2-1
「あのー…ダンテ…さん」
「なんだ?」
しばらくしてからデリバリーのピザを持って部屋に戻ってきたダンテさん。片方だけ手錠を外してもらったので空いた片手でピザを食べているが、居た堪れない。なんか囚人みたいだなわたし。何にも悪いことしてないのに。
「ちゃんと大人しくしてたな。いい子だ」
戻ってきて第一声、繋がったままの手錠と足枷を見てそう笑ったダンテさんに引き攣った笑いしか返せない。ダンテさん、とか30分前のわたしなら大笑いする呼び方だけど今となっては恐怖の対象でしかないためこんな呼び方である。だって18年前とはまるで別人じゃないですか、目覚めの一発も相当だったけどさっきの逃げるなら殺す発言もなかなか迫力ありましたよ。
やけにオリーブの載ったピザを平らげ、それとなく切り出してみた。
「わたし、18年眠ってた…んですよね」
「ああ」
「その間、わたしの家とかってどうなってるのかなって」
「なくなったぞ」
「なく…はあ!?」
目覚めたら家無し?なにそれ辛い。家の話題から自然な流れでお家に帰ります作戦が根本から崩壊した。起きてからの世界わたしに辛く当たりすぎじゃない?
「お前が居なくなって2ヶ月、家賃滞納で追い出されたしな」
「ひ、ひどい、わたしの城が…あ!そうだわたしどうなってた…んですか?いなくなったっていうか、悪魔退治いったあとの記憶あんまりないんだけど…ですけど」
ダンテさんも今度いなくなったらとか言ってたけど、わたし悪魔にやられたわけ?
答える前に、苦笑いしながらとってつけたような敬語はやめろと言われて素直に従う。確かに慣れない、無理だと若干感じていた。
「依頼主と悪魔が裏で繋がってた。お前は騙されて仕事に向かって、罠にかかった。そのまま時間を止められて、依頼主の変態野郎に隠されてたんだよ」
「は、はあ…」
変態野郎に隠されてたって。なんか変なことしてないだろうな。されてなくてもぶっ殺してやるが。
「その依頼主と悪魔は?今どうなってるの?」
ダンテはふっと宙を見て笑った。それからわたしの頭を撫でる。
「お前が気にすることじゃねぇよ」
いや思いっきりわたしに関わることだし気にすべきことだと思うんだけど。なおも問いかけようとしたけれど、ダンテがいいな?と圧をかけてくるのでどうやら彼はとってはあまり触れたくない部分なのだと察し、こくこくと頷く。
…よくわからないけどこのダンテの様子を見てると碌な目にはあっていないということは想像に難くないし、ここは引き下がっておくか。後々探ってみよう…この拘束が解ければの話だけど。
そんなダンテがわたしを見つけたのはつい最近らしい。18年間探してくれていたときいて少し感動した。
「それはご迷惑おかけしましたね…」
「まあな。だがこうして戻ってきてくれたんだ。それだけで十分さ」
残っていたオリーブの実を摘んでわたしの唇に押し付ける。下手に対抗してまた恐ろしい目にあうのも嫌なので、大人しく口を開けばそのまま実を押し込まれ、なんだか子ども扱いされているようでなんとも言えない気持ちになる。好き嫌いしてるのはダンテだけど、満足そうだ。あーあ、世話焼かれるなんて、すっかり立場逆転しちゃったなあ。
「わたし、ここに住むの?」
「家もないしな。ちょうどいいだろ」
たしかに家がないならありがたいけど。でも住むからってそんないろいろ制限されるのは嫌だぞ。記憶はなくても18年拘束されてたならなおさらだ、自由に過ごしたい。
「こんな拘束されてたら生活できない」
「繋いでおかないとお前はすぐふらふらいなくなるだろ。18年前からそうだった」
「だからってこれはやりすぎだって。これじゃ家どころか部屋からも出られないし、着替えもできないんだが」
「手伝ってやるよ」
どんな誰得羞恥プレイだ。手錠を外してくれれば万事解決だぞ。
「たたでさえ迷惑かけるのに、こんなふうに繋がれてたらますますめんどくさいでしょ」
「あー、昔はお前が俺の世話焼いてくれたからな、その礼だと思ってくれ」
くそ、迷惑になりますから…作戦は効かないか。じゃあ次。
「人に見られたら通報されるぞ」
「人の目にはつかねぇから心配するな」
犯罪者みたいなこと言ってる。実際これ犯罪だけどね、この悪魔には警察とか全く効果ないみたいだ。
じゃあ直球で。
「…お願いだから外して?」
「だめだって言ってるだろ」
くっそーこのおじさんまるで譲る気ないぞ。最初は単なる冗談というか、18年もいなくなりやがってお仕置きだ、みたいな感じかなと思ってたけどダンテの様子を見るにどうやら本気らしい。はっきり言って異常だよこの状況。
このままだと本当にベッド生活になってしまう。それだけは回避したい、仕方ないけど妥協案だ。
「…わかった。じゃあ百歩譲って手錠は付けたままでいいから、せめてベッドからは外して、足枷も」
今だって片手は外してある、まだだいぶ不便だけどベッドに繋がれた状態よりはましだ。
「事務所から出なければいいんでしょ。それは守るから、だからどこかに繋いでおくのはやめて」
がシャリと頭の上の手錠と、足枷に繋がる鎖を鳴らす。本当ならすぐ飛び出したい、でも我慢してやる、手錠は保険ってことでつけといてやるから、だからダンテも妥協しろ。そんな意味も込めて半分睨みながら頼み込む。
「…その時が来たら外してやるから、少し我慢しててくれ」
「は…?」
その時?その時ってなんだよ、どの時だよ。曖昧なことしか言わず、首を縦には振らないダンテに歯噛みする。なんでそんなにわたしを拘束しときたいんですかね、わたしそんなに心配かけるような人ですか?たしかに18年寝てたかもしれないけど、それ以前はむしろダンテの方がわたしに心配かけてたのに、なんだよ急に年上ぶって…実際年上だけどさ。そんな心配されなくても平気だっての。で、その時って何?いつ?明日?
そうは言いながらもダンテは足元に移動すると、かちりと足枷を外した。驚いてそちらを見れば、ひょいと肩に抱えあげられ、思わずダンテの背中にしがみつく。
「だっダンテ?」
「とりあえず、風呂入ってこい」
「はっ…風呂?」
肩に担がれたまま部屋を出る。あっさり部屋の外に出してもらえて拍子抜けした。な、なんだ、お風呂とかは出してもらえるのか。
たしかに時を止められていたとはいえ18年間お風呂はいってないって相当だな…と思いながら廊下を進む、やっぱり18年前とはいろいろ違う。昨日のことだけど、どこか懐かしいような。一階に降りると事務所を通り過ぎてバスルームに降ろされた。
「ほら、使え」
渡されたのは男物のシャツ。わたしの着替えがないのはしょうがないから、ありがたくお借りしよう。が、わたしまだ片手に手錠つけたままだぞ。
「片手なら問題ないだろう」
「今くらい外してくれてもいいじゃん」
「そのまま服も脱がしていいなら外してやる」
バンと戸を閉め、大きくため息をつく。戸の向こうでダンテが笑った。はああ、調子狂うな。前のダンテならチョークスリーパーかけてやるところだけど、一応年上だし。いまいち今のダンテの性格というか、考えてることがわからない。今みたいにジョーク言うこともあれば殺すとか言うし。18年て人を変えるのね。
バスルームは18年前と変わらない。なんとか服を脱いでコックを捻ると、熱めのシャワーが降りかかる。ぼたぼた濡れながら、18年前のダンテがやけに恋しくなった。