「な、なんだこの大きなたてものは…」
「デパートだよ!」

移動中、車の中で、佐吉について分かったことがたくさんあった。
まず、佐吉は豊臣秀吉と竹中半兵衛のもとで育てられているらしい。しかし、私の想像するハゲネズミとか猿とか言われてる豊臣秀吉とはどうも違うらしい。風貌を聞いた感じだと、間違いなくゴリラの類だ。竹中半兵衛は、女のように美しく、病弱らしい。それは私の知ってる竹中半兵衛に似てる気がするなあ、と思った矢先、半兵衛様は関節剣を鞭のように使って敵を薙ぎ払うぞ!と言われ、あっ私の知らない人だ…と確信を持った。
佐吉はこの時代の子供ではない。というより、おそらく異世界的なところから来ている。まさかそんな子供がいるなんて、まだまだ世の中わからないことだらけだなあ、としみじみ感じる。

「なぜ階段が動いている…ッ!?」
「エスカレーターだよ〜」

まあ、なんの縁かは分からないけど、うちにやってきた以上、責任を持って育ててあげるのが筋かなあ。
この世界を謳歌し、楽しい思い出でいっぱいにしてあげることを目標に、これからの毎日を精一杯過ごしていくことにした。


「お茶碗とかお箸とか買おうね、歯ブラシもいるし、あ、服も下着も買わないとね…」
「すまない、世話をかける」
「大丈夫大丈夫、先に服…着物?見に行こっか?どんなのがいい?」
「私にはわからない」
「じゃあ選んじゃうね」

今着ている紫色の着物は些か目立つため、まずはここで今から着る用に紫色のボウタイ付きの白いシャツと、黒いデニムのハーフパンツを購入。佐吉はめちゃくちゃ可愛いからなんでも似合うねえ、と言えば、顔を赤くするのが可愛くて仕方がない。

「名前、そんなに必要なのか」
「やっぱり買いすぎ?」
「私はいつ帰るか分からない、から」
「じゃあとりあえず半分は今買って、残りはまた今度買う!佐吉、どれがいい?」
「…これ、と、これ。」
「こういうのが好きなんだね、今度からはこういう路線で買っていくね」
「名前が選んでくれたものなら、なんでもいい」

佐吉が可愛いすぎてつらい…



「佐吉、ご飯食べよう」
「いらない」
「子供はいっぱい食べていっぱい遊んでいっぱい寝てたまに宿題するのが仕事だぞ〜〜」
「…名前が、そう言うなら」

とりあえず和食の方がいいよね?と、和食のお店を探す。意外とないもんだなあ、とフロアマップとにらめっこ。
今日は和食だが、これからは洋食にも慣れてもらわないと…なんていらぬ心配をする。
佐吉はきっと食べて、とお願いすれば相当まずいもの以外は食べてくれそうだ。

「和食食べられるところ、天ぷら屋さんしかなかった!天ぷらでいい?」
「私は、食が細い。あまり食べられない」
「じゃあ一緒に食べよう」

店内に入り、メニュー表を開く。佐吉はなんでもいいと言っているが、私はメニューはじっくり見て時間をかけて決める派。なかなか決められず、結局佐吉に選んでもらった。
天ぷらを待っている間に、先に定食セットの白ご飯がやってくる。

「白米がこんなに…」
「昔とは違って白米と卵は庶民の味方だからねぇ」
「いい世になったんだな」
「そうだねぇ、あ、天ぷら来たよ〜、いただきまーす」
「いただきます、とはなんだ」
「作ってくれた人に、食べ物に、命に、感謝の気持ちを込めて、いただきますと宣言してから食べるのが今の世の習わしなの」

そう説明をすれば、佐吉は一生懸命頭をコクコクと頷かせた。
そして、箸を持ち、いただきます、と拙いながらにも声を発した。

「美味しい?」
「…おいしい」
「よしよし!食べられるだけ食べな!」

ソコソコの量はあったが、2人で食べるとちょうどいいくらいで、佐吉も私も箸が進み、無事完食した。
その後、日用品と今日の晩御飯の材料を買い、お腹がいっぱいでウトウトし始めている佐吉を連れて家に帰る。
佐吉の言う通り、この子はいつ帰るか分からない。少しでも早く帰れるようになるのが一番だが、許されるならば、もう少し一緒に居たいと心の底から思った。

「佐吉、着いたよ」
「ん…きのすけ…」

涙を溜めて誰かの名前を呟いている佐吉がそこには居た。きのすけ、とは誰のことだろうか。もしかしたら、向こうの世界の家族か友達の名前かもしれない。
こんなにも辛い思いをさせてるなんて、正直思っていなかった。
先程までの自分の陳腐な考えに腹が立つ。

「ごめんね」

甘い考えに対しても、これから佐吉を勝手に抱えて部屋に連れて行くことに対しても、謝罪をする。
佐吉は食が細いと言っていた通り、体はかなり軽かった。
起こさないようにそっとドアを開け、とりあえずソファに座らせる。よく眠っていて安心した。
佐吉を1人にしておいて目が覚めた時に1人だと不安かもしれないが、買ってきた食材が傷んでしまうかもしれないので、急いで残ってる荷物を車に取りに向かう。
そして、玄関のドアに触れた瞬間、私は意識を手放した。