駅前の出会い



壱加から良いカフェがあると言われて、それじゃあ朝ご飯でもといつもより早く起きて出掛けた爽やかな晴れの日。

自分はともかくこんなに人が多い場所に普通に彼女がいていいものなのだろうかと三葉がビクビクしながら歩くも、壱加自身は全く気にしていないようだった。



「よろしくお願いします。」
「きゃっ…」
「すみません…驚かせるつもりはなかったんですが…」


突然かけられた声にビクッと肩を震わせると声をかけた本人はすまなそうに彼女に謝る。彼の手に握られた紙を見て、フライヤーを配ってるだけだったのだと三葉は安堵する。ごめんなさいと、フライヤーを受けとると彼の後ろからまた1人同じようなジャージの少年が現れた。


「一織?どうしたの?」
「七瀬さん。」
「あ、IDOLiSH7です!よろしくお願いします!」
「…あい、あいどり…?」
「貰ってあげなよ、三葉!」
「あ…はい!」
「ありがとうございます!」


フライヤーを差し出してニコッと笑う七瀬と呼ばれた彼につられて三葉も微笑んだ。買い物の時に店員に話しかけられた時にはかなりの十中八九逃げ出してしまう三葉からは考えられないその行為だった。そんな三葉を見て彼等に興味を持ったのか、壱加はフライヤーを見ながら2人に話しかけた。


「お兄さん達アイドルなんですか?」
「はい!デビューはまだなんですけど。」
「そうなんですか!ライブは初めてですか?」
「はい。」
「是非来て下さい!」
「行きたい行きたい!」


はいはい!と壱加が手を挙げるも、ライブの日程を見た三葉があっ、と声を漏らした。


「ダメです…この日は仕事が…」
「えー…」
「ギリギリ間に合わないくらいですね…」
「そうですか…」
「あ、でも!応援してますから!」
「ありがとうございます!」

「えーっと、お兄さんは…」
「七瀬陸です!」
「和泉一織です。よろしくお願いします。」
「うん、友達にも宣伝しておきます。」
「が、頑張って下さい…!」
「「ありがとうございます。」」


たった1枚の紙。たまたま、声をかけられただけ。

いつもなら鞄の奥底にしまって、何かの時に捨ててしまうような紙なのに。

何故かそれだけは捨てることができなかった。