晴天

「あ…」


何度か聞いたことのある声に少し目線をあげると、またあのホストが目の前に立っていた。


「げっ…」

あんなイケイケなホストも私服はわりと普通なんだなと思いながら思いっきり顔で不快感を示すと、いつもの勢いはどこへやら、ホストは汗を流し、ふるふると震えて、目線を泳がせた。


「あっ…ぁの…俺、傘…」


いつもと違う。

まるで最初に会った時のような彼に何となく警戒心が薄れる。

それもそうだ。丸腰の相手に言葉と言え殴りかかる趣味はない。紫陽花はそこまで嫌な人間ではないつもりだった。

それにしても温度差が激しいなと思いつつも、自分が来た道のことを思い出してそれだけは伝えてあげようと口を開くきっとこの先に向かう彼は数分後に後悔するに違いない。


「…この先、イベントやってて人多いんで迂回した方がいいですよ。」
「え…」
「それじゃあ。」


***


「うーん…」


いつになったら返せるんだろう。

男が持っても違和感のないシンプルな傘。いつの間にか毎日持ち歩くのが習慣になっているそれを幼馴染みは不思議そうに見つめる。


「一二三…」
「何だよ?」
「何でお前傘持ってんの?」
「だってさ、いつ会えるかわかんねーじゃん?」
「は?」
「独歩といれば返せるしさ!」


意味がわからないという幼馴染みに会えたら教えっから!と笑いかけるといつものように呆れた顔でため息をつかれた。

彼と一緒ならば、最悪彼が返してくれる。話せない自分の代わりに、彼女に返してくれる。


「何で自分じゃ返せないんだろう…」
「何か言ったか?」
「…んーん、何でもっ。」
「あ、そ。」