「あ」
「!!」

久々知、くん、に出会ってしまった。こっちをみるなり微笑んで近づいてくるその姿はまさに王子様、だけど。わたしは知っているのだ、知ってしまったのだ。この爽やか笑顔の少年は、彼は、人間、じゃない。

「そんなに怖がらないで」
「こ、こないで」

さささっと距離を取ったわたしを見て久々知くんは苦笑いしている。その間にもキョロキョロあたりを見回す、人通りの少ない廊下、でも人が全くいないってわけじゃない。大声出せばすぐ誰か気付くはず。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
「信用できません」
「もうあんな真似しないってば」
「こないで!1m以内に入らないで!」

まいったな…と呟く久々知くん、当たり前である。昨日の今日で、あんな怪しげな術かけといて、もうしないよ〜なんて言われてほいほい警戒とくほどアホじゃないぞ。

「…わかった、じゃあ場所変えよう」
「場所?」
「人がいるところならいいだろ。ついてきて」

別についていく必要なんて全くないけど、わたしの返事も聞かずに踵を返した久々知くん。どうすべきか悩んでいると、ほら、はやくと声をかけられた。なんだよ、本当にわたしついていく必要なんて微塵もないんだからな。

「食堂でいい?お昼奢るよ」

…し、し、仕方ないな!




「昨日はごめん。調子に乗りすぎた」

学食。別についてきたわけじゃない、ただ、お昼時で、まだご飯を食べてなかったから。仕方なく、仕方なく来ただけである。斜め向かいの席に座ったわたしを相変わらず苦笑いしながら見つめる久々知くんの前にはシンプルな和風定食。対するわたしはがっつり焼肉定食。お腹空いているのだ、仕方ないのだ。

「稲荷の加護があるんだよな。ちょっかい出して悪かったよ」
「…久々知くん、何者なの」
「…まあ、想像してる通りだよ」

いただきますと手を合わせて、久々知くんは綺麗な所作で冷奴を切り分けた。真っ白い豆腐、それに負けないくらい白い手。昨日、一瞬見えた真っ白い久々知くん。こうしてると普通の人間だ、でも、やっぱり人間ではないのだろう。どういう類の妖怪、なのかはわからないけど。

「雪男だよ」

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