「…作ってしまった…」
我ながら頑張った。
テーブルの上に乗る、少し大きめな弁当箱。
彩りはぶっちゃけ良くないけど…お腹を満たすのが目的であって見た目はひとまず二の次だ。
はい。
お察しいただいている通りお昼のお弁当を作っていました。早めに起きて母に助言をしてもらいつつ、そして晩ご飯のおかずを拝借しつつ。
人生初、彼氏…かっこ仮の彼氏に作ったお弁当。
まさか玉子焼きを作るだけで火傷するとは思わず、左手の人差し指に絆創膏を貼っている。
持ち手のちょっと上のとこが熱いとか知らないよ!
…これ、見られたくないなぁ。仕方ないか。
お弁当箱が二つ入った手提げを持ち、学校へ。
四限目が始まると、妙にそわそわした。
なんて言って渡そうかな。
ちゃんと食べてくれるかな。
喜び…は、しないとして、面と向かって不味いと言われたらヘコむなぁ。直球は時に心を抉るのよ。
集中出来ずにそのまま授業が終わる。
ごめんよ先生。心ここに在らずでした…。
お昼休みに入り、エースが席を立つ。
「あれ、今日はパン買わねェの?」
「ふふん!お弁当持ってきてるんですー!」
「ナツキが…弁当!?ああ、親の手作りか」
「ブブー!自分で作って詰めました〜!」
「!?う…嘘だろ、明日は雨だな!」
「失礼すぎるエースにはあげませーん」
「……え?まさか、おれの分もあるのか?」
その問いに無言で手提げを机に置く。
エースを見上げれば、明らかに動揺した表情で私を見ていた。私どれだけ不器用だと思われてんの?
悲しくなるわ。
「見た目は良くないけど、お腹は満たされる…と、思うよ。ちゃんと火は通ってるから安心して!」
「なんでまた、弁当を作ろうと思ったんだ?」
「…恋人らしいこと、私もしたいな…って…」
「え」
「だって!エースが頑張ってるのに私だけ何もしないのもさ!なんか!ほら、悔しいじゃん…!」
「悔しいってなんだよ。…マジかぁ…」
急いで飲み物買ってくる!
そう言うなり走って教室を出て行く。
言葉通り、お茶を片手に急いで戻ってきた。
お弁当箱を二つ出して一つはエースの前へ。
もう一つは私の方へ。
手を合わせて食べ始めた。
茶色なおかずが多い、けど。ご飯が進むんだよね。
うん、悪くない。
何口か食べてからエースの様子を伺っ…。
「し、写真を撮るなァ!!」
「はぁ?撮るに決まってんだろ!料理下手くそなナツキの弁当だぞ!?おれ、これ待ち受けにする!」
「やめてよ恥ずかしい!早く食べて!」
様子を伺おうとしたら写真を撮っていた。
意味が分からない。映えるものでもないのに!
削除をお願いしたが断られた。なんなのさ!
食べ始めたエースの様子を再び見守る。
まずい!とは言わないが、うまい!とも言わない。
くっ…!そうね、それが全てだね。
少しずつ、段階的に精進しますよ、ええ。
私も自分のお弁当をつつき、食べ終えた。
エースも見事に完食してくれた。
「作ってくれてありがとな!」
「こちらこそ、食べてくれてありがと」
「玉子焼きおいしかったぞ」
「…ほんと?」
「ほんと!」
口元が緩む。
そっか。玉子焼きは美味しかったのか。
…火傷したかいがあった、かな。
エースが好きなお弁当のおかずを聞いてみる。
案の定茶色い揚げ物ばかりが挙がってきた。
そして何故かペペロンチーノ。辛ければ辛いほどいいらしい。…ペペロンチーノ。作れ…るのか?
ネットで調べて本屋でもレシピ本とか見てみよう。
学校へ持ってきたら教室に匂いが充満しないかな。
しそうだな。先生たちにツッコまれそう。
お弁当箱を片付けながら話をしていると、エースが呼ばれた。呼んでいるのは隣のクラスの男子。
なんだろう。部活の助っ人依頼とか?
私を一度見つめるエース。
「どうしたの?行ってらっしゃい」
「…おう。すぐ戻る」
何か言いたいことでもあったのかな。
察せないのでわからない。
机の上を片付け終えるとスマホを取り出す。
早速ペペロンチーノを検索だ。
画面と睨めっこしていると、エースの席に誰かが座る気配を感じた。チラリと見やれば…サボの姿。
「よ。順調か?」
「…エースとの関係を聞いてるなら、特に変わりはないよ。友人関係そのまんま、って感じ」
「友人関係、なぁ」
「あ、ダメ出し可って言ったけどあんまりダメ出しする所がないのは新発見だったかもしれない」
「よく見てるんだな」
「サボくんには負けますよ」
「ナツキちゃんは分かりやすいもんな」
「それは、…そうかもねぇ」
明らかに私だけが意識してるもんね。
仕方ないでしょう。私はエースが好きなんだから。
お試しでも恋人みたいな真似が出来て嬉しいよ。
サボと話をしていたらエースが戻ってきた。
何の用だったのか好奇心で尋ねてみたけど、大した用じゃなかった。そう軽く流される。
流されてしまったのだから、あまりしつこく聞くのもどうかと思い私も話題を変えた。
こんなに気を使わないでのんびり過ごせる昼休みは久しぶりだ!なんて悪うエースに、ナツキにも気を使えよ。一応彼女だろ。とツッコむサボ。
一応ってなによ一応って!そう言って笑う私。
そんな風に話をしている内に昼休みは終わった。
***
昨日より少し早く活動を切り上げて正門へ向かう。
理由は簡単。エースが待ってくれているから。
足取りも軽やかに正門を目指して歩く。
エースの姿が見えてきた……と思ったら、隣に可愛らしい女子が並んで立っていた。軽やかに進んでいた足がぴたりと止まる。
なんとなく声をかけづらい。
気づかれないように静かに近寄ってみる。
「エース先輩!来週は私と付き合ってくださーい」
「断りまーす。そもそも予約制とかじゃねェし」
「えー?でもエース先輩は一週間ごとに彼女変わってますよね?なんでダメなんですかぁ!」
「その噂もどっから流れてんだよ。別におれは彼女を取っかえ引っ変えしてるわけじゃねェっての!」
「今の人とはいつまでの予定なんですー?」
「……二週間、だ」
「じゃあ、二週間後にまた告りにきまぁす!」
「だーから!断ってんだろうが!!」
「まったねー!エース先ぱーい!」
キラキラと弾けるような明るい声で一年生の女子生徒は去って行った。二週間後にきます、かぁ…。
そっか。二週間後にはこうして正門で待ち合わせ、とかも無くなるわけだ。…そっか。そうだった。
私は友人でありダメ出しを出来るお試しの恋人。
きっと二週間後に付き合う人とは長く続くはず。
それはエースにとって、良いことなわけで。
私がエースの隣に居続けられるわけでは…ない。
考えれば考えるだけ虚しいし悲しい。
重めにため息をつき、止まった足を動かす。
声をかければ「お疲れさん!」と笑顔で応えてくれる。…友人に戻れるだけ、良い、のかな。
「ナツキ?どうした?帰ろうぜ」
「…うん、帰ろ」
エースの近くまで来るとすぐに手を取られしっかり繋がれた。…本当に今日も手を繋ぐんだなぁ。
遠慮がちに握り返せばぎゅうと包み込まれた。
ぐうっ、私の心も包み込まれる…!!
ときめく衝動は抑えられないみたいだ。
「…あれ、指怪我したのか?」
「え!?…うん。ちょっとね」
「不器用なんだから気をつけろよ」
「失敬な!これは部活で負ったんじゃないし」
「じゃあ何で怪我したんだ?」
「…教えなーい!」
エースは知らなくていい。教えてあげない。
私だけの秘密。
そういえば!と声を上げて話題を逸らす。
…不服そうに見える顔は知らんぷり。
「エースが好きなシリーズの映画続編が再来週公開するらしいよ!部活でもその話で盛り上がってね!私はまだ前作見てないから借りなきゃ!」
「お!そうか、もうそんな時期か?待ちわびてたんだ!ちなみに前作の黒幕はだな、」
「ダメ!言わないで!なんで言おうとすんの!?」
「ネットじゃネタバレごろごろ転がってるだろ」
「そのネタバレも見てないの!!あっぶないなぁ。こんな身近にバレかましてくる奴がいるとは」
「たぶんナツキはビックリするぞ」
「やめて!それ以上はもう言わないで!」
耳を塞ぎたくても手を繋いでいるから塞げない。
ニヤニヤしてるエースが憎たらしい。
再来週公開。
再来週…か。
今週、もしくは来週だったら誘えたんだけどな。
「…次の彼女と観に行ったらいいんじゃない?」
「…次の?」
「そう!前作を見てるか確認するんだよ?今みたいに軽率にネタバレしようとしないでね。ネタバレが平気ならいいけど私みたいに嫌がるかもだし!」
「…ナツキは?誰と観に行くんだ?」
「私?」
私、…私は。
一人ではきっと行かない。
行けるものならエースと一緒に、行きたい。
その言葉を飲み込んで曖昧に笑う。
「お一人様に決まってんでしょ!」
「…ふーん。寂しい奴!」
「うっさいなぁ。モテ男のエースと一緒にしないでよね!私にも彼氏がいたらなぁ。…まぁそう簡単に出来そうもないし、友達と行こっかな!」
「…おれがいるじゃん」
「友達だけど、彼女がいる友達は誘わないよ」
言わせるんじゃない!
片想い中の恋心を抉ってこないで!!
心の中では半泣きだよちくしょう。
陽が落ちてきて空は茜色。
寄り添うように伸びている影を見て切なくなった。
今は、この二週間だけは。
繋いだ手を離さないでほしいな。
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