窮鼠は雌猫を噛めやしない
イルーゾォは背が高い。筋肉だって程よくついているし、そもそものリーチが男女じゃあまったく違う。甘い顔のつくりは整ってはいるけれど、男性らしい精悍さが全面に押し出されていて女と見紛うはずもない。
きっかけは覚えてないが、いつもとは違うイルーゾォの一面を見てみたい。そんな好奇心が始まりだったように思う。
「そんでねイルーゾォ、私そんなアンタの女の子みたいに可愛い顔見たくなっちゃったの!わかるでしょ?」
「なまえが何言ってるか、まったく理解できねえな」
「そう、私もキチンとわかってないし、おあいこさまって事で手打ちにしましょうね」
イルーゾォは今、私のベッドの上で手足を縛られて転がされていた。スタンドで逃げられないように鏡も窓も隠して、部屋を照らすのは気まぐれに買った間接照明だけだ。
それにしても、私とイルーゾォのスタンドの相性が最高で良かった。視界を奪う私のスタンドは、イルーゾォに鏡を認識させずに私が優位に立つことが出来る。能力で視界を奪って、移動はスタンドに持ち上げさせて、成人男性を誘拐するのもお手軽に出来てしまうのだから、スタンド様々と崇める他ない。
「なまえ、何か俺に言いたいことでもあんのか」
「言いたいことっていうよりは、見たいものっていうかさ……」
一応世間的には恋人とカテゴライズされる私たちの関係故か、イルーゾォの反応は拒絶よりも困惑が色濃い。 愛されているのは嬉しいが、暗殺者なのだからもっと殺す気で反抗しても良いのに。
まあでも、そんな様子も可愛くってたまらないと背筋をゾクゾクさせてしまう私も同類だ。
子供にするように口づけを数度落とせば、手足を縛られていても受け入れてくれるのは彼の美徳だ。そのまま口付けていると、擽ったそうに微笑みすら湛えて身を捩るのが目にはいる。瞬間、私の中の何かがプツリと切れた。ああ、ああ、可愛い!
「おいで、私の素敵な子!」
「ハァ!? なんでスタンド出して、おいテメエ、なまえ!」
「アンタが可愛いのが悪い、イルーゾォ!」
スタンドで視界を奪ってしまえば、イルーゾォが頼れるものは感触しか無い。身体の自由が効かない彼が、数度見えてない瞳を困惑げに動かしたのを見て私はご満悦だ。
「イルーゾォ、私アンタのこと好きよ、大好き!ずっと一緒にいるためにも、お互いの事をもっと知るべきよ私たち!」
「さっきから説明になってねえんだよ!おい、聞いてんのか!」
喚きたてるイルーゾォの腹に跨がれば、流石に空気の変質したことを気取ったらしく、するすると語気が弱まっていく。
その幼気な困惑が、これから扇情的な欲に染まっていく様を見れるのは、この世で私だけなのだ。カーテンの向こうは太陽が照りつけているけれど、そんなの知ったこっちゃあない。私は愛しい恋人の女の子みたいに可愛い様を、これからこの脳髄にしかと焼き付けるのだ。
幼い子供にするように、音を立てて額にキスをしてやってから。イルーゾォのベルトに手をかけた。