「鬼ごっこをしよう、日向」

は?と目の前の男を見る。笑う男の後ろには、同じ黒いコートを着た男が2人。不適に笑いながら、それでも逃す気はないと向けられた視線が刺さる。

「俺たちに捕まらずにこの屋敷から逃げ出せれば、お前は晴れて自由の身だ。何処へでも好きなところへ向かうといい」

何故、こんな状況で、そんなことを?形勢は明らかに向こうが有利だ。今だってわたしの足には鎖が絡み付いている。僅かな足を引こうとしても、あそびなく繋がれた鎖のせいでろくに動かない。真意を測りかねると猜疑に満ちた目を向ける。

「もちろん、捕まったら屋敷からは出られない。ちょっとした実験に付き合ってもらおう」

冗談ではない。

「何をっ…!?」
「種を植え付けただけだ」

人間の欲望に反応して育つ種。きっかけが無ければ芽も出ず、成長もしない。光の守護者というくらいなのだから、それくらい耐えられるだろう。

体が熱い。腹の奥から急速に湧き上がる何かに、耐えきれず膝をつく。自分の体をぎゅうと抱きしめて、何とか不可解な熱を堪えるものの、その疼きは奥から溢れてやまない。ぽたりと嫌な汗が流れた。息も荒くなる、この、熱は。ごつり、目の前に黒いブーツが現れる。顔を上げることすら熱に阻まれうまくいかない。けれど。同じ目線に膝を折った男、ゼアノートはぐいと顎を掴む。無理矢理視線を合わせられると、また腹の奥底がずくりと疼いた。
咄嗟に腕に噛みつくと、ゼアノートがおや、と感嘆の声を漏らした。気にせず、必死で歯を立てると、増す痛みとだらりと垂れる血液。口の中にも鉄の味が広がるが構ってなどいられない。あの種の仕組みがわかった以上、痛覚で意識を逸らすくらいしか今のわたしには抵抗手段がない。

「痛みで気を紛らわすか」

紛らわす、その言葉を聞いて、この男の狙いがようやく分かった。ぎりぎりと歯を立てる力を強くする。ぽとりと血が床に落ちた。

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