サラブレッド 4


結局、サラブレッドの件はトランクスの母親であるブルマから彼に詳しく説明する事になった。
翌日、ベジータによってブルマの所に連れて来られたトランクスは彼女のベッドの上に母親と向かい合わせに座り彼女の話に耳を傾けていた。

「というわけでね、トランクスは馬になんかならないのよ?」
「ほ、ほんと…?」
「本当よ。」
今まで不安そうな顔をしていたトランクスの表情が段々と柔らかくなってゆく。
「トランクスは皆が羨ましいって思うくらい家族に恵まれているのよ?」
「…?そうなのかな…?よくわからないよ」
トランクスにはまだ理解するのは難しいらしい。
と言っても馬にならない事が解っただけでもトランクスにとっては収穫なのだが…。
「いつかはトランクスもわかる日がくるわ。でもね…これだけは約束して頂戴ね」
「やくそく?」
「そう。約束。」
「どんな?」
そうねぇとブルマは顎に手を当てその疑問に答える。
「もしトランクスがいつか自分の恵まれている状況を自覚した時、それを誇りに…つまり嬉しく思うのは構わないわ。でもね、絶対にそれを誰かに必要以上に自慢したり、自分とは違って恵まれていない人がいたとしても絶対にその人を見下したり馬鹿にしたりしちゃ駄目よ?これが約束よ。」
彼女の言葉をトランクスとは別の場所に座って聞いていたベジータはうっと喉を詰まらせた。
自慢…見下す…馬鹿にする……。
心当たりがあり過ぎて少し胸が痛い。
まさかカカロットと地球で対戦した時の自分のことを見てたのだろうか…?
いやいや、あの時は既に他のメンツは死んだり敵前逃亡したりして居なかったはずだ。
一部は戻ってきたりもしたがそれでもブルマが居なかった事だけは確かだ。
……まさか、スパイロボットでも仕込んでいたか?
いやいやいや、それもあり得ないだろう……と信じたい。
ドクター・ゲロじゃあるまいし…。
そんな彼の思いとは裏腹にわかったと頷いたトランクスと笑いあうブルマがそこには居た。


「な〜によ?さっきから考え込んじゃってるような顔しちゃってさ。トランクスはとっくに出てっちゃったわよ?」
アンタはまだここにいるの?とブルマは彼の顔を覗き込んだ。
反射的に彼は仰け反る。
「あ、いや…うむ」
「はい?」
「いや…。」
「な〜に?」
ニコニコっと笑う妻の顔に何故か危機感を覚えるベジータだが努めて平静を装う。
「何でもない」
けれどそんな答えで満足しないのがブルマだ。
あ〜わかったとベジータにいやらしい笑いを向ける。
「罪悪感でしょ?そうなんでしょ」
「は?」
「アンタって口を開けば自分はサイヤ人の王子だって自慢してたし、地球の技術は遅れてるって馬鹿にしてたし、孫くんは下級戦士だっていつも見下してるし」
「うっ…」
どうやら無意識のうちにブルマに向かって同じことをしていたらしい。
本人は一々覚えていなかったが…。
「でもそういうアンタだから惹かれちゃったのかもね」
「……?!」
何かとんでもない発言が妻から飛び出たような気がする。
いつも自分の生まれを鼻にかけ、他人を見下し馬鹿にする、そんな男だから惹かれたかもしれない?
それではまるで自分の事をマゾヒストだと宣言しているようなものだ。
ドM。の妻……。ぞくぞくしたようなものがベジータの中を駆け巡る。
わ、悪くない。とても甘美な響きだ。妻もそれを望んでいるのかもしれない…。
「アンタ…今度はちょっと不気味よ。その顔はやめて!」
ぶるっと肩を揺らしたブルマに彼はもう遅いと内心ニヤリとした。
「もう本当、やらしいんだから!でもね…」
ブルマはそっと手を胸に当てて目を閉じる。
「偉そうで無礼極まりないアンタだけど、どうしても放って置けない。気になって仕方がないの。そんなアンタが大好きよ。ベジータ…」
彼女は何度も彼を愛していると言った。
何度も好きだとも言った。
だけどそれまで彼女が口にしたどんな言葉よりもベジータの心に届いたかもしれない。
この女は彼の欠点も引っ括めて自分の全てを受け入れてくれる。
そんなところを彼も愛しく思う。
トランクスには彼女のこういうところを受け継いで行って欲しいとベジータは心からそう思った。

やはり彼らのサラブレッドにも教育は必要だ。
彼女の言う通り過度な教育の強要はしなくとも…。


おわり



- 8 -


[*前] | [次#]



TOP


Elysium