「む!」
ぱち、と目が覚めた時、わたしは布団の上に寝かされていた。ゆっくり体を起こす、周りには誰もいない。部屋の中は薄暗くて静かだ。
「…あれ?」
いつのまに部屋に戻ったんだろう。記憶を辿ろうと頭を振ったとき、ふと胸のあたりが熱くなった気がした。見てみるとそこにはあのお地蔵さん。はっと思い出す。そうだ、あのおばあさん、
「未来からきたって…」
わたしはおばあさんの話を聞いて意識を飛ばしてしまった、のか。いやあんな突拍子もない話されたら意識も遠のくよ。信じたわけではない、でもおばあさんの言い分には思い当たる節が多々あった、というか思い当たる節しかなかった。だからといってそうかここは過去の世界なんですねなんて易々受け入れらるかと言われればそれもまた無理難題だ。だって、そんなこと有り得ないじゃないか。
「もしや盛大なドッキリ…?」
わたしみたいな一般人にこんな大掛かりなどっきりする意味もわからないけど。
とりあえず、どうすればいいんだろう。わたしの住んでた町はないとも言っていたなあ、それが例え嘘であっても今現在わたしの町は見つかってないから帰るに帰れない。
協栄丸さん達はどうしたんだろう。あんな変なおばあさんと関わりのある怪しいわたし、さっさと出ていけ!とか言われてしまうだろうか。それはそれで仕方ないが、悲しい。少しは仲良くなれたと思ったのに、嘘つき扱いされて出て行くことになるなんてなあ。恩を返すつもりが最後まで迷惑かけて終わってしまった。申し訳ない。ここを出たらやっぱりあの宿舎ってところに行くしかないのかな。でもそこでどうすれば?家がないっていうのが仮に本当だとしたら、わたしそこで一生を過ごすの?そんなの絶対に嫌だ、わたしには家族も友達もいる、仕事だってやっとできるようになってきたのに、こんな見ず知らずの地で浮浪者の人と一生過ごすなんてお断りだ。
「お地蔵さん、お願いします…わたしをもといた場所に返してください…」
布団の上にお地蔵さんを置き、祈る。人間最後は神頼みである、必死になむなむと手を合わせているとからっと襖が開かれた。
「おう、目が覚めたか」
やってきたのは疾風さん、ちいさいお地蔵さんに土下座して手を合わせるわたしを見て破顔する。
「何やってんだおめぇ…?」
「い、いやちょっと神頼みを…」
そ、そうかと若干引かれたがお頭がお呼びだといわれ部屋を出る。お地蔵さんも一応袂に入れておいた。はあ、追い出されるんだろうな。
「日向。気分はどうだ?」
「はい、大丈夫です。意識もはっきりしてます」
協栄丸さんの部屋には疾風さん、由良四郎さん、あと数名。たぶん協栄丸さんの側近、なんだろう。皆いかついお顔つきをしている。迫力あるな、ちょっと怖いよ。なんて思っていられるあたり余裕がある、追い出されるのがわかっているからだろうか。
「鬼蜘蛛丸が部屋まで運んでくれたんだ、後で礼を言っとけ」
「エ…あ、はい。わかりました」
お、男の子に運んでもらったとは。ちょっと恥ずかしい、重いなこの人とか思われてたら死ぬ。ちゃんと謝っておこう。
「急に倒れるから驚いたぞ。いやその前からかなり驚きの連続だったが」
「は、はは…そうです、よね」
「で、単刀直入に聞くがな、お前は本当に未来から来たのか?」
うっきた。そう聞かれるのは当然なんだけど、いざ尋ねられると答えに困る。自分の中でもまだはっきりとは認められていないんだから。
「わたしは…はっきりとはわからない、というのが正直なところなんです」
「ふむ…。仮にお前が未来から来たとして、そう思える節は何かあったか?」
多々ありました、信じ難いですが。
「それにお前はここにきた時も不思議な格好でよくわからん言葉を口にしていただろ。あれは未来のものなんじゃないのか」
おっしゃる通りです。本当にここが室町時代ならわたしは未来から来たってことになるし、服も電話も警察も全部未来のものってことになる。認めたくないが認めざるを得ない、ゆっくり頷くとどこからともなくため息が聞こえた。疑われているのか、頭のおかしい女だと思われているのか。「日向の未来はこの時代よりずいぶん進んでる世界なんだろうなあ」
なんて呟きも聞こえてきて悲しくなる。やっぱり嘘でもそんなことありませんわたしはこの時代に生きてる人間ですって言えばよかった。
やがて居住まいを正した協栄丸さん、思わずびくりと体が震えた。ああ、死刑宣告。
「日向、いいか」
「は、はい…」
「ここはお前が生きてたところより不便なことが多いだろうが、困ったことがあればみんなと協力してくれ。そうすればどうとでもなるさ」
「はい…すぐに出ていきま…え?」
ばっと顔を上げる。今なんて?
「できるだけ不自由させないようにはするけどよ、どうしてもってこともある。そこは勘弁してくれよ」
「え、あの」
「ただしだ、働かざる者食うべからず、ここにいる以上は炊事洗濯掃除もしてもらうぜ」
にっと笑う協栄丸さん、言われてる意味がわからず目を白黒させる。
「ど、どういう…え…?」
「つまりだ、ここにいるからには手伝いはきっちりしてもらうってことだ」
「そ、そうじゃなくて!」
「ん?なんだ文句あるか?」
「いやだってわたし未来から来たとか意味わからないこと言ってるんですよ?!600年後の世界がどうのって」
「そうだな」
「頭おかしいとか、あ、怪しいから追い出そうとかって思わないんですか?」
「日向は嘘はついてないだろ?」
控えめに頷く。
「ですが…こんな得体の知れない人間を置いておいてもメリットなんて何もないんですよ」
「得体は知れないが俺は日向はいいやつだと思うぞ。だからお前を館において後悔するってことはないとふんだんだ」
「どうして」
「ん?勘だな」
勘、て。呆然と協栄丸さんを見つめる、周りの面々も意義はないようで、しっかりと頷いている。その様子を見てふと義丸くんの言葉が蘇ってきた。兄貴達の人を見る目は確かだ、って。
「でもわたし…」
「なんだ、お前はここにいたくないのか?こんなむさ苦しいとこは嫌か?」
「そういうわけじゃ」
「無理強いすることはしねぇがよ、お前さんが未来から来たってんなら行くところもねぇだろ。だったら遠慮はいらねぇ、ここにいればいいじゃねぇか」
こんなことありえますか?お頭純粋すぎではないでしょうか、そんな器広くて大丈夫ですか?
「お前が未来人だから助けるわけじゃねえ、困ってる奴はそのまま見過ごせねぇんだよお頭は」
疾風さんたちもそう言ってくれる。
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