シャイロック・ベネット

 もしもシャイロック・ベネットと会話を交わせたとして、胸を高鳴らせない者はそういないのだろう。きっと誰もが恋を知ったばかりの幼い心で、彼と話すことになるのだ。
 色気と優美に満ちた彼の全てから紡がれる言葉は、どんなものだって喜びをもって迎えられる。
「否定の言葉を吐くのは容易いが、肯定の言葉を吐くには知識がいるのさ」
「教養がある者の周囲には、その人と会話することで己を教養深く見せたい者に溢れているそうだね」
 世界の全てを暴きたがる世紀の知恵者は、かつて私に向かって気まぐれな言葉を寄越した。ああこれだから魔法使いと会話するのは勇気がいるのだ。彼らが知識深く聡明な魔法使いだと、見ているだけで分かってしまうから。
 きっと今夜もシャイロックは、そうと気づかせぬまま客を気持ちよく酔わせる。愚かな大衆のひとりだと分かって尚、焦がれる気持ちが止められない。燃えさかる火に焼べられる虫とは、今このとき私の形を指すことだろう。



2022/01/23 魔法使いの約束 
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