トロピカルキック
仕事を終えて帰路に着く。ナックルシティの街並みはガラルの中でも一番好きな雰囲気だが、その中でも夕陽が城の隙間から差し込むこの光景が最も美しいと思う。
オレさまの仕事にルーチンワークは少ないため定時というものは存在しない。ジムチャレンジ期間を代表に忙しくて家に帰るのが夜遅くなる日もあれば、朝少しナックルジムに顔を出して、後は自由時間みたいな日もある。
フリーになる日は大抵友達と気になっていたカフェに行ったり服を買いに行ったり、ポケモンたちとトレーニングをしたりするのだが、今日はまだ日の沈まない時間に終わったものの遠くまで出かけられるほどの時間は無い。
ハニーと一緒にワイルドエリアでも行くか。
一緒にトレーニングして、ポケモンたちを遊ばせて、夕飯はキャンプでカレーでも作って……いや、駄目だ。ハニーには暫くカレーは食べさせないと決めている。何か別のものを作るか、それとも買って帰って家で食べるか。
ああでもないこうでもないと考えながらスマホロトムを呼び出す。メッセージはあるかと訊くと、のんびりした口調で「無いロト〜」と答えが返ってきた。
「ンのやろ……」
昼前には、ジムを出る時間の算段をつけていたため、ハニーには事前にメッセージを送っていた。
ふわふわと浮かぶロトムを手に収めてメッセージ画面を開くと、確かにハニーからのメッセージは無い。
しかしオレさまが送ったメッセージに対して既読のマークはついていた。
ハニーはオレさまの連絡をほぼ無視する。というか誰の連絡でも無視する。
いつだったか、連絡も取らない奴が何故スマホロトムを持っているのかと呆れ混じりに訊いたら、ジムチャレンジをするときに必要だと言われたからと答えが返ってきた。そうだった、身分証代わりに必要なんだったわと思い出したが、それが無ければきっと一生作らなかったんだろうなあと彼女の交友関係を想像して悲しくなったのは記憶に新しい。
リーグからも連絡は来るのだし、とにかくメッセージが送られてきたら内容は確認せよというお願いは守ってくれているようだが、キバナさまの連絡はどうやらメルマガ扱いのようで、返信が来た試しがない。文字の打ち方を知らないのかと疑ってしまうほどだ。
ロトムにお願いしておけば勝手に返事をしてくれる機能だってあるというのに、持ち主のハニーが返事の必要なしと判断してしまうために、せっかくのロトムの頭脳も活用されていないのが現状だ。
忘れることなく持ち歩いてはいるのだが、彼女にとってスマホロトムの価値はスマホではなくロトム自身にあるため、スマホの機能はジャラジャラと盛られたアクセサリーくらいに思われているに違いない。
仕方ないので電話をかけることにして、以前無理矢理入手したハニーの電話番号を表示させる。
オレさまからの電話には、ハニーが何をしていようと通話を開始するようハニーのロトムに厳命しているので、ハニーがたとえ寝ていたとしても電話は繋がる。保護者の特権というやつだ。
「あんまり遠くに行ってないといいけど」
独り言ちつつ、足を向けるのはワイルドエリアだ。
経験上、彼女が一番いる確率が高いのがそこだった。
電話をかけながら再び夕飯の事を考える。今は彼女の食事のバリエーションを増やしているところだ。世間知らずな彼女は料理のレパートリーも少ない。作る方だけではない、食べるほうですらだ。
彼女が好きと言ったものを思い出しながら、似た系統の違う料理を考える。オレさま自身がほぼ料理をしないのでなかなか候補が上がらない。
「育ってほしいからなぁ……喜んで食べるやつじゃないとな……」
嫌いだと言った物も勿論残さず食べさせたが、量を強制することはできないのでハニーが自主的に食べるものが良い。
彼女は食が細いうえに決まった時間に摂らないなど、心配な部分しか無い。健康的な食事を習慣づけてやらないと、と頭を捻った。
――――教育係っていうかお母さんじゃない。
ルリナの言葉が頭を過る。
いや腕の中だから徒歩0秒だしわざわざ起こしに家まで行った訳じゃないんだぜとは口が裂けても言えなかったのであの時は笑って流したが、確かに否定もできないな。
思い出して苦笑していると、ハニーのロトムが応答した。
『こちらハニーのスマホロト!』
「おう、ご苦労さん。ハニー今どこにいる?」
ハニーに言ったところで上手く説明できないだろうから、こういうのはロトムに位置情報を送ってもらった方が早い。
『マップを検索中ロト。……ムム?キバナがすぐ近くまで来てるロト』
「ん? ワイルドエリアじゃねえのか……あ、いたわ」
遠くに見える、ちっこくて可愛い女の子は間違いなくハニーだ。
この間彼女に買ってやったワンパチをモチーフにしたワンピースがよく似合っている。稲妻マークの尻尾と首元のファーが彼女のチャーミングさを増幅させていて、誰が見ても清楚な中に子供らしい活発さを兼ね備えた良いとこのお嬢さんだ。
口を開かなければだけど。
とはいえ、口は確かに悪いけど口調は乱暴ではないんだよなあ。敬語もそれなりに使えているし。やっぱり結構育ちはいいのかもしれない。
早くハニーと戯れたい気持ちを抑えて、余裕の足取りで彼女の元に向かう。
彼女がワイルドエリアにおらず、街中にいるのは珍しい。実はワイルドエリアに棲む妖精なんじゃないかと思うほど、彼女はあそこに入り浸っている。SNSでハニーの名前を検索すると、ワイルドエリアでの目撃情報がほとんどだ。
ワイルドエリア自体がとんでもなく広く、彼女はその全域を縄張り……いや行動範囲としているので、狙って彼女に会えることはそうそう無いのが救いだ。人が苦手な彼女の元にファンが集まるのは避けたいからな。
彼女の表情が分かるくらいまで近づいても、ハニーはまだオレさまに気付いていないようだ。
鋭い眼差しで手の中を見つめ、顎に指を当てて何かを一生懸命考えている。
時折首を傾げて斜め上を見上げては、両手を見比べたりしている。
大体のものに無関心なハニーが夢中になるものって、一体何なんだ?
多くを語らないせいで未だ謎に包まれた彼女の事を知りたい気持ちが急かして、オレさまはいつの間にか小走りで彼女の真剣な横顔に近付いていた。
彼女まであと数歩というところでようやく、彼女が何かの店の前で、道に向けて並べられている商品を見つめているのだと気づく。
掲げられた看板を見るまでもなく、そこはアクセサリー屋だった。
十代から二十代の女の子が好みそうな、キラキラした髪飾りやネックレス、ピアスなどが所狭しと並べられた陳列棚の前で、オレさまからの着信に気付かないほど夢中でハニーはウンウン唸っていたのだ。
「……」
へーえ。やっぱり女の子じゃん。
自然と頬が緩んでしまう。
バトルにしか興味がないようなポケモン馬鹿のハニーが、年頃の女の子らしくお洒落に興味を持っている。
色とりどりのアクセサリーを前に、どれを身につけようか悩んでいる。
その事が、とんでもない奇跡を目の当たりにしているようだった。
なんて和む光景なんだ。写真を撮ってSNSに投稿したらあっという間に伸びそうだ。
いや、一般人はハニーの普段の態度を知らないのだった。それならばこのギャップ、この衝撃はオレさまだけのものか。この心臓がムズムズする感じ、なんかいいよな。
どれどれ、ファッションリーダー・キバナさまがハニーの可愛さを最大限に引き出すアクセサリーをプレゼントしてやろうじゃないの、と意気込んで彼女の隣まで足を運ぶ。
ハニーはここまで接近してもオレさまには気付かないようで、熱心に自分を飾るアイテムを選んでいる。夢中になると周りが見えないのは彼女の良いところでもあり、悪いところでもある。
こんな野外で無防備な姿を見せて変態に襲われたりしたらどうするんだ、まったく。
さて、どうやって彼女にキバナの存在に気付かせようか。
いろいろ方法は思いつくけど、背後から胸部を揉みしだくのはどうだろう。
「んー……派手、なほうがいいのかな……?」
「……」
いいや、やめよう、今回は。熱心に何かをしているハニーにそんな弾けたちょっかいは出さない方がいいだろう。せっかく興味を持つものができたんだ。
女の子が可愛くあろうとする様子にはかなり好感が持てる。それをからかうように邪魔するのは、芸術作品に砂をかけるような無粋な行為だ。あと見える範囲に店員がいるから最悪通報される。
「シルバー…? …これは、おっきくて、邪魔だな……」
背後から彼女の手の中を窺う。
彼女が手に取って見比べているのは指輪だ。
最初に贈るならネックレスあたりかと思ったが、ファッションリングが欲しいなら勿論それでも構わない。
指輪ね。オレさまもたまに着ける。ハニーの前でも着けていることはあるし、オレさまのを見て羨ましく思っていたのだろうか。
オレさまのを真似したくなったのなら、お揃いにしてもいいな。完全なペアリングではなく、素材が同じとか、モチーフが同じだとか、その程度であればオレさまとハニーの仲を勘繰る人間も出てこないだろう。仮に疑われても偶然で済ませられる。
ああ、体が小さいと手も指も小さいな。
オレさまの小指用の大きさがハニーにとっては親指用くらいだろうな。いや、もっと小さいかもしれない。
ある時期に差し掛かれば身体は急激に成長するだろう。その時が非常に楽しみだが、そうなったら着ける指輪のサイズも変わってしまう。
せっかくだから長く使えるものをあげたいが、まあ、入らなくなったらチェーンに通してネックレスにすればいいか。
「なーにしてんだ、お姫様?」
「きゃあっ!?」
結局、ハニーの背後に立ったまま真上から声をかけつつ両肩に手を置いて驚かせることにした。
ハニーは素っ頓狂な声を上げて一瞬跳ね上がった。そして正確に声の方へ顔を向けようと思ったのか、振り向かずに星を見上げるように顔を後ろに逸らす。
くそ。かわいい。家だったらそのまま顔を下に下げてキスするところだった。
「キバナさん。…わたし、お姫様じゃないです」
オレさまがこういう小さな悪戯をするのに最近慣れてきたハニーは、ジト目でオレさまを睨みこそするものの、文句は言わなくなった。
前はいちいち「なんでそんな無意味なことするんですか!」って真っ赤になって目を吊り上げていたけど、その度に「ハニーが可愛い顔でオレさまのことを見てくれるのが嬉しいから」って返してたから過剰な反応はキバナを喜ばせるだけだと学習したらしい。
それはさておき、ハニーはオレさまの言葉を否定すると、おもむろにオレさまの方を向いて胸を逸らし腰に両手をあててふんぞり返った。
「女王様です。チャンピオンなので」
「おおう……」
無い胸を張っても威厳は生まれない。
ポケモンバトルのチャンピオンって、つくづくトレーナーの性別や年齢は関係ないんだなあと思う。老若男女問わず。それがポケモンバトルの良いところだ。
「んでなに、リング欲しいの?」
「はい」
「オレさまが買ってやるよ」
「いいです。自分で手に入れないといけないみたいなので」
「いけない…みたい?」
なんだか気になる言い回しだ。
自分で買いたいのならそれ自体は別に構わない。親に与えられた物よりも自分の力で手に入れた物の方が思い入れが強くなるということもある。オレさまはハニーの親じゃないけど。
プレゼントすれば今日の服みたいにちゃんと受け取ってくれるから、今日は別に無理にプレゼントしてやることはない。
ただ、気になるのは彼女の言い方だ。確信に基づく言い方ではなく、不確かな情報に従って指輪の購入を検討しているようなニュアンスだった。
ハニーはオレさまに曖昧に返事をすると、また指輪に向き直って悩み始めた。これは長くなりそうだ。
彼女が何故指輪を欲しているのかも知りたいし、オレさまも指輪選びに付き合うことにした。
「どんなのがいいんだ?」
「結婚指輪って何でもいいんですか?」
「はん?」
変な声が出た。
完全に予想外の答えに狼狽え、意味もなく周りを見渡す。
「結婚指輪……、て、え?結婚?」
「はい。結婚指輪です」
「……」
キバナは直感した。これはピンチでありチャンスであると。返す言葉を間違えると瀕死になるやつだと。
結婚。生涯の伴侶。人生のパートナー。
当然、日常的に関わりのある人間が対象になってくる。……とすると。
ハニーがオレさま以外に仲がいい奴がいるなんて聞いたことがない。オレさま以上に、ではなくオレさま以外に、だ。選択肢があまりにも0すぎる。
え、いないよな?まさかな?
学校の友達――――いや、彼女と歳の近い子供がハニーを御することができるとは思えない。というか彼女の性格では友達はいないと思われる。
それに学校はつまらないので行かないと言った彼女だ、結婚したいほどの相手が学校にいるとは思えない。
じゃあ大人?ふざけんなロリコンじゃねえか。見つけたら速攻排除してやるわ。
考えを巡らせた結果、やはり結婚相手はオレさましかいないが、まさかそんな、ハニーがついに身も心も法的にオレさまのものになる決意をしたのか。色気のない態度の裏では、結婚したいと思うほどにオレさまを慕ってたっていうのか?
そんなオレさまに都合のいいことってあるか?バチが当たってもおかしくないくらい倫理的にかなり危険な橋渡ってんのに、こんなカモネギが鍋背負って歩いてくるような展開があっていいのだろうか。
「結婚……」
いや……ハニーのことだ。結婚相手は人間とは限らないんじゃないか?
というか、ポケモンとだろ。
そうだ、思いついてみればそれしか考えられない。
「なるほどな。あーびっくりした。お前可愛いこと言うよなあ」
「結婚は可愛いことですか。わたしはそうは思いませんけど」
「可愛いって言われたらニコッて笑ってありがとうございますって言うんだぜ」
「ばかみたいなので嫌です」
「馬鹿みたいなんて思うのはお前だけだ。ほら言え、今言えなかったら夜言えるようになるまで頑張ってもらうからな」
「にこってわらってありがとうございます」
「お前どんどん生意気になってくるな……」
まあ、この程度の生意気は余裕で可愛いから置いておくとして。
ポケモンと結婚かあ。
これはこれで女の子らしい。ポケモンが好きすぎて“けっこん”したくなっちゃったんだろうな。公共の場にも拘らず抱きしめて舐めまわしたくなるほど可愛い発想だ。
オレさまが相手じゃないのがちょっと不満だけど。
いいよいいよ、今のうちはさ。これが人間の男相手だったら怒り狂ってるところだが、ポケモン相手なら怒りようがない。
もうちょい成長したら、それは所詮おままごとだったと自然と分かるだろ。分からないならオレさまが教えたっていいし。
実際に自分のポケモンと結婚して財産をポケモンに遺したって話も聞くが、まさかそんな理由でもないだろう。…書類上でハニーがポケモンと結婚してしまってオレさまと結婚できなくなったら困るから、牽制だけはしとくか……?
彼女の気になる言い回しも、そう考えれば分からなくもない。
自分で“買わないといけない”ってことは、おそらく自分の分ではないと言っているんだろう。
結婚指輪は相手に買ってあげたいもんな。ポケモンが自分で指輪を買えるとも思えないし、なるほど、相手にあげる用の指輪を選んでるわけだ。
結婚相手のポケモンがエルフーンとかアーマーガアなら、指輪に拘らず首輪やアンクレットにでもしたほうがいいだろう。そうすると、渡すポケモンによって大きさも全く変わってくる。
「で、どいつに渡すんだ?」
「自分が着けます」
「……」
うーん。分からん。分からんが欲しいなら仕方ない。
ハニーがオレさまを邪険にせずちゃんと会話が成り立っているあたり、結婚指輪選びには真剣で、そしてどういうものを選べばよいか全く分からないようだ。
大した理由も無く気まぐれで買おうとしているものなら、オレさまに話しかけられた時点で嫌な顔をして逃げていただろうし、ある程度自分の希望があるならオレさまの話になんか耳を貸さず応答すらしないだろう。まあそんな態度取ったら夜酷いことになるのは分かってきたみたいだけど。
どういうことを言ったらオレさまのスイッチが入るのか何となく掴んできたようで、最近はハニーにお仕置きエッチをすることが少なくなってきた。
これは秘密だがオレさまはお仕置きというシチュエーションが割と好きなので、彼女の成長は少し寂しい。まあそのシチュエーションが少なくなったというだけでヤることはヤってるんだけど。
邪な考えは頭の隅に置いておいて、彼女が手に取っては戻して悩む指輪たちを眺める。
彼女が着けるのであれば大人びたものより可愛いものがいいだろう。結婚指輪はシンプルなものが定番だし、彼女はワイルドエリアを駆け回る野生児の側面もあるのであまり過度な装飾のついたものは彼女を傷つける恐れがある。多少の怪我なら消毒もしなさそうなハニーだ。跡が残ったら可哀想だ。
シンプルで邪魔にならなくて、可愛いデザインか。目についた一つを選び取って、彼女の目の前に持ってくる。
下手にガラス玉などの粒を入れていない、シルバーだけでニンフィアのリボンを模った指輪だ。
「これとかどうだ?あ、でも薬指にはちょっとサイズが合わねえか」
「結婚指輪って薬指じゃないとダメなんですか?」
「ん?まあ普通そうだろ」
「でもキバナさんは薬指じゃないじゃないですか」
「……?」
キバナは再び直感した。これはピンチでありチャンスであると。返す言葉を間違えると瀕死になるやつだと。
え、もしかしてオレさまが結婚してると思ってる? なんでだ?
オレさまのファッションリングを結婚指輪だと思ってるようなのは間違いないだろう。…指輪が全部結婚指輪だとでも思ってるんだろうか。
まあ、指輪のことはいい。問題はオレさまが結婚していると思っているところだ。
こんなに毎日一緒にいて、キバナの生活に他の女が割り込む余地があると思っているのだろうか。
結婚したら、事情がない限り夫婦は一緒に住むのが普通だろう。変な勘違いをしていなければハニーもそういう認識をしている筈、ということは。
これ、やっぱりポケモンじゃなくてオレさまが結婚相手じゃないのか?
いや、直球で訊いたら辛辣な言葉が返ってくる可能性がある。
例えばそうだ、こんな反応をされるかもしれない。
「もしかしてオレさまとの結婚指輪選んでる?」
「はァ?絶対嫌です。キモッ」
泣く。絶対泣く。ハニーを犯しながらめっちゃ泣く。彼女のぷにぷにの可愛いお口から放たれる拒絶はなかなか心に刺さるのだ。
オレさまは人生で一度たりともキモかったことのない男なので、もしかしたらオレさまはキモいのかもしれないなんて落ち込むことはないが、ハニーに言われるとかなり凹む。事実とは違うと分かっていてもだ。
「…オレさま、結婚指輪はまだ持ってないんだよ」
とりあえず、核心を突かないような感じでとりあえず話を合わせることにした。
ここは攻めるところじゃない。変化技で様子を見よう。
ハニーはオレさまを見上げて、コテ、と顔を傾けた。
可愛いと思われたくてやっているわけではないのに、何でこうも彼女はあざとい仕草を繰り出してくるのだろう。オレさまを虜にする神がかり的天性愛され容姿を神が不公平に思って性格でバランスを取ったに違いない。
「いつから持てばいいんですか?」
いつからとか訊かれても。
結婚してからとしか。
「あ、…赤ちゃんが、産まれてから?」
ハニーが腹の前で手を組み、俯いた。その表情はいつもの無表情でも不機嫌顔でもなく、どこか暗い。
不安を滲ませたような表情に、狼狽えてしまう。ハニーが不安そうにするのは大体ベッドの上で、まだ陽のある内からこんな儚げな表情をするのを見るのは初めてで興奮、いや心配になってしまう。
っていうか、え?子供?
ハニーは俯いた…というより、自分の腹を見たようだ。腹に添えた両手が、きゅ、と結ばれた。
……えええ、まさか。
「…ハニーとオレさまの子供?」
「……」
俯いたまま、こくん、と頷いた彼女の小さい頭を見つめる。見つめる。
魂が抜けたように、ぼうっとしている自分を客観的に見て、ぼうっとしているな、と思った。
え、マジで?出来ちゃったのか?
ありえないとは言いきれない。最初の1回以降はずっとゴム付きでヤっていたが、もしかして最初の1回で大当たりしちまったか。
海獺