ハロウィンネタ


「トライアル・オア・トリートなのよ」
 小さな上司が、ひょこりと片手を挙げながらそう告げる。
「看護婦長、ふふ、どうぞ」
「あら、メリュジーヌのクッキーね!ありがとう」
「いえいえ、私こそいつもありがとうございます」
 小さな掌にお手製のクッキーを手渡せば、可愛らしい顔を綻ばせてお礼を言われる。
「そんな事言わないで、キミはいつも頑張ってるわ。これからも同じ看護師としてよろしくね」
「はい、任せてください」
 みんなの様子を見るから、とその小さな背中を見送れば、頭上から新しく声が降ってくる。
「水の上の真似事かい?」
「こ、公爵様。こんにちは」
 慌てて立ち上がって頭を下げれば、彼はじっとこちらを見つめている。
「ええと、たまには、その……こういうのも良いかな、と」
「別に咎めようってワケじゃないさ、ここの奴らにもたまには息抜きが必要だろう。でもまぁ、次は一度俺に相談して欲しいとは思ってるがな」
「き、気をつけます……」
 思いつきで始めてしまったことを後悔しながら素直に謝罪すれば、す、と公爵の片手がこちらに伸ばされる。
「トライアル・オア・トリート、だったか?」
「え、あ、はい……あー、ええと、その」
 彼の言葉に慌てて持っていたカゴを見てハッとする。
 ──先程、シグウィン看護婦長に渡したクッキーが最後の一枚だったらしい。
「……すみません、ちょうど切らしてしまって、い、今すぐ追加で持ってくるので」
「ああ、別に菓子は要らない。それより……」
 さらりと断る公爵に戸惑っていれば、差し出されていた手はそのままこちらの手首を掴んでくる。
「俺はアンタを強請ってるつもりなんだが」
 落とされた口付けに、思わず腕の中で潰れたカゴを見た公爵は、それは無邪気な笑い声を水の下に響かせた。



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