その日はとても月が綺麗な夜だった。月明かりで辺りの様子がよく見え、夜目が利いた。そんな日に我が主の妹である名前様を、何故か城からの抜け道で見かけた。

「え、名前様?」
「左近ちゃん!」
「な、何してんスか?」
「家出…城出?しようかと!うるさいから出ていけって言われたからさー」
「へっ?!」

恥ずかしい。思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「お兄ちゃんに頼み事したら、出ていけって」
「……それ三成様本気で言ってないと思うっス」
「でももう怒ったからこの城から去る」
「逃げてもつらいことが待ってるだけっスよ。名前様は大事に育てられたお姫様なんですから、城以外での暮らしはまず無理っス」
「じゃあさ、大事にしてくれる誰かのところに嫁げばいいかな?」

と、とつ……!?片想いしてる人が城から逃げようとしてるだけでもショックなのに、俺以外の誰かのところに嫁ごうとしている…!?
そう思った途端、頭で考えるよりも先に口が動いた。

「じゃ、じゃあッ!お、俺と「名前ッ!何をしている!」…三成様!?」

最悪だ。

「はあ……お兄ちゃんがうるさいから家出しようとしてたの」
「貴様が毎日毎日左近と祝言を挙げさせろとせがむからだろうッ!」
「えっ」
「お兄ちゃん!なんで左近ちゃんの前でそれ言うの!?もうほんとありえない!お兄ちゃんの馬鹿!」
「兄に向かって馬鹿とはなんだ、名前ッ!」

主君の妹であり俺の片想い相手が、俺の妻になりたいと言っている…?
何を言ってるのかよく分からないし、二人の喧嘩の内容も正直頭に入ってこなかった。
名前様は何を言っているんだ…?ぼけーっとしていると、思いの外二人の喧嘩が勢いを増していたため、とりあえず心ここに在らずではあるが、仲裁に入った。

「ふ、二人とも!喧嘩はやめましょ?ねっ?」
「そもそも全ての原因は貴様にあるのだぞ、左近…!」
「えっ、俺っスか!?」
「左近ちゃんがはっきりしないのが悪い!」
「ええっ!?」
「もうほんとに怒ったから!家出はやめて部屋に籠もる!」
「ちょ、名前様!」
「左近!早く説得してこいッ!」

そしてこの後無事に俺は名前様を娶ることになるのだが、それはまた別の話。


草食系