金曜日の夜。私はあっちに行ったりこっちに行ったり、居酒屋の店内を走り回っている。
居酒屋バイトは体力をかなり使うし、酔っ払いの相手をしないといけないため、かなりしんどい。
幼馴染から人手が足りないからバイトしてくれ!なんて頼まれていなければ、絶対にやらないバイトだったし、正直代わりのスタッフが入ったらすぐやめたいと思っているくらい嫌々働いているのが現状だ。

「すんませーん、生2つおかわりー」
「はーい、生ビールお2つですねー!」

いいなあ、私もビール飲みたい。飲みに行きたい。くそー、羨ましいなー。
そんなことを考えながら、厨房へ注文を伝えに行く。今日のバイトリーダーは私の幼馴染である佐助だ。

「あ、名前ちゃん、ついでに隣の席のお客さん生3つだから持ってってくれる?」
「佐助ほんと人使い荒いわ!」
「しょうがないっしょー、人足りてないんだから!」

喋ってないで早く行く!と背中を押され、私は席へとビールを運びに行く。
最初は複数個持てなかったジョッキも今は安定して持てるようになってきた。慣れって怖い。

しかし、人は慣れてくるとミスをするものだ。

「おまたせしまし、ぎゃっ」

酔っ払いが私に向かって倒れかかってきた。咄嗟のことに避けきれず、盛大に躓いてしまった。
痛みに耐えながら目を開けると、そこには足元がずぶ濡れになってしまっている、生ビール2つを注文されたお客様が居た。

「うおっ、冷てぇ!」
「ああああっ、ごめんなさっ、申し訳ありません!!」
「俺はいいけどよ、嬢ちゃん怪我ねえか?」

そのお客様は筋肉がムキムキで、綺麗な銀髪に特徴的な眼帯をしていた。男らしく、しかし威圧感の全くない優しい声色で、お客様は私の身を案じてくれた。
私のミスなのに優しくしてくれる神様のようなお客様だ。お客様の優しさと、ミスをしてしまったことへの不甲斐なさ、そして何よりジョッキでぶつけた頭の痛みで、視界が滲んでいくのを感じる。
下を向いていると、いい香りのするタオルでビールのかかった部分を拭われた。

「大丈夫だって、人間誰しもミスはするもんだろ?嬢ちゃんに至っては巻き込まれたようなもんだしな」
「で、でも…」

本当に優しすぎる、神様のようなお客様に、お詫びがしたくてクリーニング代を受け取ってくださいとお願いした。
しかし、お客様はそれを断り、何故か私の上がりの時間を訪ねてきた。

「え?あ、あと20分後くらいです」
「よし、お詫びに俺とデートしてくれ!」

名前も知らない優しすぎるお客様のやけに真剣な眼差しに、私は引き込まれてしまった。
居酒屋バイトも、悪くないかもしれない。

夏の音