わたほうし



ある日、ハニーのポケモンとオレさまのポケモンを遊ばせる傍ら人気店で買ったクッキーをお茶菓子に彼女とティータイムを楽しんでいたとき、ふと気になったことを訊いてみた。


「そういやお前、そろそろ学校行かなくていいの?」


ジムチャレンジは企業の出資によって成り立つリーグが運営するため、国からの補助金こそ無いが、経済を回す最大のイベントかつ伝統文化なので政府の関心は高い。
なのでジムチャレンジ期間中、国公立に通う子供はチャレンジ資格を得たチャレンジャー限定で学業免除されるし、私学でもそれに倣うところが殆どだ。
ジムチャレンジ休暇という制度を採用する企業も少なくない。何年か前のジムチャレンジでは有名な企業のお偉いさんがそこそこいいところまで行ったことで話題になった。ジムリーダーでない一般人がトーナメント初戦でダンデと当たったせいで、次回からシードを導入するか検するとニュースになったのをよく覚えている。

ジムチャレンジが終わって暫く経つ。
ただのチャレンジャーでなく、チャンピオンにまでなった彼女の学業免除期間はかなり伸びたことだろう。よく覚えていないがダンデの時もそうだった気がする。
だからまだ学校に行かなくてもいいのかもしれないが、そろそろ普段の生活に戻ってもいい頃合いだ。学生の本分は勉強なのだから。

チャンピオンにも勿論、社会に出るための基本的な教育を受ける権利は約束されている。
だからハニーが学校に行きたいと言えば、チャンピオンが担う仕事は延期もしくは中止されざるをえない。それがたとえリーグの長との会食であってもだ。
国が教育に力を入れていると各所にアピールしている手前、優先すべきは学ぶ機会を作ることであり、教育の機会を大人の都合で損なわれるなどあってはならないのである。
普通の感性をしていれば、誰もが憧れるチャンピオンにしかできない経験を放棄してまで今まで通りの生活を優先しようとは思わないだろうが。

つまり、仕事の有無関わらず、ハニーが学校に行く権利は常に保障されている。
しかし彼女は不機嫌な顔でこう答えた。


「つまらないので行く気ないです」


だから悪い大人キバナに手籠めにされるんじゃないのか。という言葉は飲み込んだ。ケンホロウも鳴かずば撃たれまい。

しかし行ってない、ああそうですかで済まされる問題ではない。教師や彼女の保護者はこのハニーのことをどういう風に考えているのだろう。
彼女の実家には近いうちに挨拶に行かなきゃいけないけど、彼女の家の事情は事前に把握しておいた方がいいだろうか。普通の家庭でこんな意地っ張りモンスターが出来上がるとは思えない。

学校、行った方がいいと思うけどな、やっぱり。
規格外の強さであるのは良いことだが、世間を知った上での破天荒な振舞いと常識を知らない故の礼を欠いた行動とでは他者からの評価はまるで違うだろう。

しかし、オレさまはリーグ関係者としてハニーに指導する責任はあっても、彼女のその辺の問題に直接口出しする権利はない。勉強も振舞いも、オレさまが直接教えることはしても学校に行くこと自体を強制したくはない。

ハニーはツンとした顔で紅茶を啜る。普段から口数が多いほうではない、特に自分のことを語りたがらない彼女からは学校生活のことも聞いたことがない。
あまり聞かないほうがよいこともあるだろう。この性格じゃどう見ても青春は遠い。


「んじゃ、何にもしないって訳にもいかないし、ガラルのチャンピオンとして、普通じゃできない経験してみようぜ」

「普通じゃできない経験?」

「…チャンピオン直撃取材?」

「嫌です」


イッと口を一文字にして、ハニーは拒絶の意を示した。
テーブルの下で、床に全然届いていない足を苛立ったようにぶらぶらさせている。機嫌が悪い時のチョロネコみたいだ。

例年なら、チャンピオン――――これはつまりダンデのことだが――――はチャンピオンシップが終わったら程なくして会長との会食の予定を組まれる。
ところが今期はローズ会長の失脚により会長の座は空白のままだ。一部の幹部も罪を償うことになり上層部は立て直しに奔走中。頭が決まってない以上、新チャンピオンのハニーとの会食は予定を組んでも意味を成さない。

そしてテレビや雑誌の取材。契約も何もしているわけではないのだから、これはチャンピオンに課せられた義務ではないのだが、しかし義務と言ってしまってもいいだろう。
数多のチャレンジャー、並びにジムリーダー達を全員薙ぎ払って、皆の憧れるチャンピオンになったのだ。トップになっておいて、後はほったらかし、は通らない。


「お前の意志は尊重したいけどさ、リーグの顔も立ててやってくれよ」

「嫌ったら嫌です」


嫌ったら嫌なんだもんなあ。困った。
正直に言うと、法的に彼女に間違ったところは一切ない。

ジムリーダーやチャンピオンは、民間(と言うには少し特殊な)企業が運営するリーグの協力者だ。
上下関係は無い上にその関係は信頼のみで成り立ち、リーグに出場しなければいけない、とか取材を受けなければならない、みたいな事項が書かれた契約書なんてものはない。せいぜいスタジアム使用にあたっての注意事項や個人情報の取り扱いについての書類くらいだ。

ジムリーダーやチャンピオンは個人事業主みたいなもので、だからこそ自由にそれぞれのジムや町を盛り上げる施策を実現できる。
反面、自由ゆえに抑止力がないというデメリットがある。
ぶっちゃけた話、例えば来期のジムチャレンジ、ハニーが気乗りしないという理由でトーナメントに出なくても何の違反にもならないのだ。
荒唐無稽すぎる話だが、だからこそ“チャンピオンはトーナメントに出場しなければならない”なんて誓約を作ろうとは誰も考えつかなかった。

ジムリーダー達には傍若無人な振舞いをする者がいなかったためこのデメリットは今まで表面化してこなかったが、よりによって、チャンピオンによって体制の問題が露呈するとは思ってもみなかった。
リーグがごたついてなければ、まだ問題はそこまで大きくなかったのだが。

リーグからの接触は保留中。取材からは逃げ回る。
というわけで、ハニーはチャンピオン初の仕事を未だに経験できないでいた。代わりにとんでもない初体験させられたけど。


「一回やってみたら案外楽しいと思うかもしれねーだろ?」

「だから一回会議参加しましたけど、つまらなかったです」

「……。誰にも頼らずに自分のポケモンをちゃんと養ってやりたいなら、つまらなくても仕事はしないとダメだ」

「むう……」


彼女の年齢で労働を強制することはできないし、本当は言いたくはないんだけど。
本当なら、彼女の年齢では親に養われているのが普通だ。本人はその辺の事情を何も言いたがらないが、しかし自分の力でポケモンを養いたいとは確かに彼女が言ったことだ。
自分で言い出した目的のために手段を提示してやるのは、悪い教育ではないだろう。


「学校行ってないし、取材も受けてないし、トーナメント終わってから何してたんだ?」

「……。ワイルドエリア…で、あの子達と遊んでました」

「あのな〜……。いや、うん……お前ほんとワイルドエリア好きだよな。実家、ハロンタウンだったよな?チャンピオンになったってちゃんと報告したか?」

「してないです」

「え?帰ってないのか?一回も!?」

「です」


彼女がワイルドエリアでキャンプをしたりたまにホテルに泊まったりしているのは知っていた。
いくらチャンピオンとはいえ、連日女の子一人でキャンプをさせるのは危険だ。心配で心配でオレさまが夜も寝られなくなってしまう。
だから説得に説得を重ね最終的には半ば攫う形で、今はオレさまの家に住まわせている。

彼女の外泊は彼女の実家にとっては今に始まったことではないようなので、彼女の実家に連絡することなく同棲に持ち込んだ訳だが、まさか一回も家に帰っていないとは。

ジムチャレンジの前はちゃんと実家に住んでいたらしいけど、ジムチャレンジで家を出たら戻りたくなくなってしまったのだろうか。


「……」


ハニーの歳くらいの子供が何日も家に帰らなかったら、普通心配して探すだろう。
ハニーがチャンピオンになった話は連日テレビを騒がせた。顔は勿論、名前だって繰り返し放送される。しかしリーグにそれらしき問い合わせは無い。
親は一体何をしているんだ。ハニーを何だと思っているんだ。

……まあその辺りは考えたって仕方ない。オレさまが今すべきことはハニーをいかにして自主的にリーグ運営に協力させるか考えることだ。


「とりあえず一回、軽い取材でも受けて欲しいんだけどなあ。…今度オレさまが受けるインタビューに同席してみる?いや、それじゃオレさまが喰われるな……」

「喰……?わたし、キバナさんは食べないです」

「うんうん、お前はオレさまに喰われるほうだもんな〜」

「食べられてもいないです」


自分の分のクッキーを食べ終わったハニーの口に付いた食べカスを取ってやる。
そのままハニーの口に指を入れて、舌をぐにぐに押すと、ふいうちに驚いた彼女の喉の奥からか弱い悲鳴が漏れた。

柔らかくて暖かいそこから指を出すと、濡れた指先が冷たく感じる。ハニーの唾液に塗れた指を何気なく自分で舐め取ると、ハニーが不満をぶつけるようにテーブルをガツガツ叩いた。


「人の口に指を突っ込まないでください」

「ハニーって口の中も可愛いよな」

「今度やったら噛みます!」

「それはそれで……、いや、なんでもない。ごめんごめん」


指は痛いけど、肩とかなら、うん、全然アリ。

ご機嫌取りにオレさまの分のクッキーを口元に差し出すと、ハニーはまだ納得していないという顔で自然にそれを口に咥えた。
むぐむぐと咀嚼する横顔を見つめながら、ほくそ笑む。

最初のほうはあんなに抵抗していたのに、今はそれが当然であるかのようにオレさまの“あーん”を受け入れている。
口に指を突っ込んでもぎゃあぎゃあ喚いて暴れたりしなくなったし、うん、教育の成果は出ている。
子供って適応早いよなあ。教え甲斐があって結構だ。


「さて、どうするかな」


実はオレさまのところに取材に来た顔見知りの記者たちから、どうにかチャンピオンに取り次いで取材を受けるよう説得してくれないかと、トーナメントが終わってからというもの何度も何度も頼まれている。
たまにオレさまのSNSでハニーとのツーショットを投稿しているから(結構バズる)、世間にはオレさまと彼女は仲良しであると認識されている。
ごく頻繁に広大なワイルドエリアに出掛けてなかなか見つからず、たまに町で見つけたとしても人に話しかけられたらすぐ逃げる彼女を捕まえるには、彼女の交友関係から辿るのは有効な手段だろう。

前チャンピオンであるダンデは、トーナメント終了後も疲れた様子ひとつ見せず取材に応じていた。
10年間でそれに慣れ切ってしまったマスコミがいち早くハニーの特集を組みたい気持ちは分かる。しかし、可憐な少女である彼女はきっと疲れているだろうから暫く休ませてやって欲しいとオレさまは彼らの要求を押しとどめ宥めていた。

彼女を気遣ってのことだった。オレさまが勝手にやったことだと言われればそれまでだが、本当に、さぞかし疲れていることだろうと思っていたから、防波堤になっていたのだ。
それが何をしていたかといえば、休むどころか、実家に報告に行くでもなくただただワイルドエリアで遊び回っていただけだった。この無責任さにはさすがに苦い顔をせざるを得ない。

いや、ハニーに非はない。
ちょっとしかない。

本来、チャンピオンに道を示すのはリーグの仕事なのだ。
今回チャンピオンが何の仕事もしていないのは、偶然ダンデの引退とローズ会長の失脚が重なったからだ。
ダンデなら、リーグからの働きかけが無くても経験と人柄、伝手なんかもフル活用して、リーグの運営が危ぶまれてもチャンピオンという責務を全うしただろう。
しかし経験も人柄もコミュニケーション能力も何もかもダンデに劣るハニーにそんなことが出来るわけがない。
ハニーのことは大好きだ。大好きだから言うが、彼女がダンデに勝てるのは強さと可愛さとプライドの高さだけだ。愛嬌ですらダンデのほうが上だろう。
高すぎるハードルを強要する気は無いが、今の状態は低いハードルを跳ぼうともせずにその辺をうろうろしているようなもので、それではいつまで経ってもゴールには辿り着けない。


「ハニー、お願い。とりあえず一回だけ、取材受けてくれねえか?」

「嫌です」

「ギャラが入ったら、ポケモンたちに美味いメシ食わせてやろうぜ」

「……」

「嬉しいだろうなあ。大好きなハニーが、苦手なことを一生懸命頑張って手に入れたお金で、自分達のために豪華なご飯を買ってくれたら」

「……、」

「ハニーの手持ち、今はオレさまが買ってくるメシ食ってるもんな。そのうちオレさまのほうが好きになっちまうかも」

「そんなことないですっ!」

「いーや、どうだろうな?実際、もうオレさまに懐いてるし」


意地悪にそう言って、オレさまのジュラルドンの背にしがみついて遊んでいたハニーのエルフーンを大声で呼ぶ。
エルフーンはオレさまがおいでと呼んだことに気付くやいなや、どこか気の抜ける笑顔を浮かべながら、ふわふわと飛んできた。
綿を撒き散らしながら、エルフーンはハニーの目の前でオレさまの腕の中に納まる。
愕然とした表情を浮かべるハニーに大人気なくフフンと笑うと、彼女は顔を真っ赤にして「エルフーンっ!」と叫んだ。


「フーン?」

「なん、なんでっ!?エルフーンはわたしのポケモンでしょ?なんでキバナさん好きなの?なんでキバナさんの言う事聞くのっ?」

「エルフーンは賢いなー。いい子いい子。よしよーし」

「フンフーン」

「エルフーン、めっ!こっちおいで!」


必死になっているが、ハニーはエルフーンを強引に掴んだりせず、両腕を広げてオレさまの腕の中に語り掛けている。
あくまでエルフーンに自分の意志で己のトレーナーのほうに来てほしいらしい。


「おりゃっ!」

「きゃあっ!」


エルフーンがハニーのところに行ってしまいそうな気配だったので、オレさまに向けて広げられた腕の中に、エルフーンごと飛び込んでみた。
右腕でエルフーンを抱えたまま、左腕をハニーの腰に回してしっかりと抱きしめてやると、エルフーンは二人のトレーナーを独り占めしてきゃっきゃと嬉しそうな声を上げたが、ハニーは悲鳴を上げた。
椅子に座ったままのハニーの足がオレさまの足を蹴ってくる。靴を履いていないのが救いだ。割と痛い。


「キバナさんは来なくていいです!」

「足癖悪いぞ。ハニーがそんな暴力娘だったら、エルフーンがお前よりオレさまのほうを好きになっちまうのは時間の問題だな〜」

「エルフーンはわたしのことが一番好きです!キバナさんなんか嫌いだもん!」

「エルフーン、オレさまのこと好きだよなー?」

「えるるうー」

「なんでっ!キバナさん、変なことばっかりするのにっ!わたしにいじわるばっかりするのにっ!」


そりゃお前が可愛いからだ。
エルフーンが機嫌良さそうに高い声で鳴くと、それでエルフーンがオレさまに懐いているのが彼女には通じたらしい。
地に足がついていたら地団駄を踏みそうなほど悔しがっているハニーに頬擦りしてキスをする。彼女にはこれが意地悪されているように感じるのかもしれない。

心配しなくても、エルフーンも他のハニーのポケモンも、ハニーのことが一番好きなのに。
恋人でもあるまい。自分が一番であれば、他の人間に尻尾振ろうが愛嬌を振りまこうが何だって構わないと思うのだが、彼女はポケモンにとって唯一の存在でありたいのだろうか。

……いや、あれだな。オレさまのことが単純に気に入らないだけだな、これ。
自分のポケモンと心を通わせているハニーが、普段からオレさまと楽しそうに遊ぶ自分の手持ちが本当にキバナを嫌っているとは思っていないだろう。
オレさまのことを、また手持ちがオレさまに懐いていることを認めたくないってだけか。意地っ張りめ。

両腕に抱えた可愛い生き物のうちポケモンの方を解放してやると、再び綿を撒き散らしながらぴゅうっとジュラルドンのほうへ飛んでいった。
もがいているもう一方の可愛い生き物は逃がさない。
椅子に座って膝の上にハニーを乗せ、後ろから腹に手を回す。
こうやってくっつくのも一回や二回ではないので、彼女はまだ不満そうにこそしていたが、照れて暴れるようなことはしなかった。

ハニーの飲みかけの紅茶を引き寄せて渡してやると、また両手でカップを持って飲み始める。
両手でってのがまた可愛いよなあ。ティーカップを持つのは意外と指に力が要るから、ハニーみたいな非力な少女だと指が痛くなってくるのだ。


「頑張ってエルフーンや皆に美味いメシ食わせてやろうな、ハニー」

「……」


声高に否定しないので、彼女の中でもう結論は出ている。しかし彼女は素直にハイと言えない。
無言で頷いたハニーが可愛すぎて、頭にもキスする。髪からはオレさまと同じシャンプーの匂いがするのに、どうしてそれが甘く感じてしまうのだろうか。

食べたい。


「…ご飯がなくたって、エルフーンの一番はわたしですから!!」

「はいはい」


どうしても何か言い返したかったハニーが考慮の末に口にした言葉を適当に聞き流しながら、スマホを弄る。

電話帳から呼び出すのは連絡先を交換している記者たちではない。オレさまのマネージャーだ。

今、早急に決めなきゃいけないのはハニーの代理人だ。
オレさまが彼女の仕事を管理することもできなくはないが、自分で言うのもなんだが人気者は忙しい。
同棲している今でさえ彼女と過ごす時間が足りないというのに、これ以上減らしたくはない。

オレさまのマネージャーは優秀だと思う。あいつの紹介なら信用できるだろう。


「とはいえ、条件が難しすぎるよなあ……」


必須条件は三つ。
チャンピオンの本性を隠し通せる口の堅さ。生意気を笑い飛ばせる器の大きさ。そしてハニーの可愛さに理性を失わない強い心だ。
オレさまでさえ条件を満たせないほどの狭き門。果たして見つかるだろうか。
……いやまあ、それでもオレさまが探すしかないんだけど。

通常、有名になるほど強いトレーナーは、青田買いをしたい企業がスポンサーとして名乗りを上げ契約を結ぶ。契約したいと声を掛けてくる企業が増えてくると、自身でマネージャー派遣会社に依頼したり、今まで出てきた大会の関係者が斡旋してマネージャーを紹介してくれたりする。徐々に名が売れていく過程で何かしらのコネクションが生まれ、紹介でマネージャーが付くのが殆どだ。
だがハニーはたった一回のジムチャレンジでチャンピオンへの道を最短距離で駆け上がった超新星。しかも人嫌いとくれば、コネクションなど作れるはずもない。ハニーが自身の力で自分にあったマネージャーを探すのはまず不可能だろう。

きっとあらゆる団体がハニーを我が広告塔にしたいと手ぐすね引いていることだろうと思うが、知っている人にすら声をかけられても無視をするハニーは、今まで何度かあった声がけをやはり尽く無視している。
オレさまのようなお人好し(下心は有るが)が無理矢理世話を焼かなければ、マネージャーと契約するなどやろうともしないだろう。ましてやスポンサー契約など。
担当者を嫌って突っぱねるか、チャンピオンとはいえ子供だと舐められてとんでもない契約書にサインさせられるか。危なっかしくて、たとえ彼女に積極的な気持ちがあったとしても任せるわけにはいかない。


「……」

「…ほっぺ、むにむにするの、やめてください」

「え〜」


可愛い。好き。
食べたい。

彼女の今後をどうするか考えながら、無意識に柔らかな肌触りを求めて触っていると、やはりストップが入った。膝の上に意識を向ける。
小さい顔、少し舌足らずな喋り方、形の良い丸い頭、陶器のようなツルツルの白い肌。
本当、見れば見る程可愛い。眼の美容液だ。心が潤う。

世間にもそう思われている。今は、まだ。
今のところは、ただ小さくて可愛くてめちゃくちゃ強いチャンピオンと認識されているが、彼女がこのまま飾らず人と関わっていくと、強いだけに腹が立つ生意気なクソガキと世間に認識されるようになるのは必至だろう。
周りの協力無くして、彼女に明るい未来は待っていない。


「…なんですか?」

「オレさま、頑張るからな!」

「? そうですか。頑張ってください」


ハニーは何もわかっていないようだが、別に構わない。
大人として、純潔を奪った者として、責任は果たさなきゃな。
感謝なんか求めていない。オレさまはただ彼女の知らないところで彼女のために動いて、その代わりにちょっと激しめのご褒美を貰うだけだ。

マネージャーに電話をかけながら、ハニーの髪を一房指に取り、くるくると弄る。
食べるのは、一仕事終えた後ということで。




海獺