明日の天気と心模様




向日岳人side


恋愛なんて興味なかった。というか、そもそも恋とか愛とかよくわかんねぇって感じ。お子ちゃまとか言われようが何だろうが、わかんねぇもんはわかんねぇし。今は、テニスに夢中で仕方ないって感じで。だから、ファンクラブの女子たちに言い寄られても「めんどくせぇー。」とか思ってたし、お菓子くれたら「ラッキー。」ぐらいな感じで。兎にも角にも、そんな俺が今の時期に恋するなんて思ってもみなかったんだ。
最初の印象は、大人しいやつ。人見知り。地味。って感じで、まぁ、特に印象に残るような女子じゃなかった。珍しいな、とも思った。周りの女子は、猫撫で声で俺の名前を呼んで話して、可愛い仕草とか少しだけ香水の匂いを纏わせたりとか。The、女子って感じ。でも、少し五月蝿い。そんな女子が居る中、こんな女子も居るんだな、なんて思わされたわけだけど、日直以外は関わることないだろうと思っていた。



「あっ、」

授業中。だりぃな〜なんて考えながら、黒板の文字をノートに書き写していれば、隣から小さな声が微かに聞こえた。なんだろうと思ってそちらへ視線を移せば、隣の席の花谷が困ったように俺と目を合わせた後、俺の足元へと視線を移した。彼女の視線に合わせ、足元へと向ける。そこには、消しゴムが落ちていた。
ああ、落としたのか。冷静にそう考え、足元の消しゴムを拾う。「ほら。」と小さな声で消しゴムを渡せば、彼女は気恥しそうに声を発した。

「あ、ありがとう、向日くん。」

真っ赤な顔でふわふわと笑った彼女をみて、つい無意識に「笑った方が可愛いじゃん。」なんて、言ってしまっている自分が居た。そんな俺の言葉に衝撃を受けたのか、彼女は驚いた表情をした後、またもや顔を真っ赤にして、机へと突っ伏した。
え。なんて思いつつも、小さく声を掛ける。

「お、おい、大丈夫かよ、?」

「大丈夫、デス、」

俺の声がちゃんと届いたのか、突っ伏したままの状態で腕の中から密かに顔を出した彼女は、へらりと笑って応えた。そんな彼女の表情に、変な気持ちを抱きつつも、こっちまで気恥ずかしくなっていれば、先生にとうとう見つかった。

「はい、向日だけ宿題出しとくな〜。」

「はぁ!?なんでだよ!」

「はい、"どうしてですか。" な。先生の話を聞いてない向日が悪い。以上。」

「それなら、!……だー!クソクソっ!」

花谷だって!と続けようとしたが、彼女へ視線を向ければ困った顔をしていて。言い表せない気持ちになった俺は、頭を掻き、机へと突っ伏した。そんなこんなで本当に宿題を与えられた俺は、もう終わらせとこうと苦戦しながら宿題を解く。

「……全然、わかんねぇ。」

「向日くん。さっきはその、ごめんね、」

「…別に気にしてねぇよ。つーかさ、花谷、数学得意?」

彼女の言葉に「気にしてない。」と返す。そもそも、話しかけたの俺だし。気まずそうにしている彼女を見た後、今日出された宿題へと視線を戻した。とりあえず、これを教えて欲しい。首を傾げ、彼女に問う。

「え、あ、人並みにはできるよ。」

「人並みって、できない俺は人以下かよ。」

「え!ちがうちがう!そうじゃなくて、!」

「ははっ。冗談じゃん。ココ、わかんねぇから教えて?」

「人並みにはできる。」と応えた彼女に、拗ねたように返せば、慌てて「そうじゃない。」と否定された。そんな彼女の姿を見るのが新鮮で、ついつい笑ってしまっている自分がいた。それから、丁寧にわかりやすく説明してくれる彼女に、俺は夢中になるほど宿題を解いていくのだった。



放課後。他クラスの生徒に「帰ろう。」と声をかけられた彼女は、ひとつ返事で立ち上がる。そんな彼女をいつもなら気づかずにスルーしていた俺が、声をかけた。そんな俺に、驚いたのだろう。目をぱちくりとさせた後、あの時と同じように気恥しそうに小さく笑った。

「じゃーな、花谷。またあした。」

「へっ。あ、うん。またあした、向日くん。」

扉の方へと走り去って行った彼女を見送り、机へと突っ伏す。言い知れぬ感情が襲う。この感情は、一体何だろうか。だけど、何となくわかってしまっている自分がいて。柄にもなく、「またあした。」なんて言ってしまった自分が恥ずかしい。調子狂う。部活、行くか。
ふわふわとした気持ちのまま、俺は部活へと向かった。この気持ちに気づくまで、あと少し。



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