思いもよらない情報を得ることが出来た。

「リオちゃん、」
「はい」
「アイス買って帰ろっか」
「…はい。半分こ、しましょうね」
「…おう!仲良く半分こ、な!」

ニッと笑うサッチさん。
その表情は先ほどより陰っているように見えた。
サッチさんとティーチさんは親友だったんだ。
何も思わないわけ、ないよね。
でも…それについて私が触れてはいけない。

繋がれた手をギュッと握る。
サッチさんは生きている。ここにいる。

「へへ、ありがとなリオちゃん!」
「何もしてませんよ!ふふ、何味にしましょうか」
「おれは鉄板でバニラ!」
「じゃあ私は…無難にチョコを!」
「無難だね〜!」
「それがいいんですよ!」

二人でアイスクリームを食べながら、船へ。

出迎えてくれたエースが私とサッチさんの間に勢いよく入ってきて、手をべりっと引き剥がす。
エースの行動を予想していた私たちは同じタイミングで笑い声を上げた。なんで笑うんだよ!?と怒るエースに「可愛いヤツめ!」そう言ってサッチさんが思い切り抱きしめて髪をわしゃわしゃと撫でる。

その光景がなんだか眩しくて、笑みが零れた。

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