路上ライブ

「あっ!」


路上ライブの休憩中、人混みを眺めていた陸が突然声をあげた。この間知り合った樹の姿を見つけたからだ。嬉しくなって声をかけようと、口を開いた瞬間、誰かの手で口をふさがれ、名前を呼ぶことは叶わなかった。


「ん〜!!」
「貴方はバカなんですか!相手は人気急上昇中のアイドルですよ?大声で名前を呼んで周囲にバレたら大騒ぎになります!」
「あのー…私ならそこまで人気なメンバーじゃないから大丈夫ですよ?」
「五厘さん…!いつの間に」
「樹さん!」
「だから声が大きいです!」
「ま、まぁまぁ。聞いたことがある声がするなと思ったら七瀬君と和泉君が見えたから、来ちゃいました。」

「路上ライブをされてるんですね。」
「しばらくはこうやってライブをして、デビューは知名度を上げてからってことになったんです。」
「そっちみたいに知名度ないんでね。大変なんだよ。」
「私も他の皆が有名な人ばかりなので、おこぼれをもらってるんですよ。」
「いやいや、あけぼのテレビのお天気お姉さんなんて皆知ってるよ。」
「そうだと良いんですけど。ところで、路上ライブってもう終わりですか?」
「いや、休憩中。」
「なら、拝見しても?」
「いいけど、今日は仕事は?」
「今日は朝のお天気だけなので。」


「……」


どうしてだろう。

目の前で楽しそうに踊る彼らを見ながら、樹はぼんやりと思った。

どうして、自分は泣いているのだろうと。どんなに感動する映画でも、ドラマでも、本でも周りが泣いてても自分だけ泣けないなんてことはざらにあった。なのに、上を見ればキリのないこの世界で、アイドルという存在で、まだデビューもしていない彼らの歌に泣いている自分に樹は自分自身がわからなくなった。

そうこうしている内に曲は終り、感想を求めて陸がこちらに走ってくる。とりあえず、今出ている涙をぬぐって樹はパチパチと拍手をした。


「樹さん、どうでし…た…」
「とっても良かったです!」
「五厘さん…?どこか痛いんですか?具合が悪いとか…」
「どうしたんだよ?何か嫌なことでもあったのか?」
「OH…レディーに涙は似合いません。」
「こらこらこらこら。何してんの、ナギ。此処は日本なんだから慰めのキスとかセクハラだぞ?」
「ヤマト…そんな目で見ないで下さい。」
「天気外れたから?今日夕方から雨降るって言ってたのにまだ降ってないもんな。」
「ややこしくなるので四葉さんは黙っていてください。」
「違うんです。皆さんを見ていたら、何だか胸がギュッとなって…頑張っている姿がキラキラしていて、最近あった嫌なこととか思い出したけど頑張ろうって思えて、」


気持ちをどんな言葉で表現すればいいのかわからないとポロポロ涙を流す樹に、壮五がハンカチを差し出す。三月はまだ飲んでないからとスポーツドリンクを渡し、大和は笑いながら樹の頭をポンポンと撫でた。

そして、そんな樹の姿を見た7人はこれがアイドルなんだと実感した。彼女のことはよく知っているけれど、アイドルは名前も顔も知らない人をこうやって感動させたり、元気づけたりすることができる。自分が誰かの生きがいになることができる。


「なあ、ヤマさん。」
「んー?」
「アイドルってすげえな。」
「…だな。」


五厘樹がIDOLiSH7のファンになった日だった。