ぎるぎる 5


『きみが自分で決めた事だ。失いたくないものまで賭ける道を選んだのはきみだ』
『そしてあなたは勝つことを選択した』
『若い時にこれほど貴重な教訓を得られた事を感謝するんだな。今着ている服と空っぽの家しか残らなかったのは可哀想だが』

「……ギルル〜」
テレビ画面の中で繰り広げられているドラマに見入っていたギルは気の毒な青年に同情して悲しみの感情を声に表した。
どうやら自分の力を過信しすぎた彼は自分が嵌められているとも気付かず欲に目が眩み全財産を賭けた大勝負にでて大負けしたらしい。
欲に目が眩み……。
あの時の自分もそうだった。
美味しそうなご馳走を前に自分の欲望を満たす事しか考えられずキケンなものに手を出してしまった。それと引き換えに失った自由…。
ただ一つ言えるのはギルは決して誰かに騙されて彼がそう行動するように仕向けられたわけではない。それが唯一の救いだろうか?
でも、やっぱり失ったものは大きいと思わずにはいられなかった。
「ジゴウジトク…ジゴウジトク…」
トランクスはそう言って助けてはくれなかった。
きっとベジータがコワイからなんだと思う。
ギルは流せないはずの涙を今なら流せるのではないだろうかと思った。
正直、逃げたい。彼がくる前に。けれど逃げて良かったと思えたことなど今の今まで一度もなかった。
逃げたら逃げた分だけ苦しい時間が伸びるのだ。素直に従っておく方が身のためだろう。
トランクスは心配しなくても破壊されたりはしないと言った。
けれど何度、もうダメ…かもしれないと思ったことか……。
今はまだ大丈夫でもいつか必ずその日が来ると思う。これは確信だ。
「あら?ギル、こんな所にいたのね」
リビングでテレビを見ていたギルのもとにブルマがやってきた。
アンタ、テレビなんか見て、この物語理解してるの?凄いわねと感心している。
「そうそう、ベジータが探してたわよ」
その台詞にギルは魔の時間が刻一刻と迫っているのだと感じた。
「ブルマ、タスケテ…ギル、コワレル……。」
もう頼みの綱はブルマしかいないとばかりに泣きついた。涙は出ていないけど…。
「あ〜よしよし。大丈夫よ。ベジータだって壊れるまでアンタを酷使したりしないって。」
「デモ…コワイ…」
ここまでギルが嫌がるなんて重力室の中では一体どんな修行が繰り広げられているのか。ブルマには想像すらも恐ろしくて出来やしないと思った。
しかし、ギルが拒否をすればするほど彼には良くない事が起きるだろうとブルマ思った。それを彼に諭す。
それでもイヤイヤとギルは嘆いた。
「もう、ほら、そんな嫌な顔しないで!今日の修行が終わったら美味しいものが沢山食べられるようにしとくから!ね?」
試したいことも有るしとブルマは言う。
他のマシンの機能を自分に取り入れる事ができるギルの能力はブルマにとってもいい研究対象だった。
だからギルには今まで色々な物を食べさせてきた。
それこそギルが大喜びしそうな美味しい食事ばかりを。
現に今も彼女の言葉に喜んでいるギルが空中でくるくると回っている。
「ゴハン!ゴハン!オイシイゴハン!ギル、ガンバル!」
ギルは宣言した。全くこの子は現金なんだがらとブルマは呆れたように言った。
「ほう〜今日は随分とやる気のようで安心したぜ」
「!?」
一体いつの間に現れたのか?ベジータは見つけた標的にニヤリとした表情を向けてリビングのドアにもたれ掛かっている。
さっきの宣言は何処へやらギルは逃げようと窓に向かって飛び始めた。
しかし、いつもの事ながら直ぐにベジータに追い付かれかたと思うと同時に足を掴まれてしまう。
「ギッ…!!」
そしてまた逆さ吊り。ギルはそのまま重力室へと連れて行かれてしまった。
それを見てブルマはフフッと笑う。
「生き生きしてるわね、ベジータ。とても楽しそうよ」
時が経てば人も変わる。
昔のベジータも好きだったけれど、今の彼はもっと好きだ。
ただちょっとギルには気の毒だけど。出来ればもう暫くは彼に付き合ってあげて欲しい。
「さてと…私も頑張らなきゃ!」
ブルマは付けっ放しになっているテレビの電源を落とした。


おわり



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