翌日の朝。
登校してきたエースは真っ直ぐ私の元へ。
「おはようナツキ!なぁ、起きてすぐ“おはよう”って連絡しなくてもよかったのか!?」
「おはよ、エース。え、いつもしないじゃん」
「ばっかお前!おれたち試しだけど恋人だろ!?」
「恋人なら毎朝連絡するの?学校で会うのに?」
めんどくない?
そう言えば呆れたようなため息をついて、やれやれ!とでも言い出しそうに肩をも竦めた。
「朝から好きな人が私に連絡をくれた!キャッ、嬉しい!…って女子は思うんじゃねェの?」
「女子を一括りにしないでくれる。ということは、今までの彼女はキャッ!て喜んでたわけね」
「たぶん…?」
「たぶん!?」
付き合いたての週は嬉しいかもしれない。
そりゃ私もエースが好きだし、今の彼女だけど。
残念ながら“試し”の彼女だから複雑なのだよ。
連絡きたら嬉しいけど、浮かれるな・って自制心が働いてしまう。本当の彼女になれたわけじゃないからね。ははは、自分で言って悲しくなるわ。
毎朝エースから“おはよう”…か。
「…そうだね、彼氏が連絡くれるのは嬉しいかも」
「だろ!?じゃあ明日から送るな!」
「私にもするの?」
「おれはナツキの彼氏だろ」
…ぐうっ…!!!
ときめいてなんかいないよ…!
彼氏。エースが私の…彼氏。
期間限定だけどね!!しかもダメ出し可の!
なんだダメ出し可って!
悶々としていたらスマホが震えた。
確認してみると通知の相手はエース。
目の前にいるんだから声に出して言ってよ。
そう思いつつ画面を開く。
“ナツキ、おはよ”
顔を上げてエースを見つめる。
エースはまだスマホの画面をタップしていた。
は?なに?なんで?どういうこと?
わけがわからなくて首を傾げると再び震える。
“明日からじゃなくて、今日から送る!”
今日から送る。
…ええと、朝の挨拶を?
もう一度顔を上げれば今度こそ目が合った。
ひひひ、と笑うエースに不覚にもときめく。
ちくしょう。嬉しい。
じわじわむずむずと私の口角が上がっていく。
「返事ちょーだい」
「目の前にいるじゃん」
「おれも彼女から連絡ほしい」
「今までの彼女にも同じこと言ってんでしょ」
「言ってねェよ、催促もしたことない」
「ほんとに?…全くもう、仕方がないなぁ!」
「とか言って!嬉しそうじゃん!」
嬉しいに決まってるでしょ。
私の矢印はあんたに向いてんだから。
画面を見つめてひとつタップ。
シュポッ!と軽快な通知音がエースのスマホから聞こえた。授業始まる前に通知音消してよね。
送ったのは、挨拶をする猫のスタンプ。
「スタンプかよ!」
「文字で残るのが嫌なの!」
「二週間後に遡ってニヤニヤすんのに」
「はい、だと思ったー。スタンプで正解!」
軽口を言い合っていたら予鈴が鳴る。
授業の準備をしている間にエースは前を向いた。
二週間後。
その時はもう、私たちは普通の友達に戻ってる。
トーク履歴を遡ってニヤニヤ出来るかな?
…出来ないだろうなぁ。
一限目を担当する先生が教室へ入ってきたと同時にため息をひとつ吐き出した。
ばーか。エースのばーか。
***
お昼休み。
今日はコンビニで買ってきたパンを食べる。
飲み物だけないので買いに行かねば。
お財布を持って立ち上がると前の席の男も立った。
どこへ行くんだろう?
サボの所かルフィくんの所かな。
もしくはマルコ先輩たちの所だろうか。
彼女がいる時もいない時でもお昼はほとんど教室にいない。今日はどうするのか聞いてみよう。
「エース、どこへ行くの?」
「ナツキこそ、どこに行くんだ?」
「え?飲み物買いに行こうと思って」
「ついてく」
「なんで??」
一日でこんなに首を傾げることってある?
そもそも私に着いてくる理由なんて無っ…、あ。
あー、まさか。もしかして。
「お昼一緒に食べる…とか?」
「普通そうだろ?」
「エースの普通と私の普通、違う気がする!」
「彼氏出来たことないから分からねェだけだろ」
「む!その通りだけど、言い方が腹立つー!!」
ウケる。と言いながら着いてくるエース。
私は全くウケないんですが。おいコラ、エース!
飲み物を買って教室へ戻ろうとしたら声がかかる。
声の主はサボ。
大量のパンが入った袋を二つ手にしていた。
「よっ、お二人さん。付き合ってるんだって?」
「かっこ仮、だけどね」
「ダメ出し可の恋人だ」
「?なんだそれ」
ほんと、なんだそれ。だよね。
事情を話せば笑い出すサボに私も苦笑する。
ははは。意味がわからんと笑ってちょうだい…。
哀れみの目で見られてるのは気のせいじゃないな。
サボにはエースへの想いを知られていた。
だからこそこれ以上は何も言わないのだろう。
くっ、お宅の兄弟どうにかして…!
サボはパンの袋をエースへ一つ手渡すと、
おれはルフィの所に行ってくる。仲良くやれよ!
そう言ってこの場を去った。
ここで会ったのはパンを渡すためだったの…?
「飯もゲットしたし、教室に戻るか!」
「エースもルフィくんの所へ行っていいんだよ?」
「…おれはお前と飯食いてェの!」
「いつでも食べれるじゃん」
「お前どんだけ鈍いわけ」
「は!?」
「そりゃナツキに彼氏出来ねェはずだ」
「なんなの?馬鹿にしてる?」
「してるー」
本当に馬鹿にされていたらしい。
むっとしながら先を行くエースの背中を見つめた。
彼氏。彼氏かぁ。
“恋人(仮)”という関係になったものの、具体的に何をしたらいいのか分からない。そもそも世間一般の恋人って一体どう過ごしているんだろう。
やたらイチャイチャしてるイメージはある。
もしくは、お互い照れてギクシャクしちゃう!
みたいな。ふぅー!!甘酸っぱーい!
少女漫画の見すぎ、というのは否めないです!
お昼ご飯、パンを食べながら他愛もない話をする。
昨日までと同じように。普通の友達のように。
教室のいつもの席、机を挟んでいつもの距離。
それに対して何の違和感も疑問もないけど、ひとつだけ聞いておきたくて声をあげた。
「あのさ、エース。恋人同士って何をするの?」
「んー?」
「だってこの感じだと今までと変わらないじゃん?エースは恋人とどう過ごしてたの?」
「あー、まぁ、飯食って…話して………昼寝?」
「…は??」
「あとはルフィが乱入してきたり先輩達が絡んできたりで昼休みはだいたいいつも騒々しいぞ!」
「恋人らしいことは!?」
「恋人らしいこと」
うーん??と首を捻るエース。
こ、この男!自分がモテまくるのに胡座をかいて、付き合っていた人と“恋人らしいこと”をしてこなかったのでは?もしかして恋愛童貞ってやつだ!?
哀れみの目を向けてしまうのは許してほしい。
なんだ、エースも私とさして変わんないじゃん。
「ナツキが思う恋人らしいことってなに?」
「え、それ聞く?」
「聞くだけ聞く」
仕方ねェなぁと言いたげな声色で続きを促す。
尋ねてきたんだから応えるに決まってるでしょう!
私が思う“恋人らしいこと”。
お互いを名前で呼ぶ。
─もうすでに呼んでるな。
ドキドキしながら連絡先を交換する。
─それも知ってるし電話番号も把握済みだ。
…たまに目が合うとドキッてしちゃう!とか。
─席が前後だから目が合うもクソもないだろ?
……お昼は彼女の手作りお弁当を一緒に食べる。
─ナツキの手作り!?そもそも料理出来んの?
ぐうっ!あ…あとは、えっと。手を繋いで帰る!
─普通に歩きづらくねェ?
「エースゥゥゥ!!!!!」
「なんだよ」
「余計な茶々を入れてこないでくれる!?」
「ツッコミどころ満載すぎてだなァ」
「黙って聞くところから始めるべきだね!」
よくこれで彼女が途絶えなかったな!
見た目は明るく爽やかで素敵だけど、中身は目も当てられないほどアッパラパーなのに!!
…アッパラパーって言葉初めて使ったわ!もう!!
「今まで通りでいいんじゃねェか?」
「今まで通り?」
「お試しの恋人、だけどよ。急に今までの行動を変える必要はないと思う。こうやって一緒に飯食ってどーでもいい話をしてさ。ただ一緒にいるだけでも恋人らしいこと…だと、おれは思うけど」
「…エースがまともっぽいこと言ってる…」
「お前おれをアホだと思ってんな?」
アホだと思ってたよ。
一緒にいるだけでも恋人らしいこと、か。
なるほど。
モテるのに胡座をかいてたわけでは無さそうだ。
ちゃんと自分の恋愛観的なものを持っていたのね。
恋愛童貞、なんて心の中で罵ってごめんよ。
食べ終えたパンの袋を細く折りたたんで結ぶ。
それを机に置いて、まだパンがたくさん入っているサボの支給品に手を伸ばす。メロンパンみっけ!
「勝手に取るなよ」
「エースのものは私のものー」
「うちの彼女はガキ大将だったか」
「失敬な!はい、半分こ!」
「半分こ」
「恋人らしいでしょ!」
恋人じゃなかったら半分こしないよ。
そう言って半分になったメロンパンを頬張る。
美味しい。これどこのパン屋さんで買ったのかな。
購買にしては生地がしっかりしてるような気が。
もぐもぐ食べていると隣のエースが突然笑った。
「どうしたの?」
「ははは、いや、なんでもねェ。ありがとな」
「どういたしまして!」
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