初恋0
「女性としての幸せが欲しいとは思わないのか?」
目を逸らしながら主人が問いかける。女という性に生まれたことを呪ったことはあっても、女であってよかったことなどこれまで一度も経験したことがない。それを知っているからか、彼はそれ以上は何も言わず沈黙した。
いつの間にか日も暮れ、室内は薄暗くなっていた。どさ、と二人一緒に倒れ込む。慌てて起き上がろうと力を込めて、その腕を引き止めるように触れた彼の掌に全てを悟った。
静かに見上げると、
「…すまない」
見たことのない、苦しくて辛そうな顔で、彼はそう呟いた。
過去を知らないわけではない。その逆だ。あの地獄にいたわたしを救い出したのは他でもない彼なのだから。あの地獄で、わたしが何を見て、されて、生きてきたのか。その全てを彼は知っている。
その上で、わたしに触れたいと、そう主人が思っているのならば、拒めるはずなどない。元より、拒むつもりもない。
「お前が、もう悲しまないように」
彼はそう言って、泣きそうな顔で笑った。約束、しよう。そう言って差し出された小指。教えてくれたのも彼だった。しっかりと絡んだ小指に、二度と解けないようにと願いを込めて。
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