サラブレッド 3
「そう。そんなことが……。」
ブルマが倒れてからベジータは彼女の傍から離れることが出来ず、事の真相を探るのをブルマの母親に委ねた。
ブルマの母親はそれに気前良く応じ、直ぐにトランクスから真相を聞き出した。
そしてそれをベジータに話し、ベジータはそれをそのままブルマに伝えた。
ブルマの手にはベジータから渡されたトランクスが持ち出した動物図鑑が握られている。
それをペラペラと捲り馬のページを開くと暫くそれを見遣りブルマは口を開く。
「サラブレッドかぁ…チチさん、きっと気を使ってくれたのね。」
本当にそうだろうか?ブルマの言葉にベジータは疑問を感じずにはいられなかった。
正直、ベジータはある意味トランクス以上に混乱しているかもしれない。
あれーーチチのことーーも口喧しい女ではあるが、いつも能天気で何を考えているかわからない下級戦士の妻にしてはよく出来た人間だと思っていた。
それに気付いたのは自分も子供を持ったことで悟飯がどれだけ子供にしては成熟した物の考え方をしているかわかったからだ。
あの阿呆ーー悟空のことーーだけの力ではああは育てられないだろう。
と素直にベジータはそう思う。
それが…トランクスを馬に例えただと!?
ふざけるのも大概にしろと言いたい。
「あいつのどこが馬なんだ?目が腐ってるとしか思えん」
ベジータは思ったままを口にして、チッと舌打ちした。
それに反応したかのようにバッと顔を上げブルマはえっ!?と言いながら彼を見つめる。
「なんだ」
「なんだって……本気?」
「だから何がだ?」
「本気なのね…」
ブルマは重々しく溜息を吐いた。
父親がこれじゃ息子もそりゃあ取り乱すわ…何の根拠も無いがブルマにはそう感じられた。
「あのねぇ…いいわ、結論だけ話すけど、サラブレッドっていうのは確かに馬の品種の一つではあるけど、地球ではもう一つ意味があるのよ」
「もう一つ…」
それは知らなかった。続けろとベジータは目だけで先を促した。
「つまり、チチさんが言ったのはもう一つの意味。もう一つはね、血統が良いって意味で使われるの。」
「ほぉ…」
血統が良い。つまりトランクスはチチからみて一目置く存在だということだ。
そう思われて悪い気がする親はいないだろう。ベジータだって当然嬉しく思うこともある。
やはりチチはよく出来た女のようだ。ベジータはニヤリと口元を釣り上げた。
「アンタって意外と単純なのね。嬉しそうな顔してさ」
「……。」
少しベジータは気恥ずかしくなった。でも今は頬を赤らめている場合ではない。
何と言っても彼らの息子は未だ大混乱中なのだから…。
「たぶん、チチさんは私たちもトランクスに英才教育を施すんじゃないかと思ってるのね。だから悟天くんにトランクスの邪魔はしないようにって言ったんだと思う」
「英才教育…。」
懐かしい響きだ。とベジータは思った。
彼も幼い頃はサイヤ人の王子として相応しくあるために様々な英才教育を受けた。
その教育の殆どが戦闘に関するものではあったが…
形は違えど地球にもそういう風習があるのかと少し感心した。
トランクスにも英才教育…。
「当然だ!サイヤ人の王子であるこの俺の息子なんだ。教育は施さねばならない」
ぎゅっと拳に力を入れて宣言した。地球一の教育を。彼の息子にはそれが相応しい。
「あ、そう…。でも私は反対。」
「何だと!?」
予想外の妻の反対意見に彼は大いに狼狽えた。
まさかブルマはトランクスに教育など必要ないとでも言い出す気か?
そんなのは正気だとは思えない。絶対に間違っている。
「あ、誤解しないでね。勿論、教育はするわよ?人並み程度にはね。でもチチさんが悟飯くんにしてるような英才教育を私たちがトランクスに強要するのはどうかなって思うの。本人が望むのなら別だけど…」
どちらにしても今はまだ早いとブルマは考えている。
せめてブルマが初めて出会った時の悟飯、つまり四歳の頃の悟飯と同じくらいまでトランクスが育つまでは彼に何も要求するつもりはない。
それに、と、ブルマはベジータに意地の悪い笑みを見せる。
「私がチチさんみたいな教育ママになったら、アンタ、トランクスと修行できなくなるわよ?いいの?」
「!?」
何でそうなる!?と言いたげな表情を浮かべる彼にクスクスと笑ったブルマが続ける。
「チチさんは世界の平和や強さよりも悟飯くんの勉強の方が大事だって前に言ってたわ。アンタもそう思う?」
「……さあな」
でも、ベジータはブルマの意見に異議は唱えなかった。
トランクスの人生はトランクスのもの。考えてみれば何かを強要して無理矢理させたところで身に付かないのは明らかだ。
勉強も修行も本人にやる気があってこそ意味がある。
「その点で言えばチチさんはある意味ラッキーよね。悟飯くんの将来の夢は偉い学者さんだって言うし。あの子、勉強が好きなのね。孫くんの子供とは思えないくらいよ」
確かに。カカロットとは全く正反対のようだ。あのガキは。
それなのに、あれでこの俺を超える実力を身に付けていたとは…。
セルと戦った時の悟飯を思い出し、ベジータは再びプライドを傷付けられたような気分になった。
「もう。そんな顔しないで…。誰にだって予想外の事が起こることもある。でもいつかは、本当にそれが好きな人がその道の頂点に立つものよ?」
ベジータの頬に手を添えてブルマは微笑んだ。
「うちの父さんがそれを証明しているわ」
今も研究室に篭って研究を続けているブルマの父親。
宇宙一とは言えずとも確かに彼とその娘が知る世界では一番に変わりはない。
他の星の技術に触れる機会さえあればそれすらも吸収してしまうのではと思えるくらい。
信用に値する人物たちだとベジータも思う。
そんな人物らの一人であるブルマが言うのだから彼女から出た言葉も信じられる。
「そうだな。」
ベジータもブルマに微笑みを返した。
- 7 -
[*前] | [次#]
TOP
Elysium