01


週の始まり月曜日。
片思い中の男が頬を赤く腫らせて登校してきた。
何があったのかは一目瞭然。
だが、聞かないわけにはいかない。

「おはようエース。…その頬っぺたどうしたの?」
「おはようナツキ。これは、あー、ビンタされた」
「予想通りで笑う」

腫れ具合的に全力で、全身全霊を持ってして張られたビンタだろう。何故エースがビンタされたのか。
その理由を、私は知っていた。

冒頭で“片思い中の男”と表現した通り、私は目の前の席に座るこの男、ポートガス・D・エースのことが好きだ。エースとは高校で知り合って友達になって、そして恋に落ちてしまった。
気兼ねなく話せて馬鹿なことも一緒にやれる。
ずっと友達でいられると思っていたけれどこの男、天然タラシと言えばいいのかただのアホと言えばいいのか、無意識に女生徒をトキメかす行動を取る。

高い場所にある物は軽く取って渡してくれるし
重たいノートや資料を運ぶ時は手伝ってくれる。
勉学面はダメダメだが、運動神経は抜群に良くて、部活の助っ人に呼ばれるのは日常茶飯事。
細身に見えて筋肉バキバキで「暑ィな!」と軽率にシャツを脱いじゃうから腹筋も惜しげなく晒すし、腕まくりどころか肩まで捲ってる時もある。
近寄り難い雰囲気を持ってるくせに、話し始めるとかなり気さくで笑顔がとても眩しい。

そんな男なので、そりゃもうモテる。
一年の頃からモッテモテだった。
先輩後輩、年や性別さえ関係なくモテにモテる。

そう、モテる…のだけど。
恋人の関係になると続かない。
今まで付き合った人と一ヶ月、いや、二週間すら続かず別れてしまう。告白されることは多いが別れるのもまた、多い。今日で何人目になったのやら。

「私のこと好き?って聞くから答えたんだぞ?」
「正直に“わかんねェ”って言うからでしょ」

エースがビンタされた、その理由。
“好きかどうか分からない”から。
告白されるエースは告白してきた相手を知らない。
知らないから付き合う。
相手はエースのことが好き。でもエースは相手を知らないので“恋愛の”好きという感情がない。
もしかしたら好きになるかもしれないけれど、相手がそれを待てない。もしくは、エースの奔放さに着いていけない。恋人といるより兄弟たちと楽しそうに遊んでるのも一つの要因…かもしれないな。

別れる前に相手から必ず聞かれるらしい。
「本当に私のこと、好きなの?」と。
不安だから投げられた質問。
好きと言って欲しいから聞いた言葉。
けれどエースは馬鹿正直に
「わかんねェ!」とか「そうでもねェ!」とか
言っちゃうもんだから手に負えない。
…好きな人に嘘をつかれてまで「好き」と言われるのも、まぁ…それはそれで嫌だけど。
来るもの拒まず去るもの追わず。そんなモテ男スタイルを貫くからこそ恋人が途絶えたことはない。
改めて文字にすると腹立つなぁ。

「最近殴られるの増えて参ってんだよなぁ…」
「何言ってんの、刺されないだけ良しとしなよ」
「ええ?おれ刺されるかもしれねェの?」
「愛と憎は表裏一体だからねぇ」

彼氏いないくせになんでそんなこと分かんだよ?
真顔で聞いてくるエースの肩に拳を入れた。
好きな人はいるんです!そう、私の目の前にね!
言いたいけど言えない。

「一週間で好きになるって難しいだろ」
「それなら告白されても断りなよ…」
「もしかしたら好きになるかもしれねェじゃん!」
「好きになった人いたの?」
「…いないけど」

いないのかぁ。
ホッとしたような、なんだか残念のような。

「あ!体の相性が良い人はいたぞ!」
「背後から刺されればいいのに」

好きな人の性事情は知りたくないです。
そういうとこ…そういう所が良くないよ!
さすがに私でも引くわ、エース!!

ドン引いたタイミングで予鈴が鳴る。
担任が教室へ入ってくるとエースは前を向いた。
その背中を見つめて、小さくため息を吐く。
一週間以上エースと付き合える人は現れるのか。
そしてどんな人を好きになるのか。

…今週も、誰かと付き合うのかな。



***



昼休みが終わり、五限目が始まる直前。
席にエースが戻ってくると。

何故か朝と反対側の頬が腫れている。
昼休み中何があったんだ!?
素直に聞いてみれば渋い顔で答えてくれた。

「今週は私と付き合ってください!って告られて、今日は断ったんだ。そしたら“告白したらオッケーなんじゃないんですか!なんで私はダメなんですか!このヤリチン野郎!”つって、横っ面をな」
「んっふふふふ!!草が生え散らかる〜!」
「なんだよ!お前も断れって言っただろ!」

エースの噂ってどうなってるんだろう。
告白したらオッケー、それは私もそうだと思う。
問題はヤリチン野郎。毎回そこまで到達する人いるの?学年で一二を争う綺麗な先輩くらいでは?
くっ、笑いを禁じ得ない…!

私たちの会話が筒抜けな隣の席の男子も肩を震わせている。ビンタされて両頬が腫れるとか。
モテ男型なしだねー!写真撮っとこ。

「女子ってわけわかんねェ」
「私からしたらエースの方がワケわかんないよ」
「おれは分かりやすいだろ!?」
「全ッ然。女子をナメてるよね?好きになる気ないでしょ?ってことくらいしか分かんないよ」
「んなことねェし!!そこまで言うなら、ナツキがおれと付き合ってみろよ。そんでおれの何がダメなのか、別れちまう原因を教えてくれ!」

………。
は?

「は??」
「だから!おれと付き合ってくれ!」
「はぁあ?」
「試しに、だよ!お前ならどこが悪いのかはっきり言ってくれるだろ?ビンタされんのは懲り懲りだ」

ぐっ、一瞬でもトキメいてしまった私は悪くない。
言い方が良くないんだよ!!なんで“試しに”を頭に持ってこないんだよ!!びっくりするでしょうが!

こっちはあんたに片思い中なわけ。
例え試しにだろうが、“おれと付き合ってくれ”なんて言われて嬉しくないわけがないの!

はぁぁぁあ、と深めにため息を吐く。
「そんなに深いため息が出るほど嫌なのかよ!」
そう言ってエースは眉尻を下げてヘコんでいた。
違う、逆だよ…嬉しいから困ってるんだよ…。

「わかった、試しに付き合ってあげる」
「いいのか!?よっしゃ!」
「期間はいつまで?」
「そうだな、二週間でどうだ?」
「じゃあそれで」

よーし、今からおれたちは恋人だ!よろしく!

何故か握手を求められた。
まさか付き合う初日、毎回やってたりする?
戸惑いつつ握手を返した。
…くっ、大きい手にもトキメいてしまう!!
14日間、私は正気でいられるかな…!?心配。

爽やかに笑うエース。
思わずその肩に、強めにひとつ拳を入れた。

友人兼お試しの恋人という関係が始まった。
嬉しいような、全く嬉しくないような…!
私の中の乙女心は非常に複雑なのであった。

「……ところで、握手を求めるのはアリ?ナシ?」
「ナシ!!!」


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