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革命軍の二人と出会ってから約半年後。
二番隊率いる黒ひげ・ティーチの動向を探る船は、白ひげ海賊団の本船へ戻ってきていた。
一年を経たずに戻ったのには当然、訳がある。

“黒ひげが七武海に加入するかもしれない。”

この情報がきっかけ。
本来ならエースが捕まり、海軍本部で公開処刑され頂上戦争へと至る…はずだった。でもそれは絶対に起こらない。その可能性は私が潰した。
だが、ティーチさんは七武海への加入条件を満たすものとしてとある海賊を捕まえようとしている。

とある海賊。
それが大いに問題だ。

ティーチさんが狙っているのは“麦わらのルフィ”。

つい先日、エニエス・ロビーを襲撃した彼ら。
ニコ・ロビンを救いCP9のリーダーを撃破。
バスターコールをも掻い潜り、その場を離脱。
政府が誇る司法の島はほぼほぼ全壊。
ルフィの行動、戦闘は仲間を想ってのもの。
でもそれは海軍や世界政府からするとただの問題行動、周りを顧みない蛮行としか見られることがなく、七武海の一角を落とし政府直下の機関を破壊する。…彼はとにかく厄介この上ない存在らしい。

これらの件で賞金額が三億へ跳ね上がったルフィ。
そのルフィを捕まえ、政府へ引き渡すことで自身も億超えの力を有すると証明するのが魂胆のようだ。

“ルフィの首を差し出して七武海入りをする。”

エースが黙ってられるわけがない。
飛び出して行きそうなエースをどうにか止めて、
現在、麦わらの一味がどこに居るのかを捜索中だ。
情報を掴めないということは…恐らくスリラーバークにいるのかもしれない。そしてそこを越えた先、辿り着く場所はひとつ。

シャボンディ諸島。

「…なるほどな」
「ことを起こすならそこかな、と思うんですけど、天竜人もやって来る確率が高い島で戦闘するのか?っていう疑問もあります。そこで暴れ回って天竜人の機嫌を損ねてしまえば、ティーチさん自体も問題視されて七武海の話は無くなりそうですよね」
「ああ。エニエス・ロビーを襲撃するくらいだ、エースの弟も生半可な応戦はしねェだろう。となると、海軍本部が近いシャボンディではない…か?」
「海上で戦闘も無い、気がしますけど…」
「海賊が海上で戦闘しない理由はねェよい」
「それを言われると言葉に詰まります…!」

仕事部屋で頭を捻る私とマルコさん。

「いいや、シャボンディで確定だな」

そこへ一石を投じる…いや、波紋を呼ぶ男が一人。
白いブラウスに小綺麗なスカーフ。
揺らめき輝く金髪はもう見慣れたもの。

声を発した人…サボさんへ視線を移す。

「前半の海から新世界へ向かうにはシャボンディを通る。麦わらの一味が目指しているのも新世界。
向こうへ行かせる前に彼らを一網打尽にするなら…
シャボンディしかないだろ?」
「人目に触れる場所で能力を使う…と?」
「いや、能力は使わないな。仮にも四皇の船にいた男だ。基礎戦闘能力は高いと見ているし、用意も周到に行うだろう。それこそ、一味を全員バラけさせて一人一人確実に捕まえていく…とかな」

私とマルコさんは顔を見合わせて微妙な顔になる。
当然のように会話へ入ってきたサボさんだが、思い出してほしい。ここは親父さまの船。海賊船だ。
革命軍の、しかもだいぶ上の立場であるサボさんが気軽に足を運んでいい場所ではない。

…ない、が。
初めてサボさんがこの船に姿を現した時、仲間も連れずたった一人でやって来た。何も隠さず臆さず、
真正面から乗り込んで親父さまにお目通りを願い
“革命軍として”ティーチさんの情報共有を提案したらしい。そこで一悶着…主にエースと色々あったようだけど船長である親父さまが受け入れた。
船長の許可を得られた!ということで、サボさんはちょくちょくここへ来るように。
船内をぶらりと散歩した後、マルコさんの仕事場へ来るのが彼のルーティンになっているみたいだ。

「…なァ、革命軍の」
「おれは最初に名乗ったはずだが?」
「……あー、そうだな。サボ、お前さん頻繁にここへ来てるが…革命軍ってのは全員こんな感じか?」
「こんな感じ、っていうと?」
「傍若無人で周りの迷惑を顧みず自由に突っ走る人、って意味じゃないですか?」
「ははは!なるほど!リオ、おれと握手しよう」
「いやですよ、粉々にされるじゃないですか!」
「粉々にされるようなことを言った自覚があるんだな!よーし、手加減はいらねェようだ!」

怖い怖い!怒ったなら怒った表情してください!
爽やかな笑みが怖いんですよサボさん!!
そそくさと席を立ちマルコさんの側へ避難する。

「もう一つ尋ねてェことがある。革命軍でさえヤミヤミの能力を危険視しているってのは分かった。
だが、何故エースの弟を気にかける?革命軍には関係のない人物だろう?それが疑問で仕方ねェ」
「…私も、こだわる理由が知りたいです」
「へぇ?おれの正体を看破したリオはその理由を知っていると思ったんだけどな」
「サボさんが思ってるより、詳しくないですよ」

“原作通り”の話なら詳しいかもしれないけど、今はもう確実に“原作通り”の展開じゃない。
だから革命軍が持つ情報はとても重要だ。

サボさんは思案した後、にこりと微笑む。

「今はまだ、秘密にしておく!」

…さすがに話してくれないかぁ。残念。
粘っても無駄っぽいので早々に諦めよう。
マルコさんも小さく肩を竦めていたので、私と同じくこれ以上問い詰める気はないみたいだ。

仕事に戻ろうとマルコさんの側を離れる。
医療品のチェックリストをデュースさんとナースのお姉様へ渡しに行かねば。帰りの足で厨房へ寄って食材の買い出し表を受け取り、そして…エースが持ち場にいるかの確認もしておこうかな。
マルコさんへ一言声をかけ、部屋を出た。

一人で出たはずなのに何故か着いてくるサボさん。
どうしたのかと尋ねても答えは返ってこない。
…多分だけど、サボさんは私を警戒している。
あの日の夜に正体をズバリ言い当てたのが良くなかったみたいだ。まぁ…そうだよね。革命軍だけならまだしも、彼の肩書きである“参謀総長”は言う必要がなかった。いや、でも。あの時の反撃方法はこれしか無かったわけだし、気絶させられたらアウトだったし、ただで連れ去られる気も毛頭なかった。
自分自身の行動に後悔はないんだけど…。

サボさんからの、
“お前、まだ何か隠してることがあるだろう?”
という、無言の視線…圧力…?が伝わってきて、
なんとも居心地が悪い。背筋がヒヤリとする。

「なァ、リオ」
「!なんですか、サボさん」
「……」
「…?」
「敬語と敬称を使ってないのは火拳だけなんだな」
「よく見てますね…」
「あいつが嫉妬深いから?」
「違いますよ。私が皆さんに対して壁を作ってるわけでも、気を許してないから…とかでもないです」
「元々そういう環境にいたから、とか?」
「ご想像にお任せします!」
「上手くかわすようになってきたな」

下手なことは言えませんからね!
誘導尋問にも引っかかりませんよーっと!

「特に理由が無いならおれとも普通に話してくれ」
「普通に?」
「敬語を外して敬称もつけない、ってことだ」
「…今は無理です」
「へェ、今は。いつならいいんだ?」
「そうですね…、二年過ぎたら考えます」

エースが生きている世界の、二年後。
あなたたち義兄弟が何事もなく再会した時。
私にとってそれがターニングポイントだと思う。
だから今は必要以上にサボさんや革命軍の方たちと関わる…つもり、なかったんだよなぁ…。
偶然の出会いって怖い。

サボさんは思案しながらついてくる。
私への警戒も二年後まで続くのだろう。
仕方ないと腹をくくるしか。

「あ!いたいた、エース!」
「おー!リオ!!……と、不法乗船者」
「残念だったな、船長の許可は得てる。鉄砲玉のような男も真面目に働いてるとは。感心感心!」
「リオの後を着けてんじゃねェよ不審者」
「行き先が同じでね。おれたち気が合うんだ」
「──火銃」

サボさんの顔面目がけ、飛んで行く炎の塊。
鉄パイプを素早く手にしてそれを海上へ叩き返す。
わぁ、もう覇気を物へ纏わせることが出来るんだ。
さすがサボさん、お強い〜!

…じゃなくて!!

顔を合わせるたび毎回衝突する二人。
甲板とか無人島とか開けた場所ならまだしも…。
いや良くはないけど、船内で炎と拳の乱闘が始まれば船が壊れてしまう。船大工さんたちは大層ご立腹だし、マルコさんから特大の雷も落ちる。
サボさんが私についてくる、私はエースに会いに行く。そうすると二人は顔を合わせることになり、
ゴングが鳴る。
私がエースに会いに行かない時は、エースから会いに来るのでこれまたゴングが鳴る。カーン!と。

エースは多分、“親友であり戦友、悪友な義兄弟と同名の男が、愛するオヤジの船にズカズカと乗ってきてなおかつ恋人にまでちょっかいを出す厄介者”…と、認識してるから腹が立ってるんだと思う。
サボさんの方は私が見る限り、エースの反応が面白くて…興味深くて?楽しんでるような気がする。
ちょっかい出されてるのはエースの方なんだよね。

「リオに手ェ出してないだろうな」
「ここの船長から特大の釘を刺されてんだ。出したくても出せねェよ!そういうわけで、安心しろ!」
「ちっとも安心出来ねェ…」

エースが私の腕を掴んで引き寄せる。
そしてそのまま後ろへ隠された。
エースもサボさんへの警戒度がかなり高い。
これもまた、見慣れた光景になりつつある。

「そうだ、エース。デュースさんから言伝を預かってるんだった!手が空いたら医務室へ来るように!とのことです。…どこか怪我したの?」
「おれは怪我してねェよ。うちの隊員が前の戦闘で倒れたんだ。その経過を教えてくれんだと思う」
「倒れた!?大丈夫なのかな?」
「リオが心配してるっつったら喜んで元気になるよ。そうだ、リオも一緒に行くか?」
「うん、行きたい」

その場で二番隊の皆さんへ医務室へ向かう旨を伝えると、私の手を取り足早に歩き出す。
当然…ながら、サボさんも着いてくる。

医務室に到着してデュースさんの元へ。
私は声をかけられるまで待機。

「…あんな奴でも本当に隊長なんだな」
「真剣な時はしっかりしてますよ」
「真剣じゃない時がほとんどってことか」
「そういう揚げ足の取り方はよくないです!」

ははは、と笑った直後サボさんの上着のポケットから、連絡を知らせる電伝虫の声が聞こえた。
片手を上げて医務室を出て行くサボさん。
後ろ姿を見送り視線を戻せば丁度エースが私の元へやって来る。お邪魔しても良いみたいだ。

怪我をした隊員さんは頭に包帯を巻いていたけど、見た目に反して傷は深くないらしい。
会話もスムーズに出来ているし、現場復帰も包帯が取れれば可能、とのこと。良かった良かった!

「こいつの怪我の経過を伝えるのが本題ではあったが、ここからは別の案件だぞ。エース」
「別の案件?」
「ああ。リオにも関係がある」
「私にも…?」

ひとつ頷いたデュースさんは、ベッドへ横になっている隊員さんに目配せした。隊員さんは私とエースを交互に見て、静かに目を伏せ息を整える。
そして意を決したように声をあげた。

「先の戦闘で、敵からユメユメの実の能力者が潜伏しているという島の情報を手に入れました」

ユメユメの実の…能力者。
どこかで聞いたことがあるような。ないような?
首を傾げる私に反して、エースは口角を上げ右手の拳をガツンと左の手のひらに勢いよく当てた。

反応が薄いな?とデュースさんが声をかけてくれたので、誰でしたっけ?と尋ね返せば呆れたようなため息を吐かれた。日常が日々刺激的なもので…。

「なんでリオが忘れてんだよ。そいつは以前この船を襲撃した男で、お前と一緒に海へ落ちた能力者のことだ。…と、おれは伝え聞いてるぞ。どうだ?何か思い出したか?」
「あー!はい。確か拘束して引き渡したのでは?」
「大方、身柄を移動する時に逃げ出したんだろ。
まァ、おれにとっちゃ好都合な話だ!」

左の手のひらに当てた右手の指の関節をパキパキ…ゴキゴキ?鳴らしたエース。な、なんだか不穏。
デュースさんも隊員さんも、ニヤリと笑っている。

「マルコからは“どうせあの手の男は脱走する。
また海で出会った時に、遠慮なくぶっ飛ばせ。”
そう言われてんだ。居場所が分かったなら、おれはあいつをぶっ飛ばしに行く。あの時のお礼を全力で返してやらねェとなァ…!!」

わぁ。エースくんってば、お顔が怖い。
例の能力者の人、ご愁傷さまです。
大人しく捕まってた方が良かったかもしれない。

善は急げ!とばかりに隊員さんから詳しく話を聞き始めるエース。呆ける私をよそに、デュースさんが肩をぽんと叩く。マルコさんへ伝えてこい。と。
拒否なんて出来るはずもなく、医務室を出た。

マルコさんの元へ向かう途中で再びサボさんが合流してきたが、彼に構ってはいられない。
仕事部屋へ着き、医務室での話をそのまま伝えたらマルコさんは考える素振りを見せ、立ち上がった。

「マ、マルコさん?」
「遠慮なく戦える機会が来たようだ」

あれっ、こんなに好戦的な人だったっけ?
名前を呼ぼうとしたが「今日の仕事は終いだ。」とそれだけ言い残し、部屋を出て行くマルコさん。
ああ、きっと親父さまの元へ向かったな…。
伊達にマルコさんの下で働いてませんとも。

少しずつ騒がしくなっていくモビー。
こうなってしまえば私の出る幕は無い。
むしろお前は出てくるんじゃないと言われそうだ。
窓の外を見れば走り回るクルーの皆さん。
お姉ちゃんたちも動いて…ん?目が据わってない?
親父さまが指示を出したのか船がグラグラ揺れる。

今までゆっくり進んでいた船が傾き始めた。
…どうやら航路を変えているらしい。
成り行きを見ていたサボさんが笑い声を上げる。

「なるほど、リオに手は出せないなァ!」

“白ひげの家族に手を出す”とどうなるのか。
サボさんは今まさに、それを目の当たりにしているわけだ。四皇の一角である白ひげの船が動く。
それは私利私欲のためではない。家族の、ため。

おれたちはしばらくここから出ない方がいいな!とまで言わしめるほど船内外が慌ただしい。

「そいつはどんな能力者だったんだ?」
「興味がおありですか」
「まあ少しはな。ユメユメ、ってことは夢を操る…とかか?いや、それじゃあ寝てる時限定になっちまうよなァ。意識を失うのも該当しそうだが」
「ええと、エースから聞いた話では右手で意図的に相手へ触れたら、少し先の未来の夢を見てしまう。左手だと過去を見る…能力らしいです」
「過去を見る…」
「未来については本当だと思います」
「へェ?」

私がエースの未来を見たこと。
夢を見た時はわからなかったけど、後にその未来が真実で、間違いなく起こりうると漫画で知った。
過去を見る、については半信半疑だ。

「なるほどな。よし、おれは少し席を外す」
「どちらへ?」
「ここの船長の所だ」

あの能力者のことを尋ねてくるのはわかるけど何故その後に親父さまの元へ行くんだろう…?
サボさんは革命軍。ティーチさんの情報を共有するためにこの船へ来る。でも革命軍としての目的は、それだけじゃない…。有益な情報を得られるならば手段を選ばないこともある。有益な情報…。

私がユメユメの実の能力者の能力について話をしてから親父さまを訪ねる…と、いうことは。
…おや?もしかして。

「その能力者、革命軍が引き取るつもりですか?」

立ち上がったサボさんを見上げる。
彼は不敵な笑みで私を見下ろした。
…もしかして、が当たったらしい。

止めようがないし、判断を下すのは親父さまだ。
余計な茶々を入れるわけにもいかない。
部屋を出て行くサボさんを見送りもう一度窓の外を見つめる。変わらず走り回るクルーの皆さん。

能力者を見つけて倒すところまでは順調に進むだろうけど…その後にまた一波乱、起こりそうだ。

マルコさんが手をつけていた書類を片付け、今のうちに購入リストをまとめようと自分の椅子に座った瞬間、エースの怒鳴り声が聞こえた…気がする。
……うん。一波乱では済まないみたいです。



Whereabouts of flame.

物語は進んでいく。
この先、誰も知らない未来が待っている。
変わらない過去を静かに振り返りながら。

エースの能力を受け継ぐはずだったサボさん。
エースの炎の拳を己の技にするはずだったルフィ。
彼と彼らの炎が今後どう拡がっていくのか。
進まなければわからない。
歩みを止めることは出来ない。

だからこそ私はエースと、白ひげ海賊団と。
炎の行方を一緒に見届けたい。心から、そう思う。

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