04


朝起きたらまずスマホを手に取る。
アラームが鳴る前に起きられたな、とか。
今日は早く行こうかな、とか。
やっぱり二度寝しちゃおうかな、とか。
そういうことを布団の中で考えながら画面を見る。

アプリを起動させてトーク画面を開いた。
相手は、数日前から連絡を取り合うお試しの恋人。
おはよう!朝の挨拶のスタンプを送る。
これに既読が付くのは私が学校に着いてから。
遅刻ギリギリで登校するエースは自分の席につくと同時に「おはよ!」と送り返してくる。
…これに意味があるのかは、わからない。
でも、朝から好きな人に連絡を取れるのは嬉しい。
例え二週間で終わる…仮初の恋人だとしても。

午前中の授業を真面目に受けて、昼休みはエースと一緒にご飯を食べてのんびり喋りながら過ごす。
眠たくなる午後の授業も乗り越え放課後。
部活へ向かって、今日の分を終わらせる。
ちなみに文化系の部活なので活動は室内だ。
体育系とは違い、時間いっぱい使うことはない。
自分のペースで進めて良いし、帰宅時間も自由。
遅くならないよう切り上げて正門へ歩を進める。

正門を出た所で声をかけられた。

「お疲れさん」

そちらへ振り向いてみれば、見知った男子が。
放課後、この時間まで学校にいるなんて。

「何してるの、エース?」
「ん、待ってたんだ」
「あ、もしかしてルフィくん?補習してるとか?」
「違う!ナツキを待ってたんだよ」

私を待ってた?
何か用事があったのかな。
素直に聞けば盛大にため息を吐かれる。

「ただ、彼女を待ってただけ」
「用も無いのに?」
「そう。用も無いのに」
「なんで??」
「…お前そんな鈍かったか?一緒に帰ろうぜ」

一緒に帰ろうぜ?
え、本当にそれだけのために待ってたの?
それなら部活へ行く前に声をかけてくれれば、もう少し早く切り上げたのに。なんか申し訳ないな。

行くぞ。そう言って歩き出すエースの背中を追う。
隣に並べばちらりと私を見た。

「マフィン、美味かったよ」
「あ!食べてくれたの?」
「当たり前だろ。次もおれが貰うからな!」

次。次の調理実習は一ヶ月後だ。
選択授業は月一だから“次”が遠い。
そしてその頃にはもう恋人関係ではなくなってる。
わざわざエースへあげる必要は…ないんだけど。

返答に詰まりつつ「覚えていたらね」と返した。
約束はちょっと、出来ない。

私を待っている間、何をしていたのか尋ねると。
サッカー部にバスケ部、野球部や柔道部にも顔を出して練習の輪に加わっていたそうだ。
アグレッシブすぎる。
サッカー部は顧問来るまでがめちゃくちゃ緩い。
バスケ部の誰それが強い。野球部はそもそもボールが足りねェ。柔道部は基礎練がかなりキツい。
など、体験した話を笑いながら聞かせてくれた。

他愛のない話を続けていたら急にエースが止まる。
エースより二歩ほど先で止まった私は、振り返って首を傾げた。どうしたんだろう?

「…ナツキ。手、出せ」
「手?突然なに、握手?」

右手を差し出されたので同じく右手を出す。
すると、ちげーよ馬鹿!と罵られる。なんなの。

「恋人らしいこと、したいんだろ」

今度は反対側へ首を傾げる。
…恋人らしいこと?
あっ!そうだ。言った記憶が確かにある。
一昨日、私が思った“恋人らしいこと”。

手を繋いで帰る。

「あれ?でもエースは歩きづらくねェ?とか言ってなかった?繋ぐのが嫌なんだと思ったけど」
「別に嫌ではねェ。そういうスキンシップ?ってのを、恋人ならするべきかなァと考えてな」
「ええ?手を繋ぐこともしてなかったの?」
「あるような…ないような…?」
「カーッ!背後から刺されろ!!」
「怖ぇこと言うなよ!」

好意を持とうとしてるならスキンシップは大事!
…だと、思います!
それにさ、好きな人と手を繋ぐなんて一大イベントだよ!?ドキドキ!恥ずかしい!照れちゃう!
そんなイメージがある!青春って感じ〜!!

「…ほら、早く手。貸せよ」

……。
私と、エースが。手を繋ぐ。
おっ…とぉ!?こ、これはそうだ。
私的にも一大イベントじゃんね!?

手を繋ぐ。
そう、かっこ仮でも恋人だから!
私が言ったことを叶えようとしてくれてるわけだ!
エースと手を繋ぐ。
繋ぐの?エースと??

「え、っと。今日は…遠慮しとこうかな?」
「なんでだよ!?」
「だって心の準備が出来てないし!」
「心の準備ィ?いらねェだろそんなもん!」

エースは一歩で私との距離を縮めて、後ろへ隠した手を取るとそのまましっかり握った。
手のひらを覆う、大きな手。
エースの指が私の手の甲に触れる。

一瞬で体温が上がったような気がした。

「手を繋いで、帰るぞ」
「え、あ…。…うん…」

やばいやばい。言葉が出ない。
動揺がすごい。心臓バクバクしてる。
エースの手ってこんなに大きくて厚いの?
知らなかった。
それなのに繋ぎ方は優しくて痛くないよう力加減をしている…ように思える。この人本当にエース?

繋がれた手を意識すると更に緊張が増す。
私が思う“恋人らしいこと”って、私にとってはハードルが高かったんじゃない?おいおいマジか?
どうすればいいのこれ。握り返す?
普通は繋いでくれたら握り返すのが普通?
もはや普通って何?な状態だよ私!落ち着け!!

「…ナツキの手、思いのほか小さいんだな」
「え?あ、そう?どうなんだろ、わかんない」
「おれと同じくらいだと思ってた」
「それはいくらなんでも無いでしょ!?」
「ああ、女子の手、だ。やわらけェ」

顔に熱が集まってきた。
何これ、なんなのこれ!!
世間の恋人たちは毎回こんな緊張感の中、手を繋いでいるの!?猛者で強者が過ぎるのでは?!

どうしよう顔を上げられない。

「なぁ、明日も待ってるから一緒に帰ろうぜ」
「な…なんで」
「こうやって手を繋ぐだけで動揺しまくるナツキの姿を見るのが楽しいから。だな!」
「は?…はぁー!?最低じゃん馬鹿!」
「うける」
「うけない!!」

繋いだ手を離さないまま、歩き出した。
引っ張られるように着いて行く。
その時に私も握り返せた。
やっぱりエースの手は厚いし、…熱かった。

「ねぇ、エース?」
「んー」
「私の手汗やばくない?」
「いや、これはお前のだけじゃ……離すか?」
「…ううん。嫌じゃないならこのままで、いい」
「…嫌なわけねェだろ」

ぐっ、と。
握る手に力が入った…ような。
何にしても、嫌がられなくてよかった。

こうして初めて手を繋いで帰ったものの、分かれ道に差し掛かるまでエースの方は一度も見れなかった。恋人らしいことって、なかなか難しい。
片方が想っているなら尚さら難しいものなんだな、そう実感…体感した私だった。

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