サラブレッド 2
遡るはその日の前日、息子たちと一緒に都に買い物に出て来ていたチチは悟天にせがまれてブルマの家を訪れていた。
チチと悟飯はブルマと話をし、悟天はトランクスの部屋で彼と遊んでいた。
「ねえ、トランクスくん。ぼく、こんどから、おかあさんにナイショでトランクスくんにあいにくるね」
悟天が言ったそれは本当に唐突なものだった。
わけがわからないトランクスは思わず、えっ?と問い返した。
「なんでぇ?!」
前にママが言っていた。皆にナイショでコソコソするのは悪いことだと…
悟天は悪い子になってしまったのだろうか?そんな思いがトランクスの頭の中を駆け巡る。でもどうして…
「だっておかあさんがさっきいってたんだ。トランクスくんはサラブレッドだから、ぼくみたいにヒマじゃないんだって。だからあんまりおしかけちゃだめだって…」
「???……さらぶれっど???」
さらぶれっどってなんだろう?
そんなトランクスの疑問に答えることもなくーー実はこの時の悟天もサラブレッドの意味をよく理解していなかったーー悟天は続ける。
「トランクスくん、ぼくたちずっとともだちだよね?ぼくとまたあそんでくれるよね?!」
「も、もちろんだよ!またきてよ!!」
トランクスはよくわからないままそう答え頷いた。
その答えに満足した悟天はわーいと喜んで、気になっていた玩具を指差した。
「ねえ!こっちのおもちゃはどうやってあそぶの?」
「あ、えっと、それは…」
遊び方を説明しながら、難しい事は後でママかお祖父ちゃんにでも聞こうと思った。
それから、夕方にはチチや悟天たちはパオズ山に帰って行き、ブルマやブルマの母親は夕食の準備をし始めた。
残されたトランクスはすぐにブリーフ博士がいる彼の研究所を訪れた。
研究所と言っても博士の個人的な研究所は家と同じ敷地内にあるので歩いてもすぐそこだ。
「おじいちゃ〜ん」
「おや、トランクス。どうしたんだい?」
まだ幼い彼の孫息子は普段この研究所に一人でやってくる事はない。
そんな彼が他の誰も連れずに自分に会いにきたのだから博士は嬉しく思うと同時にちょっぴり驚いたりもした。
もしかしてもう科学に目覚めたとか?
そういえばブルマは五歳になる頃には既に機械を弄って遊んでいた。
懐かしい光景を思い出し、彼の孫もそうなったら本当に嬉しいよなぁなんて思う。
しかし…彼の思いとは裏腹にトランクスは唯、自分が抱えた疑問を解きに来ていただけだった。
「ねえおじいちゃん、さらぶれっどってなに?」
「へ…?」
「さらぶれっど!」
……サラブレッドと言えばそりゃあ…
「馬の品種の一つじゃなあ」
でもどうしてそんな事をわざわざ?博士が聞こうとする間もなく次の質問が飛んでくる。
「うまって?」
「おや、トランクスはまだ見たことがなかったのかい?馬ってのは動物じゃよ」
今度、お祖父ちゃんと動物園にでも行くかい?
などと博士はのんびりと答えた。
しかしトランクスには動物園の事なんか今はどうでもよかった。
「どうぶつ…。」
その顔は既に真っ青だ。
「そういえば、わしの知り合いに競走馬の繁殖をしている人がいるんだが、その人のところに行けば動物園に行かなくともカッコイイ馬が沢山見られるんだがな……って、あれ?トランクス?」
いつの間に…。
既にいなくなっていたトランクスを不思議に思い博士は暫く首を傾げていたが、まあいいかと研究に戻った。
博士から衝撃の事実を聞き出したトランクスは悩んでいた。
どうして悟天のママは自分のことをサラブレッドだと言ったのだろう?
サラブレッドは馬で、馬は動物。という事はトランクスは動物だったのだろうか?
そんなことを思いながら洗面所の鏡の前に立つ。
「ちがう…」
どう見ても自分は両親と同じ人間の姿をしている。
でもそこでふと、両親は大人である事に気付いた。
「も、もしかして…!」
今は子供だから人間の姿をしてるだけで大人になったら自分は馬になってしまうのだろうか?
「そ、そんな…」
でもそうだとしたら?
段々と馬について気になりだした。
馬ってどんな動物なんだろう?かっこいいのかな?それともかっこ悪い?
トランクスは馬が載っている本を探そうと思った。
でもそんな本持ってたかな?わからない。とりあえず自分の部屋を探してみた。
「ない…」
動物が載っている本は何冊か見つけたけど、その殆どが絵本で、犬や猫、豚や羊、キツネ、狼などは有った。
でも肝心の馬が見当たらない。どうしたものかと思う。
「そうだ!」
確か、ここには貴重な本が沢山あるから入ってはいけないと言われた部屋があった。
もしかしたらあそこになら馬の載ってる本があるかもしれない。
トランクスはそう考え、目的の場所に向かった。
図書室の前まで来たトランクスは他に誰も居ないか辺りを見回した。
今そこには誰も居ない。よし!と思い、ドアの取っ手に手を掛けようとした。
だけど…なんとなく、本当にここに入っていいのかなと躊躇した。
悪戯をするわけじゃない。でも、今、自分はコソコソしている。
悟天がいた時に思い出したように、今もトランクスはブルマが以前言っていたことを思い出していた。
「……。」
両親のどちらかにちゃんと言ってから入ろうか?でも何て言ったらいいんだろう?
大人になったらどんな姿になるか知りたいから馬が載ってる本を見せて?とでも言おうか?
……。そんなこと言えない。
これもなんとなくだが、なんとなく馬になるなんて言ったらガッカリされるような気がした。
だって両親はちゃんとした人間なんだから。
「おい、そんな所で何をしている?」
そこへトレーニングを終えて台所の冷蔵庫のある場所に向かっていたベジータが通り掛かって彼に話し掛けた。
その声にトランクスの肩がビクンと揺れた。
「トイレ…」
咄嗟に出たトランクスの言い訳にベジータは呆れたように口を開く。
「トイレは通路の向こうだ。まだ覚えていないのか?」
俺の血を引いているのに案外物覚えが悪いんだなと言いながら彼は去って行く。
「……。」
頭が悪いかもと思われたかもしれない…。
でも自分のもしかしたらの正体を知られるよりはずっといいような気がした。
でもこれで今日はこの部屋に侵入するのはやめた方がいいかもしれないとトランクスは悟った。
「あしたにしよう…」
そうして、その日の翌日となった今日、望みの物を図書室で見つけたトランクスは、それを自分の部屋に持ち込んだ。
「うま…うま…うま……」
動物図鑑は思っていたより分厚かった。
途中何度も他の動物の写真に目を奪われ、何度、本来の目的を忘れそうになったことか。
特に虎やライオンといったカッコイイ動物のページでは時間も忘れてしまうくらい夢中になった。そして…
「あった…!」
問題の馬のページに辿り着いた。
しかし、想像していたカッコイイ動物には思えなかった。
顔が長く、四つ足で模様は種類によって色々有るらしい。
見る人が見ればその良さがわかるのかもしれないがトランクスには全くわからなかった。
「これになっちゃうの……?」
そこにはサラブレッドの様々な表情なども載っていた。
トランクスはその一つ、馬の怒っている表情を見て身震いした。
耳を後ろに倒し、白目を剥くその動物はカメラに向かって威嚇しているのか、とても怖い表情をしていた。
「こんなのヤダ…ヤダよ……。」
トランクスのその瞳からは大量の涙が溢れ出した。
「うわぁぁああああん!!」
そして冒頭のシーンへと続くのだった。
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