宿雨
ヒトゴミは嫌いだ。
駅からあの公園までの道が紫陽花は大嫌いだった。
ヒトヒトヒト…
街を歩くだけで声をかけてくる男、スマホを見ながらちんたら歩く女の人、うるさいうるさいうるさい。早くあの静かな公園に行きたい。
カフェラテを左手に、傘を右手に持ちながら人混みをかき分けて進んでいく紫陽花の肩をトントンと誰かが叩く。
反射的に振り返ると見たことのある金髪が笑っていた。
「いっ…」
「また会ったね。」
どうしてこうなってしまうんだろう。
自分の運のなさに紫陽花は心の中で盛大なため息をついた。
「…さいあく……」
「あれ?子猫ちゃんはご機嫌ナナメかな?」
「…そうやって、私からもお金を巻き上げようとするんですか?」
「え…」
ホストなんて、そういうものだということを知っている。聞いている。普段自分を苦しめている女を手玉にとってさぞ気分がいいのだろう。
でも、自分はそうはなりたくないと紫陽花は誰に向かって言うわけでもなく心の中で叫んだ。
「子猫ちゃんとか気持ち悪いのでやめてください。気分悪くて吐きそう。」
べぇっと舌を出して心底嫌そうな表情をする紫陽花に彼は悲しそうな表情をしたあとにすぐに笑顔を作った。
それを見た紫陽花が余計に不快感を示すとも知らずに。
「…じゃあ、せめて名前を教えてくれるかい?」
「もう二度と会わないのに教える意味がありません。」
「僕は声をかけるよ。」
急に笑顔から真顔になった彼に紫陽花は一瞬戸惑った。
表情と共に突然変わった声のトーン。
そんな顔も出来たのか、さっきまでとは違う様子に少しだけ彼への態度を申し訳なく思った。
彼の顔と声から誠意を感じたからだ。
「……」
「あの日の君の優しさを忘れたくないから。」
「…怯えてたのに。」
「傘を返したいんだ。お店に来てくれないかな?」
ああ、やっぱりお店に連れていきたいだけじゃないか。
何もされてないはずなのに、何故か紫陽花は酷く裏切られたような気がした。一瞬でも本当はまともな人なのかもしれないて思った自分を後悔した。
やっぱりホストはホストなのだと。
「絶対に無理です。」
「じゃあ、すぐとってくるからここで待っててほしい。」
「嫌です。もう帰りますから。さようなら。」
早くあのベンチで気分転換をしたい。