仕事でお疲れのあなたへ

「ねえ!ちゃんみなさん!ここ間違えてるし、ここも合わないよ!期限明日だから今日中に終わらせておいてよね!」

時刻は16:45。事務所に上司の憎たらしい声が響いて、私の残業は確定した。


お仕事でお疲れのちゃんみなへ


最近はとことんついてないんじゃないかと思う。先々週はチームメンバーの身内のお悔やみで残業を被り(まあでもこれは仕方ない)、先週の日曜は真斗くんのデートドタキャン、仕切り直しの金曜の食事も今度は私のドタキャンでおじゃんになったし、一昨日は何もないところで転んでストッキングが破れた。今日の朝の占いだって10位とかいう微妙な運勢で、あ、確かにキャスターのお姉さんが何をやってもイマイチツメが甘い日って言ってたな…。そんな感じでここ2週間程何だか上手くいかないことばっかりでげんなりしてしまうのだ。

溜息をつきながらデスクに向かって、酷使された目と腰に鞭打って、上司に告げられた箇所を直す。落ち着いて見返すと意外とミス多いじゃん何やってるの私。悲しいくらいに出来の悪い私作成の書類とにらめっこしながら、とにかく仕事を終わらせて早く帰ることに専念することにした。

どうにか修正出来たでしょこれ!そう思って顔を上げると正面の壁掛け時計は19時を少し過ぎていた。あーあ、これから家に帰って着く頃にはきっと20時を回っているだろう。そうするとご飯食べて、お風呂に入って、、、全然ゆっくり出来ないなあ。そういえばここ毎日こんな日ばっかりだ。何とも言えない仄暗い雰囲気を引きずって、帰り支度をして周りに挨拶をして会社を後にした。

ふと上を見るとやっぱり星なんて見えない夜空で、何だか景色が滲んで見えた。


ぼーっとして電車に乗り、最寄駅に着くと、改札の外側に背の高い一際目立つシルエットが立っていた。スタイルいいなあ、何センチあるの?細いし脚長いなあ…何だか真斗くんみたい。真斗くん、何してるかなあ。最近寒いけど、体調崩してないかなあ。…会いたい。
会えない寂しさに少し俯きがちに改札をくぐると、突然鞄を持たない左腕を持たれてビックリする。

「な、なに!」
「何じゃない、俺だ、ちゃんみな。そんなに驚くことがあるか」

腕を掴まれて焦ったことも忘れて、今度は呆然と目の前の彼を見てしまう。なんで?あれ、真斗くん仕事は?ていうか今日会う約束してたっけ?LINE、電話、きてた?ぐるぐると思考が巡って口をパクパクさせてると、真斗くんがふっ、と笑った。

「今日は約束もしてないし、すまないが連絡も入れていない。ただ、俺が…あ、会いたいと…そう思って此処まで来た。迷惑だっただろうか?」

迷惑なんて、あるわけない。そう声に出そうと思ったのに、出てくるのは声じゃなくて涙だった。自分でも何で涙が出るか分からなくて、パニックになってると、焦った様子の真斗くんが慌ててぎゅっと抱き締めてきた。

「な、泣くな!お、お前に泣かれると困る!そんなに迷惑だったか?」
「…っち、違う、け、ど…!」
「ん?どうした?落ち着け?まずは…そ、そうだな、深呼吸だ。ほら、息を吸って、吐く。そうだ、その調子だ」

真斗くんの腕の中にすっぽり包まれて、背中を優しくポンポンとされながら、段々と涙は落ち着きをみせていった。私のしゃくりあげる声が静かになっていくと、真斗くんは顔を覗き込んでその細くて綺麗な指で私の目の縁をそっと撫でてくれた。

「…よし、涙は止まったな?きっと疲れていたんだろう。今日は俺が特製の味噌汁を作ってやる。あとは何がいい?ローストビーフのヨークシャープディング添えか?いや、これは黒崎さんの好きな食べ物だったな…。ちゃんみなの好きなものを何でも作ろう!要望はなんだ?」

私の為に会いに来てくれて、私の為にご飯を作ろうとしてくれてる。こんな幸せがあるのか、と思ったら泣いてた自分から一変して、ふふっと声が出て笑ってしまった。すると真斗くんも顔を緩めて、「ようやく笑ったな」と言ってお互いに目を合わせると、そのまま触れるだけのキスをどちらからともなくした。

「真斗くんのおかげで、幸せになれた」
「俺もちゃんみなのお陰で幸せを感じている。お前の笑顔を見ることが出来て、僥倖だ」

にっこりと微笑み合うと、そのまま手を握って自宅に向かって歩き始めた。こんな時でも恋人繋ぎが出来ずにただ子供みたいに手を握る真斗くんがやっぱり好きで、ここ暫くの運の悪い日々を全て忘れてしまうほど幸せな時間に浸るのだ。



おまけ

「聖川、おまえ路チューなんてやるじゃねえか」
「ろ、ろちゅう?黒崎さん、何ですかそれは」
「路上でチューすることだよ。聖川も隅に置けないねえ、ね、蘭ちゃん」
「なっ!?そ、そういえばあの時の口吸いは、…駅前だったか!お、お、俺としたことが破廉恥すぎる!俺の煩悩を鎮める為に、た、滝だ!滝に行かなければ!!」
「行ってらっしゃい聖川。ところで蘭ちゃんそんなところ目撃したのかい?」
「バカ言えよ!おれじゃなくて嶺二が偶々車で通りかかって見ちまったらしい。まあ面白いもん見たって楽しそうに報告して来たけどなあいつは」
「今頃みんなに知れ渡ってそうだねえ」