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顔を上げるより早くぎゅうと抱きしめられる。身動きできないくらい強く抱きすくめられて、しかもその相手が誰だかわからないなんて軽くパニックだよ、わたしに寝起きドッキリなんて誰得。というか、強い、本当に強い。ミシッと体が悲鳴をあげる。背骨折れるんじゃないのこれ。
「ダンテ、お嬢さんが苦しそうだぞ」
と、助けが入った。誰の声かはしらないけど、身を案じてくれているようで助かる…けれど全く現状変わっていない。微塵も力は緩まない。ダンテさんとやら、このままだと本当にわたしの体が…って、今なんて?
なんとか胸元に押さえつけられていた顔を上げる。目に入ったのは赤いコート、それから銀糸の髪。それらの組み合わせに、一人の知り合いが頭をよぎる。体つきはまるで別人だ、けれど、気付いた時には口から勝手に言葉が滑り落ちていた。
「ダンテ…?」
そう呟いた瞬間、ばっと男がわたしから腕を離した。かなり驚いた顔をしている。そしてそれはわたしも同じ。解放された体に咳き込みながら深く息をしつつ、自分自身困惑していた。今、わたしなんて言ったの?
呼吸を落ち着けて目の前の男を見上げる。こちらを見つめるブルーの瞳は彼と同じだけれど、年齢が全然違う。でも、どうしてだろう、やっぱり感じるのは彼とよく似た雰囲気。お兄さん、はちがうから、親戚?お父さん…はまた違うはず。じゃあ、ダンテのファンかな、コスプレみたいな。いやでもこの人顔もかなりダンテに似てる。ダンテが十何年したらこうなるんだろうなって、それくらいに似ている。ダンディズムというのか、大人の色気というか。
思考している間に、男の人の目がすっと細められる。感慨深そうにわたしを見つめている、気がする。
「日向」
名前を呼ばれて、あれ、なんでわたしの名前をなんて思っている間に再び手が伸ばされてきた。再度ぎゅうと抱きしめられる。当然2回目も苦しい。抵抗しようと背中に回した腕で背中を叩こうとしたとき、ぽそりと耳元で男が呟くのが聞こえた。
「よかった…よかった、日向…」
懇願するように背に回した腕に力が込められる。思わずわたしも体の動きを止めてしまった。どうしてそんな、そんな呼び方するの。わたしの名前だって、どうしてしってるの。
ますます困惑してしまう、わたしこの人に何かした?何が何だかわからないけど、知らないところで迷惑かけていたのだろうか。年上の、この人くらいの知り合いなんて記憶にないんだけど、でもこの人の様子尋常じゃないし、わたしが忘れている可能性が大きい…だとしたらこんな顔させちゃって、かなり申し訳ないぞ。うーん、誰だったかな…。
あれこれ考えている間に、確かめるように頭、首、背中と下っていく大きな手のひら。その撫で方が、また彼と被る。
「あの」
「あ?」
「どちらさま…ですか?」
失礼だとは思うけど、思い出せないものは仕方ない。恐る恐る聞くと男の人は一瞬怪訝な顔をした。が、すぐふっと表情を緩めると、私から離れる。
「俺がわからないか?」
「…ごめんなさい」
「…無理もねぇな。あれから20年近く経った」
ぽりぽりと頬をかく。困ったように笑いながら男は続けた。
「心当たりも?」
「知り合いに似ている…とは思います」
「知り合いってのは?」
「仕事仲間で。あなたみたいな銀髪に、赤いコートを着てて、それから…!」
言いかけてはっと目を見張る。笑みを浮かべてこっちを見つめる男の背には見覚えのある大剣。
「どうした?お嬢さん」
「そ、…の剣。どうして」
見間違えるはずない。
「俺の剣だ、昔からな」
「まさか、知り合いの得物です、どうしてあなたが」
「そのダンテが俺だからさ」
「ダ………え?」
ダンテ?
「お前の知ってるダンテは18年前の俺だ」
「え…な?」
「18年ぶりだな、日向」
ダンテ?18年前の俺?
「…言ってる意味がわからないけど、ダンテがいるならダンテに会わせてください。昨日の依頼の報酬を渡さないと」
「20年前の報酬なんざ今更さ。それにあの依頼は結局俺が片付けたんだがな」
「さっきから何言ってるんですか。あなた、ダンテの知り合い?いいから彼に会わせて」
「だから俺がダンテだって言ってるだろ」
話が通じない。何これドッキリ?ダンテにそっくりなおじさん出して、びっくりしただろー?ってこと?するわけないだろ。長いことダンテと一緒にいるけど今更こんなサプライズされるとは思ってなかった。悪い意味で。
「日向」
また名前を呼ばれる。だいたいなんなんだこの人も。確かにダンテには似ている、リベリオンも本物らしいけれど、おそらくはダンテの悪趣味に付き合うなんて。しかもしつこい。もういいってば。思っていることを察したらしく、おじさんは苦笑いしている。
「起きたばかりだからな、腹減ってるだろ」
「別に…それよりダンテを」
いい加減彼の顔を見せてもらいたい。見たことない場所だけど、こんな悪ふざけするなら近くにいるはずだ。
「そこまで熱烈に会いたがってくれるとは嬉しいね。だが生憎、会いたがってるダンテとは会わせられない、悪いな、お嬢さん」
わたしが文句を続けようとするより早く、食事を持ってくる、そう言って踵を返すおじさんが、ふと思い出したようにサイドテーブルを指差した。
「待ってる間暇だろ。そこの新聞でも読んでてくれ」
ごつごつとブーツを鳴らしておじさんは部屋を出て行った。ドア近くにいた別のおじさんも、一度こちらに笑いかけると自称ダンテさんに続いて部屋を出る。なんなの、あの人たち。敵意は感じられないけれど限りなく怪しい。いなくなった間に逃げた方がいいだろうか。
ベッドの上で、見慣れない部屋を見回す。物があまりないどちらかといえば殺風景な部屋。窓は一つ、外は薄暗いから、遅い時間なのだろう。
ふと、さっきの自称さんが指差した新聞が目にとまる。目を落とすと、何故だか違和感。知らない事件に、聞いたことのない政治家の名前。ぱらぱらとめくるものの、馴染みのない話題ばかり。どうしてだろう、新聞は毎日見てるのに。別の地域のものかな。わからないなりに記事にざっと目を通していると、不意に信じられないものを見つけた。
20××年?
今は19××年。誤植かな。新聞の日付に目をやり、また困惑する。こちらも日付は20××年。…どうなってるの。