「随分機嫌が悪いね、悟。後輩二人に責められて落ち込んでるのかい」
「うるせー傑」
「君の大事な真玉が同期に愛されてて良かったじゃないか」
「良くねえし……失敗した……くそ、使えねえなアイツ…我慢して相手してやったのに…」
ぶつぶつと愚痴を零す五条の言葉に、夏油は嫌な予感が走る。
「……悟。まさかとは思うが、彼女が婚約者に詰め寄られるのを、分かってたのか…?」
「だから?別に本気で貶めようとしたんじゃねえし。本当ならここで千寿が文句言ってきて、それで俺が守ってやるからって形だけでも婚約者に仕立て上げるつもりだったのに……チッ、なんで隠すんだよ千寿の奴」
五条の言葉に絶句しながら、一部話を聞いていた家入と夏油は顔を合わせて一言投げかけた。
「馬鹿か?」
「馬鹿なのか?」
「はぁ!?なんでだよ!」
「君、あの子の事全く分かってないんだな……むしろ真玉の方が悟のことをよく分かってるよ、黙っていて正解だ」
「良いだろいつかはそうなるんだから!」
「そういう所だよクズ」
納得いかないと苛立つ五条に、夏油はぽつりと問いかけた。
「ずっと気にはなっていたけど、悟はどうして真玉が良いんだ?彼女、君のタイプでは無いだろう」
「……それは…そういう事もあんだろ、理由がなきゃ悪いのかよ」
「そこまでは言わないけれど。君は真玉の事が好きな自分を守りたいだけなんじゃ無いのかと思ってね」
「……はあ?何だよそれ」
夏油の言葉に、五条はぴくりと声のトーンを下げていく。言葉を間違えば、教室が吹き飛ぶかと思う程に威圧感が溢れた。
「図星か?」
「ふざけんなよ違う、そんなんじゃない、俺は確かに千寿が好きで、アイツが欲しいだけで」
「一番になれないからって、ムキになって真玉に拘らなくてもいいんじゃないのか?悟ならそれこそ選び放題だろう。本人に真っ向から否定されて自尊心が傷付いた腹いせにしか見えない」
「オマエ何が言いたいわけ」
ばん、と目の前の机を叩きながら、五条は夏油を睨み付ける。やれやれと肩を竦めながら、夏油は言葉を続けた。
「やりすぎだって言ってるんだ。悟の仕業だって気付かれてないからいいものの、七海は兎も角、灰原も真玉が理不尽に暴力を振るわれて不満そうだったよ」
「だから、アイツらにはそんなもん関係ねえだろ!!」
「あんたほんとにクズ過ぎない?そんな危ない家の人間に千寿のこと任せらんないって心配してるんでしょ、優しい二人じゃん」
「良いかい悟、もしも本気で関係を変えたいなら傷付ける前に守る事を覚えた方がいい」
「そうしようとして失敗してるんじゃ意味ねえっての」
「自作自演で傷付けるなと言ってるんだ。そんな事を繰り返していたら彼女を大切にしてる人間の邪魔しか入らなくなるぞ」
「……なんだよ意味分かんねえ、だいたい千寿が悪いんだろ……」
ぶつぶつと不満を吐露する五条を家入と二人困ったように見つめていれば、突然ガタン、と立ち上がる。
「千寿」
勢い良く開かれた教室の扉を気にすることなく、五条はずかずかと千寿へ真っ直ぐ向かって行く。
「五条先輩?あの、どうかしましたか」
「……あー……その……怪我。コイツらから聞いて……だから、その……わ、悪かっ、た…」
絞り出すようにぽつりと謝罪する五条に、千寿は目を見開いて慌てて隣の席を見る。
「えっ、あ、二人とも言ったの!?」
「すみません、つい」
「こういうのは言った方がいいよ!真玉」
「痛かったよな、悪かった。ちゃんと、家の奴らに言っとくから……だから、だな……」
うろうろと視線をさ迷わせ、言葉を探していた五条はがしりと千寿の肩を両手で掴む。
「……もう、オマエにこういう事が起きないようにちゃんと、俺が……気をつける、から」
「いえ、そんな。だって五条先輩は何も悪くないですし、仕方無いですから。気にしないでください」
「は、いや、俺の家の問題だろ」
「でも、五条先輩多分婚約者の方のこと知らなかったですよね?だから先輩は別に悪くないです」
「……なんでそうなんだよオマエはさあ……」
千寿の言葉に大きくため息をつきながら、五条は呆れたようにその場に蹲った。