「これは、一体どうしたら……」
「七海、大丈夫か?」
「大丈夫に見えます?」
七海は深くため息をつきながら、どうしたものかと色々な意味で頭を抱えた。
同期の一人である灰原が抱えているのは五、六歳ほどの幼い少女。
──先程まで共に任務にあたっていた、もう一人の同期真玉千寿と思しき少女である。
遡ること数時間前。当初の予定である呪霊は祓えたものの、予想外に呪詛師と遭遇してしまえばその術式の影響か何かなのか、突然真玉が消え代わりにこの少女が目の前に現れた。
状況的に考えて本人であるのだろうと推測するもこんな馬鹿げた術式があってたまるものか、と七海は頭を悩ませる。
「取り敢えず高専に戻りましょう、混乱させますし成るべく、絶対に、誰にも会わないように」
「それもそうだな!家入先輩に見せよう」
高専に戻ったからと言って、安全とは言い難い。何せ高専には彼女に対して厄介な感情を抱いているであろう先輩、五条悟が待ち構えている。
兎に角目立たず、気付かれずに家入の所までこの少女を連れて行くことが何より七海のストレスを増幅させた。
五条と夏油の二人はちょうど任務らしく、運良く無事に家入のもとに千寿を運べれば七海は安堵する。先程から困惑した様子できょろきょろと周りを見渡している千寿の目線に合わせれば、家入は優しく頭を撫でながら問いかけた。
「こんにちは。私は硝子、お名前は?」
「あ、えっと、またま、ちとせです……あの、お母さん、は?」
「ちょっと用事があるんだって、だからそれまで私達と待ってようね」
家入の言葉に少し不安が除かれたのか、肩の力が抜けた様子で千寿は小さく頷いた。
「記憶も退行してるっぽいね。うーん……悪いけど、これは無理。呪詛師本人を叩くか解かせるかしないと」
「てことはあの呪詛師を探し出せばいいんですね、行こう七海!」
「それについては今再調査して貰ってるので居場所さえ特定出来れば……むしろ解くまでの間をどうやって乗り切るか」
いつ呪詛師の特定が出来るか分からない。その間にもしもあの二人が帰って来てしまったらと背筋の凍る想定をしては高専に居ない方が良いのでは?と七海は考える。
「ここは危険すぎるので、補助監督か夜蛾先生に真玉のことは頼んで……」
「あークソつまんなかった!もっと手応えある呪霊いねーのかよ」
「悟、そういうことは言わない方が……」
扉に手をかけようとすれば、大きな声と共に反対側から今一番遭遇したくない二人の姿が現れる。
「お、オマエら戻ってたのかよ、先輩に土産、のひとつ、でも……」
意地の悪い笑みがだんだんと崩れたかと思えば、五条の視線は案の定千寿に向いていく。
大きな声を出したせいか、はたまた見知らぬ男に警戒しているのか、千寿はどこか怯えた様子で灰原の背に隠れた。
「……おい。それ、千寿だよな」
「え?確かに似てはいるが……妹?いや、一人っ子だって言ってたな」
「呪詛師の仕業でこうなっちゃいました!」
「灰原!!」
さらりと暴露する灰原に思わず突っ込みながら、五条と千寿をどう引き離すべきかと七海は一人頭を抱えた。下手をすると色々と問題になりかねない、と。
「呪詛師ぃ?そんなんでこんなちっちゃくなってんのかよ。しょうがねえなあ千寿は!」
「え、あ、や……」
ひょいと千寿を抱えた五条は満足そうな顔をしている反面、千寿は今にも泣きそうな顔で此方を見ながら助けて欲しそうに手を伸ばしていた。
「嫌がっているので止めてくれませんか」
「何でだよ、別に嫌な顔とかしねーよな千寿」
「馬鹿、今記憶も退行してるんだからクズのことなんか分かってないんだって。離してやんなよ」
「へえ、見た目だけじゃなく記憶も退行するんだ。変な術式だね」
七海や家入の言葉に不機嫌になっていく五条は、嫌がる千寿をよそに更に腕に力を入れていく。
「なあ千寿、俺と一緒に遊んだ方が楽しいよなー。紙とか用意してやるから俺の部屋行くぞ」
「ちょっと待った。悟、何を考えてる?」
「どうせ呪詛師をどうにかしないといけないんだろ?俺が面倒見てるから早く探して来いよ」
「貴方そう言って真玉に妙なことする気ですよね」
「こんなチビに何もしねえっての!記憶残るかも分からねえんだから」
イラついた様子で反論する五条と何とか引き離そうとする七海の言い合いをよそに、静かに夏油は一言告げた。
「……悟。流石に記憶も残らないのに署名はまずいと思うぞ」
「はあ!?別にいいだろ!?どうせいつかは書くんだからよ!」
「貴方って人は本当に最低ですね」
「あーもうほんとうるせえなあ!」
「ひ…っう、う……」
「あー、泣かしてる」
激しくなる口論に耐えきれずに泣き出した千寿に全員が狼狽えれば、タイミング良く呪詛師の特定が完了しお詫びとして五条、夏油の二人が確保に向かわされた。
「サインさえ貰っときゃ俺の好きにできたのに……」
「自業自得だよ、反省した方が良い」