初ライブのお客様

「あれが、今日の仕事を急かした理由?」
「…ふーん。」
「IDOLiSH7…?アイドリッシュセブンって読むんだね。」
「ふむふむ。壱加はともかく三葉がそこまでとなるの気になりますなぁ。」
「ふふふ、楽しみだね。」


開演時間まであと3分。

会場の入口で彼女達はまだ主役の立っていないステージを見つめていた。

手にはあの日壱加と三葉が貰ったIDOLiSH7の初ライブのフライヤー。あの日このフライヤーを貰ってから、どうしても行きたいとせがむ壱加にまたかとメンバーは辟易していたが、そこに三葉も行きたいと言い出したのだから無視するわけにはいかなくなった。

いち、にい、さん、し…と指を折りながら客数を数えた四季は両手で足りる人数に思わず、マジかぁと呟いた。


「お客さん全然いなくなーい?」
「ギリギリ一桁…でしょうか…」
「うっはぁ…流石に可哀想だわ。マジ同情しまーす。」
「…ねぇ、せっかくだから最前行ってみない?」
「え?でも、」
「こんだけガラガラならへーきへーき!むしろ喜ばれるでしょ!」


ちょうど始まったのか、ステージのライトが落とされた。このタイミングとばかりに凪沙は先に言ってるからと手をひらひら降りながらステージの前の席へ歩いていく。


「マジか凪沙!暴言にも程があるよ!でも面白そうなのでこの伊世ちゃんが最前で応援してあげようぞー!」
「凪沙ちゃんが行くなら私もー。」
「あっ、こら!ちゃんと変装を…」
「ほらほら三葉もー!せっかくチラシ貰ってきたんだしさ。」
「はいっ…行きます!」


そんな凪沙に伊世、四季、壱加、三葉も小走りでステージの正面に向かう。七重がまず目立たないように変装をと言ってももつ彼女達の耳には届いていなかった。


「あっ、待ってってば!まったく…みんな帽子も持たないで…バレたらどうするのかな?」
「まあまあ、七重ちゃん。せっかくだから、ね?このくらいの人数ならバレても大丈夫そうだし。」


大丈夫だよと宥める樹に彼女がいてよかったと七重は心から思った。


「結構やるじゃない。えっとー、何だっけ?アイドル7?」
「IDOLiSH7だから!メンバーはともかくグループ名くらいは覚えてあげて!」
「む…まだまだだよ。私のが凄いもん。」
「四季ちゃーん?私達はプロだからね?当然でしょう?」
「…ハイ。ゴメンナサイ。」

「あっちゃー、凪沙のプロスイッチ入っちゃった。こりゃライブが終わったら四季はお仕置きコースですな。よくやるよねー。」
「新人の子でもこんなに出来る子がいるんですね…」
「うかうかしてるとあっちゅーまに抜かれちゃうかもねん。」
「伊世ちゃん…そんなこと言わないで下さいよ…」

「ねー、樹ちゃんと七重ちゃん置いてきちゃったけどいいのー?」
「こら四季!アイドルが踊ってるんだからちゃんと見て!」
「もー!何で私ばっかぁ…」
「見なさい!伊世はあんなにノリノリ…」
「いぇーい!」
「…ちょっと慣れすぎじゃない?私あそこまでは無理。」
「30分前に存在を知ったアイドルへの応援とは思えないわ。流石にちょっと引く。」

「三葉っ、誰にラビチャしてんの?彼氏?」
「ち、違います…奏子ちゃんです。」
「奏子ちゃん?来るって?」
「仕事があるから無理かもと、」
「そっかぁ…残念だね。」


1年ほど前に映画のアフレコで一緒になってから友達になったアイドルグループの1人。最後に会ったのはアイドルとしてデビューする直前だった。見たらあの3人もきっと好きになっただろうに、そう思いながら三葉は携帯をポケットにしまった。

その頃、樹と七重はステージに目をやりながらも始まってしまったライブの邪魔にならないように、やっとのことで会場の一番端の通路から前の席の方まで辿り着いた。


「すっかり盛り上がってるね、みんな。」
「チケット代も払わずにまた…七重ちゃんは皆に帽子をお願い。私はスタッフさん探してチケット代払ってくるね。」
「うん、お願いね。」

「あれ…」
「紡さん?」
「お客さんが、増えてませんか?あそこの、前の…」
「本当だ。」
「あ、よかった。あの、スタッフの方ですか?」
「あ、はい!」


紡と万里がいつの間にか増えた観客に気づいた時、眼鏡をかけて、帽子を深めにかぶった女の子が2人に声をかけた。彼女は財布を持って、やっと見つけたと言ってにっこりと微笑む。


「入口に誰もいなかったので、ごめんなさい。あの前の方で騒がしくしてる子達の分も含めて、チケット代を払いたくて。これ、7人分あります。」
「…!」
「しゃ、社長…!」
「二人ともどうしたんだい?早く受け取ってあげないと彼女が困っ…て…」
「あの?チケット代、7人分なんですけど…」
「嘘…もしかして…」


紡は前の方で騒いでいる観客と目の前の女の子を交互に見ながら口をぽかんと開ける。どこかで見た顔、それに今盛り上がっている彼女達の中にはテレビや雑誌でよく見た人物もいる。

間違いない彼女達は…


「「「MIRRORのっ…」」」
「しっ、その話は後で。」
「は、はい…」
「とりあえず、拝見しても?」
「も、勿論です!」


この間華々しくデビューしたアイドルグループのMIRRORだった。